[清谷信一]防衛省・技術研究本部に実戦的な装備は開発できるのか①〜リモート・ウェポン・ステーションとは何か?
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
防衛省の技術研究本部(技本)は自衛隊装備の研究開発の総本山ということになっており、年間約1700億円の予算を使用している。多くの納税者はさぞや先端的な研究開発がなされていると思っているだろう。だが、その能力には大きな疑問がある。だが、現実はその期待を大きく裏切っているのが現状だ。とても先進国の研究組織とはいえないレベルだ。
その好例が、本年(2013)10月29、30日の両日での技本の発表会「防衛技術シンポジウム」で公開されたRWS(リモート・ウェポン・ステーション)だ。このRWSは12.7ミリ機銃を装備しており、重量は銃、弾薬箱、リモコン除いて160キロ、銃、弾薬箱を含めると約250キロで暗視装置、ビデオカメラ、レーザー測距儀2軸の安定化装置などが装備されている。動力は電力で24Vを使用するが、バッテリーでも使用可能となっている。政策評価によると「主として小型装輪車輛に搭載」するとある。
(技本RWS:撮影筆者)
だがこのRWSの開発は疑問と問題だらけだ。
まずRWSについて説明しよう。RWSは90年代に将兵の人的損害に敏感なイスラエルで登場したシステムだ。機銃などの火器と、暗視装置、ビデオカメラ、安定化装置、レーザー測距儀、自動追尾装置などを組み合わせたもので、装甲車の車内から操作することが可能だ。通常の銃座のように射手がハッチから上半身を晒すことなく射撃が可能だ。
単に射撃だけではなく、周囲の警戒や偵察にも有効なシステムだ。RWSはソ連が崩壊し、非対称戦やPKOなどが増えてきた90年代半ばぐらいから各国が採用するようになっている。安価なものでは暗視装置や安定化装置などが省かれることもある。RWSの登場は装甲車、特に車長の損害を著しく減らすことに貢献している。このため現在ではトルコやシンガポールなどの新興国は勿論、ヨルダンや中国のような途上国でも開発、生産、配備が進んでいる。
RWSは陸上だけで使用されているわけではない。戦闘艦艇にも多数採用されており、標準装備となっているといっても過言では無い。2001年12月22日には、北朝鮮の工作船が海上保安庁の巡視船と交戦の末、爆発を起こし、沈没するといった事件が発生、このとき海保の巡視船が使用した無人砲塔もRWSの一種で、三菱重工長崎造船所が開発したものだ。
だが自衛隊では未だにRWSの使用は1台たりとも導入していない。
技本がRWSの開発を始めたのは2009年度からだ。12億円の予算が組まれ、11年度に試験などが終了している。開発は出遅れもいいところで、諸外国からトラック2周ぐらい遅れている。それも陸幕(陸上幕僚監部)からの要求はなく、単なる技術実証のために開発を行った。だが、既に製品として出回っているものをこれから一から開発しますでもあるまい。
20年前ならばいざしらず、中国ですら製造を行っており、技術的にはほぼ完成の領域にあるものを今更、技術実証する必要などはないのだ。
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