[藤田正美]中国の武力的「冒険主義」を思いとどまらせるのは「外交」しかない〜12月ASEANの首脳会談でのアジェンダ
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
アメリカのバイデン副大統領が、日本、中国、韓国を訪問中だ。安倍首相とは3日、1時間ほど話し合った。安倍首相は日米が緊密に連携を取りながら、中国による一方的な現状変更は受け入れられないと記者会見で語った。バイデン大統領もそれに歩調を合わせたが、中国ではどうだろう。
アメリカの威信は明らかに低下している。シリアでの失敗で、中東の同盟国はアメリカに見切りをつけた。オバマ大統領はアジア重視に舵を切ったが、中東の状態を見れば、アジア諸国もどこまでアメリカを信頼していいのか、やや疑問に感じるかもしれない。
同じように、日本の「アメリカ頼り」も限界があるだろう。尖閣有事ということになれば、アメリカ軍も動くだろうが、本気で中国と対峙する気はあるまい。もし米中が東シナ海で戦うというような事態になれば、それこそ世界経済は大混乱だ。何と言っても、GDPで世界第一位と第二位の国なのである。
中国も同じだろう。もし尖閣に戦争を仕掛けるようなことになれば、うまく占領することができても国際的には非難を浴びることは間違いない。そうなったら中国経済は大打撃を受ける。中国に新しくい資本を投下しようとするところが激減するからだ(大部分の日本マネーが引き揚げるだけでも大変だ)。まして中国の金融はいま綱渡りの真っ最中だけに、外国資本の安定した流入は、絶対に必要な条件なのである。
その意味では、中国が取り得る尖閣オプションは「絶対に諦めないが、決定的対立は避ける」ということだろう。フィリピンでやったように漁民が緊急避難で上陸し、自国民保護という理由で中国海軍が介入するというシナリオはあるのだろうが、それをやったら日本がどう反応するかは読み切れていまい。フィリピンと日本の違うところだ。
ただ中国でも、共産党指導部が軍部を完全にコントロールしているわけではない。そこがややもすれば戦前の日本政府と軍部の関係に近いような気もする。軍部は自分たちの意に沿わないと総理大臣をすげ替えるということも平気でやった。さらに軍部の中では、参謀本部と満州に駐留していた関東軍の間の意思疎通というか、指揮命令系統も普通ではなかった。関東軍の暴走である。
中国人民解放軍がそこまで横暴とは思えないが、「格差問題」で国内に不満が鬱積してくると、それが軍の中でエネルギーになる危険性があるということも歴史の教訓として忘れてはならない。まして今は、中国人民解放軍にとっては世界の列強に比するほど戦力を充実させている時代。サイバー部隊も含めて、日本の近隣諸国の中では群を抜いている。
そうなると、中国の武力的な冒険主義を思いとどまらせるのは「外交」でしかない。武力の行使はもちろん、武力で脅すことも、損得勘定に合わないという計算を中国にさせることである。外交努力を向ける先は、ひとつももちろんロシアだ。そしてもう一つはASEANである。
この12月には日本とASEANで首脳会議が開かれる。東シナ海における中国の防空識別圏問題も当然話し合われるだろう。ASEANにとっては南シナ海で同じことが起きるからである。しかしASEAN諸国はそれぞれの国のレベルで言うと、中国が強引にそれを推し進めてきても、反発する術がない。軍事力はもとより経済力でも中国を敵に回すことは不可能であるからだ。
しかもASEAN諸国は中国に対して一枚岩ではない。カンボジアやミャンマーは親中派だし、ベトナムは反中派だ。そうした国々を日本寄りに仕向けていく、それがこの12月の首脳会議の大きなアジェンダである。
【あわせて読みたい】
- 米国の「弱さ」を突いた中国の防空識別圏〜尖閣諸島の領空をも含んだ「挑発」(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
- 宮家邦彦の外交・安保カレンダー
- 近代オリンピックは欧米の歴史コンプレックスが源流だ(清谷信一・軍事ジャーナリスト)
- 中国の習政権、改革の「決意と現実」(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
- ユーロ圏が抱える根本矛盾〜銀行を一元的に管理する仕組みは可能か(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
- 国際社会の●●ランキング〜ロシアが1位で日本が57位(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
- 子どもをインターナショナルプリスクールに通わせるメリット(西條美穂・株式会社キッズインスパイアー 代表取締役/教育コンサルタント)