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.政治  投稿日:2026/4/3

北朝鮮最高人民会議第15期体制の特徴(上)


執筆者:朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

 

【この記事のポイント】

北朝鮮は第15期最高人民会議と労働党大会を通じて、金正恩体制への世代交代と権力集中を進め、「金日成・金正日離れ」を強く演出した。

・一部で噂された「国家主席就任」は実現せず、金正恩は従来通り国務委員長として再任され、権力不安説を否定する形となった。

・核兵器の永久保有と韓国敵視の姿勢がより明確化され、対外路線として強硬な安全保障政策が維持・強化されている。

 

コリア国際研究所所長を務める朴斗鎮氏が、北朝鮮の2026年2・3月の党大会と最高人民会議を経て確立された「金正恩第15期体制」を分析。金日成・金正日路線を脱却し、核武力強化と韓国敵視を鮮明にした新国家路線の本質と対外的な意味合いを深く考察する。(Japan In-depth編集部)

 

 北朝鮮は、2月の朝鮮労働党第9回大会と3月22-23日の最高人民会議第15期第1回会議を経て、金日成・金正日離れした金正恩時代を内外に誇示した。9回大会では、中央委員の52%中央委員候補の77%を入れ替え、金正恩時代に登用した幹部を中心に指導部を固めた。最高人民会議ではそれらの幹部を中心にして国家権力を構築した。

最高人民会議選挙では、普通の国家を装うためか、金日成独裁が確立した1960年以降初めて反対投票した有権者が0.07%」いるとした。しかしこれは候補者に対する反対であり金正恩に対する反対ではない。

この2つの行事を貫く軸は、金正恩の総書記及び国務委員長再推戴イベントであった。直近の労働新聞からは金日成・金正日主義の用語はほとんど消え去り、金日成を意味する「太陽」や金正日を意味する「光明星」との用語は使われなくなった。「太陽」は金正恩を称える用語として使われ始めた。

2大行事を通じて北朝鮮は、独り立ちした金正恩、金日成・金正日を超えた金正恩を演出した。


流布された金正恩国家主席就任情報

こうした北朝鮮政治の変化の中で、一部韓国や日本の北朝鮮ウォチャーは、金正恩の「国家主席就任」があるかもしれないと騒いだ。日本では、大手A新聞のM記者がそれを拡散させた。

 彼は韓国のある北朝鮮専門情報媒体に「近く金正恩国家主席誕生」なる「コラム」を寄稿し、要旨次のような主張を行った。

 ・「(憲法改正で)もし国家主席職位が新たに設けられれば、これまでの国務委員長職位が国家主席に置き換えられる可能性もある」

 ・「金正恩が金日成のような国家主席の職位に上がり、自身の権力基盤を象徴的に完成しようとする可能性も提起される」

 ・「金正恩は執権以後、第1書記、国務委員長、総書記など様々な役職を追加したり変更し、自分の権威を強化してきた。脱北したある元労働党幹部は“金正恩は権力維持に対する不安を持っており、側近たちも忠誠競争を繰り広げている。こうした利害関係がかみ合い、神格化作業と職位変化が続いている”と話した」

 ・「側近らは最高指導者の歓心を得るために新格化作業に積極的に乗り出したし、その頂点が国家主席職位である可能性があるという分析も出ている」

 ・「権力維持に対する不安が完全に解消されなければ、今後も新たな職位や権威シンボルを追加しようとする動きが続く可能性もある」。

 このコラムの趣旨は、一言で言って、金正恩の権力が不安定であるから職位を次々に上げ、ついには、金日成の「主席」称号を奪うだろうというものだ。怪しげな情報を自分の憶測につなぎ合わせて注目を集めようとしたのであろう。

しかし、このコラムの主張を嘲笑うかのごとく金正恩は再び国務委員長に推戴された。


核兵器強化と韓国敵視を強調した金正恩演説

金正恩国務委員長は最高人民会議の演説で「敵対勢力は核を放棄する何らかの代価を説教し、われわれに他のものを望んでいたが、今日の現実は敵の甘言を排撃し、核保有を逆戻りさせることができないように永久化したわが国家の戦略的選択と決断がいかに正しいものかをはっきり実証した」と核兵器を手放さないことを一層明確にした。

そのうえで、「自力更生と核武力強化の戦略的路線を揺るぎなく堅持し、しっかり貫く過程を通じて、わが国家は全社会的・全人民的な政治的・思想的統一を不敗のものに強化することがでた」と自力更生と核武力強化を掲げた戦略路線の勝利と正当性を主張した。そして「平和が軟弱さの現れではなく、強者の選択になるためには強力な力が伴われるべき」「国家の尊厳も国益も最終的勝利ももっぱら最強の力によってのみ保証される」と強調した。

韓国に対しては「特に、韓国を最も敵対的な国家と公認し、最も明白な言葉と行動で徹底的に排斥・無視し、わが共和国を侵す韓国の行為にはいささかの考慮や躊躇もせずに容赦なくその代価を払わせるつもりだ」と敵愾心を顕にしたが、米国に対しては、「世界の至る所で国家テロと侵略行為をほしいままにしている」と非難したもののトランプ大統領を名指した非難はしなかった。


改正憲法の内容は依然として公表されず

最高人民会議では、1972年以来使われてきた「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法」という名称は「朝鮮民主主義人民共和国憲法」と変更された。北朝鮮を普通の国家に見せるための金正恩の思いからの変更と思われる。

新たな金正恩時代の人事と組織の改変内容などは明らかにされたが、依然として改正憲法の内容は明らかにされなかった(改正された党規約も明らかにされていない)。しかし、統一戦線部元部長のチャン・グムチョルを外務省次官に配置したことから見て、韓国敵国条項の規定が盛り込まれたと考えられる。この条項が今もって伏せられているのは、統一放棄、韓国敵国、南北2国路線の法制化に対する北朝鮮住民感情や国際関係への影響が考慮されたのではないかと考えられる。

 それにもかかわらず、韓国の李在明政権は、あいも変わらず「北朝鮮の体制尊重、敵対行為・吸収統一は追求しない」などと金正恩に忖度し、金正恩の関心を買おうと躍起となっている。統一部長官の鄭東泳は、公然と憲法に抵触する発言まで繰り返し、北朝鮮人権問題までも無視しながら金正恩に媚を売っている。嘆かわしい限りである。

(下)に続く


■東アジア情勢を深く知るためのFAQ

Q. 北朝鮮最高人民会議第15期体制の最大の特徴は何か?

A. 朝鮮労働党第9回大会と最高人民会議を通じて、幹部の大幅な入れ替えが行われ、金正恩が登用した人材を中心とする体制が確立された点にある。これにより、金日成・金正日からの継承ではなく、「金正恩時代」としての独自の権力基盤が内外に示された。

Q. なぜ「金日成・金正日離れ」が強調されているのか?

A. 労働新聞などで従来使われていた「太陽」「光明星」といった表現が減少し、「太陽」が金正恩を指す言葉として使われ始めたためである。これは象徴的にも、先代を超える指導者像を演出し、独立した権威を確立する意図を示している。

Q. 金正恩の「国家主席就任」説はなぜ否定されたのか?

A. 一部で国家主席職の新設や就任が予測されたが、実際には従来通り国務委員長に再推戴された。本記事では、こうした説を権力不安定説に基づく憶測とし、結果的に現実とは異なった見方だったと指摘している。

Q. 金正恩の演説はどのような路線を示したのか?

A. 核兵器を「不可逆的な戦略選択」と位置づけ、放棄しない姿勢を明確化した。また、自力更生と核武力強化を国家戦略として正当化し、韓国に対しては「最も敵対的な国家」として強い対決姿勢を示した。一方で米国に対しては批判はしたものの、直接的な名指しは避けた。

Q. 憲法改正の内容が公表されない理由は何か?

A. 憲法名称の変更など一部は明らかにされたが、具体的内容は依然非公開である。記事は、韓国を敵国とする条項などが含まれている可能性に触れつつ、住民感情や国際関係への影響を考慮して伏せられていると分析している。

 


トップ写真)プーチン大統領(ロシア)と金正恩総書記(北朝鮮)の会談に関する韓国テレビ局の報道風景
出典)Chung Sung-Jun by Getty Images

 




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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