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.国際  投稿日:2024/11/13

北朝鮮軍のロシア派兵と金正恩の運命(下)


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・北朝鮮のロシア派兵には、戦死者情報拡散、露の戦況悪化や早期終戦、中国との関係悪化といったリスクがある。

・これらの要因が重なると、体制維持を目指す彼の戦略が裏目に出て、政権に深刻な危機をもたらす可能性が高い。

・金正恩の運命は、この危険な賭けが成功するか否かにかかっている。

 

北朝鮮軍のロシア派兵と金正恩の運命(上)はこちらから

 

3、金正恩を待ち受ける最悪のシナリオとは?

 

ロシア派兵での金正恩の一次的な狙いは、外貨獲得とロシアからの軍事技術の導入だ。北朝鮮は対中貿易で年20億ドルほどの赤字を出している。米ドルに対する北朝鮮ウォンの価値は年初比で半分になった。また軍事衛星の失敗など国防5か年計画は、順調に進んでいるとは言い難い。

この2つの狙いに兵士の実践訓練が加わり、それにロシアの勝利が重なれば、金正恩の起死回生策は成功し、先代否定の路線も国民に受け入れられるだろう。そうなれば金正恩は先代たちを超える偉大な首領となり、金正恩体制は危機を脱することができる。

だがロシア派兵が、逆に金正恩に最悪のシナリオをもたらす可能性もある。確率としては、最良のシナリオよりは最悪のシナリオとなることの方が遥かに高いと言える。

最悪のシナリオとなる要因としては次の3点を挙げることができる。

 

1)北朝鮮国内での戦死者情報の拡散

 

最悪のシナリオとなる第一の要因は、ロシア派兵情報とそれに伴う戦死者情報の北朝鮮国内への拡散だ。

韓国の国家情報院は、「北朝鮮内部的には住民の動揺を抑えるためにあらゆる措置を取っている」としながら「将校の携帯電話の使用を禁止し、派兵軍人の家族には訓練に行ったとは説明している」としたが、両江道恵山市などの国境地域では、中国の携帯電話で外部と連絡する住民が中に入り、当局が秘密にしている情報を住民社会に伝えているという。

10月30日、韓国デイリーNK両江道消息筋は、「恵山市住民の間でロシア派兵情報が広がった」とし「子供を軍隊に送った両親は、子どもが派兵対象に含まれたのか分からず大変不安な状況にいる」と伝えた。

恵山市では、中国の携帯電話を使用する住民を通じて、北朝鮮がウクライナと戦っているロシアを支援するために軍人たちを送ったというニュースが伝えられ、この事案が急速に広がったことが分かった。

ただし派兵された軍人がどの部隊所属かについては正確に伝えられず、様々な噂が出ているという。一部住民は「この機会にロシアから何か大きなものを得ようとするだろう」とし、特殊訓練を受けた兵士たちを送った」と話し、また一部は「他の国の戦争だから、ただ武器を少し扱える一般兵士たちを送っただろう」と一般軍人らを送ったと主張しているという。

こうした中で、子どもを軍に送った親たちは、もしかして子どもが派兵対象に含まれたのかと不安がっているという。軍にいる子どもたちと連絡もできず、現在軍が情勢緊張を名目に面会も遮断し、兵士たちを休暇や外出に出さないこともあり、両親が子どもを心配して夜をすごしているとのことだ。

派兵による死傷者が増えれば、北朝鮮内部で不満が出てくるはずだ。戦場で大規模な離脱者が発生しても金正恩にとっては大きな負担となる。外部世界を経験した若い軍人の考えがどう変わるかも心配だ。大きなお金が入ってくれば権力間の利権衝突も増えるだろう。

 

2)戦況の悪化と早期終戦

最悪のシナリオの第二は戦況の悪化と早期終戦だ。

戦況が不利になればロシアでプーチンに対する反対世論が強まる。そうなれば金正恩の未来もプーチンと連動する。また戦争が長引けばプーチンは北朝鮮軍を戦争にとどめておくために先端軍事技術を一度に与えることを避けるかもしれない。その過程で双方がねじれることも考えられる。

戦争の早期終戦も金正恩にリスクをもたらす可能性がある。米大統領に当選したトランプは、戦争の早期終結を公約に掲げている。トランプの登場も金正恩にとって大きな変数だ。そうしたこともあってか金正恩はまだトランプに祝電を送っていない。プーチンはトランプの当選に祝意を送り、対話も示唆している。トランプが公約したとおり戦争が早期に終結する可能性もある。そうなると北朝鮮の価値は急落する。この時にプーチンが金正恩との同盟を取るのか、トランプとの取引を取るのかは不透明だ。

 

3)中国との関係悪化

こうしたシナリオに中国との関係悪化が重なれば金正恩体制の危機は一層深まる。北朝鮮は体制維持のために一方的に中国に依存してきた。中国は北朝鮮を米国と対決するのに必要な戦略的緩衝地帯として食糧とエネルギー支援、外交、軍事的後援で体制維持を助けた。

北朝鮮のロシア派兵は中国に対する一方的依存から抜け出そうとする強い意図が込められている。完全に中国を離れることはないが、ロシアを中国と対等な安保支援国の隊列にのせたのだ。その上で過去に金日成がしたように、中国とロシアを互いに競争させ双方の支援を最大化しようとするとみられる。しかし中国はこの意図を見抜いており反発している。そのため最近朝中関係は思わしくない。

金正恩が打ち出した「統一放棄」「南北敵対2国論」「ロシア派兵」などの起死回生策は、間違いなく彼の今後の運命を決定づけるに違いない。

 

写真)ロシアのウラジオストクで行われた会談で、北朝鮮の金正恩委員長を出迎えるロシアのプーチン大統領(2019年4月25日 ロシア・ウラジオストク)

出典)Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images

 




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