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.国際  投稿日:2024/12/25

金正恩体制は激変期を迎える【2025年を占う!】北朝鮮


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・2024年末の党中央委員会総会で、どのような対応策を示すのか注目。

・朝ロ関係の成果を誇示し、韓国尹大統領弾劾を煽り、李在明政権創出を試みる可能性。

・青少年世代への韓流の遮断と思想教育強化には特段の対応をするだろう。

 

2025年の北朝鮮動向は、内外情勢の複雑さから、これまでになく予測が難しい状況となっている。年末に開かれる党中央委員会総会での決定を待たなければならない部分が大きいが、あえて現時点で予測すると、そのポイントは

▲金正恩の先代指導者否定路線浸透状況

▲朝ロ軍事協力強化とロシア派兵の成否動向

▲韓国尹錫悦大統領弾劾支援と「共に民主党政権」創出のための様々な工作活動

の3点に絞られるのではないかと思われる。

■ 金正恩が路線を大転換した2024年   

金正恩体制の危機が深まる中で、北朝鮮は2024年に路線を大転換し、体制維持のための新たな政策を次々と繰り出した。

まず、首領独裁体制の要である最高指導者=金正恩の権威を高める新たな作業に入った。高級幹部を養成する党学校に、自身の肖像画を金日成、金正日と並べさせただけでなく、幹部たちに金正恩バッジを付けさせる一方、彼の偉大性宣伝を一層露骨化させた。極めつけは、先代指導者たちが一貫して進めてきた「統一路線」の放棄だった。日本の朝鮮総連にも13カ条の指示命令を下し、統一、民族どうしなどの表現を禁止し、朝鮮学校教育内容の大幅変更まで指示した。

次に、崩れ行く体制を維持するために、「韓国を第一の永遠の敵国」と位置づけ、韓国との交流を遮断した。

韓国とつながる鉄道、道路、送電鉄塔を破壊しただけでなく、休戦ラインに沿って遮断壁まで構築した。

3つ目に打ち出した政策は、ロシアとの「包括的戦略的パートナーシップ条約」の締結とロシアへの派兵によるクライナ侵略加担だった。

大量の弾薬武器と兵士の犠牲と引き換えに、ロシアからの軍事・経済的援助を引き出しているが、北朝鮮住民の反発を恐れてロシアへの派兵は今も秘密にしている。

4つ目は、国防計画5カ年計画の目玉である軍事衛星の4回目の打ち上げだ。

2024年中に3つの軍事衛星を打ち上げるとしていたが、ロシアの技術支援で今年5月に打ち上げたとされる4回目の打ち上げにも失敗し、それ以降音沙汰がない。

5つ目の政策は、金正恩に対する警護強化と住民生活に対する統制(チャンマダンを含む)強化だ。

北朝鮮ではすでに2022年、住民の申告義務を既存の「反体制的要素」から「日常的社会生活全般」に拡大したが、それを一層強化した。住民の反発を和らげるために、20×10などという現状を考慮しない地方振興策を打ち出したがその展望は不透明だ。

2024年に金正恩が進めたこれらの政策は、これまで北朝鮮が守ってきたアイデンティティを否定するものだったと言える。金正恩は今、金日成、金正日までの北朝鮮を根本から作り変えようとしているようだ。しかし、それが成功するかどうかはわからない。

■ 金正恩体制を取り巻く2025年の不透明要因

世界は新冷戦という時代を迎え、いま金正恩体制を取り巻く状況もますます複雑化し、不透明化している。

金正恩体制にとっての不透明要因はまず、ロシアのウクライナ侵略の変化する状況であり、ウクライナ戦に動員された北朝鮮兵死傷者の増加だ。

博打とも言える金正恩のロシア派兵は、プーチンが勝利を収め金正恩との約束を忠実に守れば、起死回生の起爆剤となる可能性がある。それとは反対にプーチンがウクライナを攻めきれず、米次期大統領のトランプに主導権を握られるようなことがあれば、金正恩体制は大きく揺らぐことになるだろう。すでに、北朝鮮国内にはロシア派兵の将兵がウクライナ軍の攻撃で大きな被害を被っているとの情報が入りつつある。

金正恩体制にとって次の不透明要因は、トランプの韓半島(朝鮮半島)政策と中東情勢だ。

トランプ次期大統領は選挙過程で、金正恩との対話に前向きな姿勢を示してきた。しかしそれがアメリカファーストに繋がらなければ、一転、対金正恩強硬策に転ずる可能性は否定できない。トランプが、直接強硬策に出なくとも、プーチンとの「取引」を通じて間接的に圧迫をかける可能性もある。

トランプは、ウクライナには距離をおいているが、中東ではイスラエルを支持し、ロシアが支援するイランや反イスラエル勢力には厳しい政策をとってきた。シリア政権の崩壊で中東での足場はイランだけとなり、金正恩の中東政策には暗雲が立ち込めている。金正恩がこの絡まった糸を解きほぐすには、巧みな外交戦略が必要なのだが、今の北朝鮮にはそのような外交戦略を構築できる力はない。

3つ目の不透明要因は、韓国の政治混乱だ。

12月3日、韓国の尹大統領は戒厳令を公布して、大統領府と内閣を麻痺させる国会と、民主主義を揺るがす不正選挙操作の疑いがある選挙管理委員会に軍隊を派遣した。同日、国会の議決に従い戒厳令を解除した尹大統領に対し、国会は「反乱」の容疑で14日に尹大統領弾劾訴追案を可決した。現在、尹大統領は反乱罪容疑でも捜査を受けている。もしかしたら、5月頃には大統領選挙があるかもしれない。

そうなれば、北朝鮮と通じる李在明・共に民主党代表が大統領となる可能性がある。韓国の外交政策は、親中、従北朝鮮、反日、反米へと大転換する可能性が高くなる。それはそのまま金正恩が最も恐れる米韓日連携強化策の弱体化を意味する。これは窮地に陥っている金正恩にとって願ってもない「恵みの雨」となるに違いない。

しかし、尹大統領の弾劾を憲法裁判所が却下すればこの流れは逆転する。選挙違反の罪で第1審懲役刑を宣告された李在明は、6ヶ月内に最高裁で罪が確定する可能性が高い。そうなると大統領選立候補が不可能となり、進行中の5つの裁判でも有罪となる可能性が高まる。韓国の従北朝鮮勢力は計り知れない打撃を受けるだろう。共に民主党も分裂する可能性が高くなり、金正恩の対韓国政策は大きな困難に直面する。

4つ目の不透明要因は、金正恩の国内引き締め政策の行方だ。

ロシアのウクライナ侵略が成功し、韓国での従北左派政権が登場すれば、北朝鮮への経済支援は復活し、金正恩が打ち出した「統一放棄」「韓国遮断」政策への住民の反発感情は、和らぐ可能性がある。そうなれば金正恩の求心力は高まり、本格的な金正恩時代が到来するかもしれない。

問題は、チャンマダン(市場)世代と言われる北朝鮮のMZ世代の動向だ。もしも金正恩が2024年に行った路線の大転換が裏目に出れば、逆風が金正恩を襲うだろう。金正恩は北朝鮮住民の不満を抑え込むためにさらなる統制と弾圧の強化に踏み込まざるを得なくなる。その時、若者世代を中心とした反金正恩行動が、新たな動きを見せるかもしれない。

■ 2025年の北朝鮮主要動向予測

2025年の内外情勢は、金正恩にとって有利な局面も不利な局面も一瞬の内に反転する状況となっている。

まず注目されるのは、年末に開催が予定されている党中央委員会総会だ。そこで、現情勢を分析評価すると思われるが、どのような対応策を示すのかが注目される。方向を間違えば大きな代償を払うことになる。もしかしたら朝鮮労働党第9回大会の展望を明らかにするかもしれない。 

対外的には朝ロ関係の成果を誇示すると思われる。また韓国の尹大統領弾劾を煽り、李在明政権創出を試みるだろう。韓国を第一の敵国として遮断した路線は継続すると見られるが、突然沸き起こった尹大統領弾劾という「恵みの雨」を最大限利用するのは明らかだ。これまでとは違った形での関与策が予測される。

国内的には、国民の不満を和らげる食料確保と地方発展20×10政策推進する一方で、チャンマダンや住民生活への統制強化に引き続き力を注ぐだろう。特には青少年世代への韓流の遮断と思想教育強化には特段の対応をすると見られる。

その一方で、ロシアとの軍事協力のもと「国防5か年計画目標達成」に全力を傾けると思われる。そして何としてでも軍事衛星の成功をもたらそうとするだろう。こうした主要課題を朝鮮労働党創建80周年に向けた課題達成動員の中で進めるに違いない。

来年1月に予定されている最高人民会議にも注目する必要がある。そこで昨年なし得なかったと見られる憲法条文の全面的改正が行われる可能性がある。注目されるのは、祖国統一路線を金日成と金正日の功績と称えた憲法序文の変更と、特に南北を2国家とするための領土確定条項だ。

どちらにせよ、2025年は金正恩体制が激変期を迎えることは間違いない。当然日本への影響は、これまでとは質的に異なる重大なものになるだろう。

トップ写真:北朝鮮、金正恩総書記(2024年)出典:Contributor/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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