メディアへの本格統制に着手した李在明政権
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・昨年12月24日に韓国国会で、虚偽·操作情報根絶法(情報通信網法改正案)が可決された。
・同法案は国内外から「言論の自由侵害」と批判されている。
・韓米間の通商紛争に発展しつつある。
韓国国会は、昨年12月24日の本会議で、虚偽情報や捏造された情報を流布したメディア関係者やユーチューバーなどに懲罰的損害賠償責任を問えるようにする「虚偽·操作情報根絶法(情報通信網法改正案)」を可決した。この法律に対して国際新聞編集者協会(IPI)は、1月20日(現地時間)、「言論の自由を侵害し、権力乱用を監視するメディアの機能を制限する可能性がある」として法施行を中止せよと求めた。
この法案に対しては、すでに韓国の放送記者連合会、全国言論労働組合、韓国記者協会など五つのメディア団体が「国家による検閲システムを構築するもの」だとして糾弾する共同声明を発表している。
韓国の記者協会など言論団体や参与連帯などは、与党側が主張するフェイクニュースの相当部分は金於俊(キム・オジュン)など親与党系のネットメディアから出ているのに、こうした人々に対してはいかなる問題提起もしていないと批判した。野党「国民の力」はこの法案に猛烈に反対した。
■国際新聞編集者協会が深刻な懸念を表明
IPIは20日、インターネット公式ホームページに掲載した声明文で、「韓国の『新フェイクニュース防止法(anti fake news bill)』に深刻な懸念を表明する。市民社会とメディア利害関係者の人権影響評価のため、今年7月に予定されている法施行を一時中止するよう求める」と発表した。
IPIが施行を中止するよう求めた「虚偽操作情報根絶法」の核心は「他人に損害を与える目的」や「不当利益を得る意図」で「虚偽操作情報」や「違法情報」を掲示・流布したり、公益を侵害したりした報道機関・ユーチューバーなどに最大で5倍の賠償責任を負わせることだ。
IPIは声明で、何が『虚偽・操作情報』で『公共の害悪』なのか法の定義があいまいで、政府官僚や企業関係者がメディアを相手取り告訴しやすくなり、メディアが自己検閲を始めるという懸念が生じている」とし、「国会議員たちは『法案の広範囲な文言が韓国憲法上の明確性の原則に違反する。違憲だ』と主張してきた。国会議員や市民社会が求めた言論の自由に対するより大きな保護を明文化する条項は最終法案から外された」と指摘した。
事実、与党・共に民主党は情報通信網法改正を推進する段階で、副作用防止策として掲げた「事実適示名誉毀損(きそん)罪」廃止と「虚偽事実流布による名誉毀損に対する親告罪適用」を最終法案では全て外してしまった。
IPIはまた、「同法は政権党の強い影響下にある放送メディア通信委員会に法律解釈と適用の広範囲な裁量権を与えている」と指摘した。
事実、この改正法では、損害賠償請求訴訟の対象となるメディアやユーチューブ・チャンネルなどは大統領令で定めるとしている。主務部処は新たに発足した「放送メディア通信委員会」になる見通しだ。
IPIはさらに、「この法案に対する多くの批判が、これまで進歩系与党と軌を一にしてきた政府寄り団体・市民団体からも出ており、『韓国の法体系上、虚偽報道・ヘイトスピーチ(憎悪発言)被害者救済策が既にある状況で、過度に懲罰的であり、不必要だ』との声が上がっている」としている。
スコット・グリフィンIPI事務総長は同日、「IPIはこの立法が韓国の記者やメディアを検閲し、処罰するのにどのように使われるのか、強く懸念している。韓国政府は直ちに法施行を中止し、メディア界および市民社会と協議して、この法案が表現の自由や言論の自由などの人権に及ぼす危険性を独立的に評価した上で、立法内容を修正あるいは完全に廃止すべきだ」と強調した(朝鮮日報日本語版2026・1・23)。
IPIは、世界100カ国余りのジャーナリストや報道機関経営者、編集者で構成されている団体だ。1950年の結成以来、言論の自由を守る活動において国際社会に影響力を持ち、声を上げてきた。
■米国務省高官も公開質問
韓国与党が強行可決した「虚偽·操作情報根絶法」は、内外から「言論の自由の侵害」と非難されているだけでなく韓米間の通商紛争にも発展しつつある。
米国務省のサラ·ロジャース公共外交担当次官は昨年12月30日(現地時間)、ソーシャルメディアエックス(X)に掲載した文章で、「韓国の情報通信網法(Network Act)改正案は、表向きには他人の名誉を傷つけるディープフェイク問題を正すことに焦点を合わせたように見えるが、実際には適用範囲がはるかに広く、技術協力まで危うくする恐れがある」と書いた。 彼は続けて「ディープフェイクは明らかに深刻な憂慮対象だが、規制当局に内容検閲権限を付与するよりは被害者に民事的救済手段を提供する方式がより望ましい」と強調した。
虚偽·操作情報根絶法改正の参考になった欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)にも米国は批判的な立場を示してきた。今月初め、EUがテスラのイーロン·マスク最高経営者(CEO)のXに対する広告政策などを問題視して1億2000万ユーロの課徴金を賦課すると、米政府はDSA立法に関与した元EU執行委員など5人に対して入国禁止措置を下したことがある(毎日経済新聞 2025-12-31 )
■韓米通商摩擦に発展か
韓国の魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安保室長は1月2日、情報通信網法改正案(虚偽操作情報根絶法案)に関連して「米国側と意見交換があったが、米国の立場からは十分でないと見ることもあり得るだろう」と語った。法案の国会通過前から米国側の懸念があったが、きちんと解消できなかったということだ。
米国の抗議は、法案の国会通過直後、強硬に続いている。米国務省が昨年12月31日に「韓国政府が表現の自由を弱める改正案を承認したことに対し、重大な懸念を表する」とコメントしたのに続き、1月1日に予定されていた韓米FTA共同委員会の非公開会議が突如キャンセルされた。
米国は表現の自由への規制だけでなく、グーグル・メタなど米国のビッグテック企業がこの法律に基づく規制を受けることへの危惧もある。今回の改正法はプラットフォーム事業者に対し、「虚偽操作情報」をモニタリングして即刻削除しなければならないと定める等、責任を大幅に強化した。韓国政府が直接検閲するとなると法的な負担が大きいので、グーグルやユーチューブといったプラットフォーム企業に、論争の余地があるコンテンツをまず消させることを図ったのだ。米国企業の立場からは、韓国政府が気に入るようなアルゴリズムの運営を強要されることになり、この点について非関税障壁だと反発しているのだ。
かつて欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)導入時に米国が見せた強い反発を考慮すると、今回の事態は十分に予見できたことだった。それにもかかわらず、このように向う見ずに押し付けたことを巡って、「批判メディアを規制するためには友邦との通商摩擦も辞さないということではないか」という指摘が出ている(朝鮮日報1月3日付社説)
李在明政権は、反李在明言論に対する弾圧体制を法制化し、その矛先をこれまでコントロールが難しかった保守系ユーチューブ・チャンネルに向けようとしている。李在明政権とメディアの戦いはこれから本格化することが予測されるが、李在明政権対米国を始めとした国際社会との対立にも目が離せない状況となっている。
写真)新年前例記者会見に臨む李在明大統領 2026年1月21日 韓国・青瓦台
出典)Ahn Young-Joon – Pool/Getty Images




























