無料会員募集中
.国際  投稿日:2026/3/6

戦争の長期化狙うイランと早期決着目指すアメリカ


       宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)   

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#09

 

【まとめ】

精密誘導攻撃による短期決戦で、イスラエルと米国が優位に立てる保証はない。

・米国・イスラエルvsイランの一時停戦の可能性として、トランプ政権が戦争長期化の不利を悟り、「目標達成」を宣言することが挙げられる。

・ロシアの有力専門家であるフョードル・ルキヤノフ氏とドミトリー・トレーニン氏の両者は、今回の米国の行動が地域秩序のみならず、国際秩序そのものの転換を加速させるだろうと共通の認識を示している。

 

先週筆者は、イランを攻撃しても「利益よりダメージの方が大きい」が、「今や、そのような攻撃が『いつ始まってもおかしくない状況』になりつつあることを危惧する」と書いた。残念ながら、この「当たって欲しくもない」予想は現実のものとなった。

 

 「窮鼠猫を噛む」という諺があるが、この例えは2月28日に始まった「米国・イスラエルvsイラン」戦争の行方を暗示していると考える。イランを過小評価してはならない。精密誘導攻撃による短期決戦で優位に立とうとしたイスラエルと米国の試みが成功するという保証はないかもしれない

 

それにしても、攻撃直前の2月26日のジュネーブ交渉では「重要な進展があった」とすら報じられていた。外交的解決の期待が膨らんだ矢先のことだったので、攻撃開始の報に驚いた向きも少なくなかったのではないか。ちなみに、米イランを間接仲介したオマーン外相は実に素晴らしい外交官である。

 

実際、経験豊かな中東専門家でも攻撃直前の27日に「米国がイラン攻撃に踏み切れない『やむを得ない理由』」なる小論を発表していたほど。筆者も確信があった訳ではない。ただ、長年の経験から、中東についてコメントする場合、「最悪の事態が起こる」「直ぐ起きたらどうするか」と考える癖がついてしまっている、だけだ。

 

Monday Morning Quarterbackという言葉がある。米国のアメリカンフットボールの試合は通常週末に行われるが、翌週の月曜朝に「結果論で、ああだ、こうだ、と無責任な批評をする輩」を指す米口語だ。筆者も「月曜の朝のクォーターバック」とならない程度で、現在の戦闘についての個人的な見立てを書いておこう。

 

ちなみに、先々週筆者は2月11日の米イスラエル首脳会談で「イスラエルが対イラン攻撃を決意し米国に最後通告した」という「未確認情報」をご紹介した。その情報源サイトはeverynews(https://youtube.com/@everynews-d3w?si=WKrnrBr9ziDcc9xW)であるが、今は何故かアクセスできない。

 

喋っていたのは保守系コラムニストのジョージ・ウィル(又はAI作成のフェイク映像か?)だった。彼は決していい加減なことを言う評論家ではない。筆者がそのサイトに2月13日にアクセスして理解した話が「当たらずとも遠からず」だとすれば、今回の戦争の本質について筆者は次のように考えている。

 

  • 米・イスラエルとイランは「狐と狸の化かし合い」を続けている
  • 地上軍の投入なしに、空軍力だけで、政府転覆を実現することは難しい
  • 今次戦争は長引けば長引くほど、秋の中間選挙に近づき、イランに有利となる
  • 今回イスラエルは初めからイラン政権転覆を目的としていた
  • トランプ政権は対イラン攻撃についてイスラエルやサウジに騙されたのか
  • 戦略のないトランプ政権は戦争の目的、大義を説明できなかった
  • イランはジュネーブで米イスラエルを騙そうとし、2月28日には逆に騙された
  • 「交渉進展」の報で気が緩み、白昼、地上で重要会議を開いたイラン指導部の愚
  • 米イスラエルは短期戦を、イランは長期戦を志向する
  • 戦争長期化のためにはイランの湾岸アラブ諸国攻撃も必ずしも「悪手」ではない
  • GCC諸国の安全保障面での脆弱性が明らかになった
  • ロシアも中国も、恐らくは、イランを全面的に支援できない・・・

 

こんなところだろうか。この詳細は今週の産経新聞WorldWatchに書くのでご一読願いたい。いずれにせよ、このままイスラエル、米国、イランが封印してきた「禁じ手」をこれほど多用するようになれば、出口が一層見えなくなるだろう。こうなれば「誤算が誤算を生む」という悪循環に陥る恐れもある。では、どうすれば状況を一時停戦に持っていけるか。

 

イランは既にルビコンを渡っている。出口が見えるとすれば、一つの可能性として、トランプ政権が戦争の長期化は、内政的にも、外交的にも、不利だと悟り、「トランプなり」に名誉ある形の「目標達成」を宣言することだろう。それにイランが応じる可能性はあるかもしれない。但し、事態がここまで拗れてしまうと、そもそもトランプ氏にそのような「精神的余裕」が生まれるかどうか、疑問なしとしない。

 

次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃――ロシアの専門家の見方」を以下の通りご紹介する。ロシア人の識者が「現在の米イラン関係を如何に見ているか」を暗示するこの二つの論評、個人的には極めて興味深い。

ロシアのメディアでも、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は大きく報じられている。今回は、ロシアの有力専門家2人がこの戦争をどのように論評しているかについて、簡単に紹介したい。両者に共通するのは、米国の行動が地域秩序のみならず、国際秩序そのものの転換を加速させるとの認識である。

 

フョードル・ルキヤノフ(ロシア対外・防衛政策評議会〔SVOP〕幹部会議長)-2月28日付コメルサント紙で次のように分析している。

 

  • イランは、アメリカがこの数十年間で直接対峙した相手の中で最も手ごわい敵であり、今回迅速に成果を達成できるかどうかは未知数である。

 

  • たとえ軍事的に迅速な成功を収めたとしても、その帰結はトランプ政権の期待を裏切る可能性が高い。

 

  • 2003年のイラク攻撃との違いは、今回はイスラエルと湾岸君主国との商業的結びつきを通じて、アメリカが地域における商業的利益の配分を管理する「ディスパッチャー(配分の管理者)」の役割を担うという計算がある点にある。イラク攻撃は商業的要素も含んでいたが、中心には「民主主義の推進」というイデオロギーがあった。

 

  • いずれのシナリオでも、中東は新たな激動の段階に突入し、その影響は周辺地域へと広く波及するだろう。

 

ドミトリー・トレーニン(ロシア高等経済学院世界軍事経済・戦略研究所 所長)-3月1日放送、国営第1チャンネルの討論番組「グレート・ゲーム」での発言要旨

 

  • 今回の対イラン攻撃で注目すべき点は二つある。第一に、国連加盟国の国家指導者が公然と標的とされ殺害されたこと。これは、現在のアメリカの戦争様式が「敵国の指導部の排除」から始まる段階に入ったことを意味する。

 

  • 第二に、交渉の最中に軍事攻撃が行われた点であり、これはウクライナをめぐる対米交渉を行うロシアにとって重大な警告である。

 

  • 今回の攻撃は、同政権が「グローバルな反攻」に転じ、世界に「アメリカ覇権2.0」を押し付けようとしている動きの一環として理解すべきである。それはもはやリベラルな理念に包まれた覇権ではない。

 

  • ベネズエラ、イラン、ウクライナは、新たな世界秩序をめぐる一つの大きな闘争の異なる戦線である。したがってロシアにとっては、これは「生存のための戦争」という性格を持つ。

 

  • ウクライナ問題において米国は公正な仲介者ではなく、敵対する当事者である。米国大統領の言葉や署名はいかなる保証にもならず、ロシアは軍事力によって自らの目標を確定させるしかない。

 

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

3月3日 火曜日 

 カナダ首相、豪州訪問(4日間)

 その後2日間訪日予定 独首相訪米、ホワイトハウスで米独首脳会談

 オランダ新首相ブラッセル訪問、欧州委員会委員長と会談

 韓国大統領フィリピン訪問(2日間)

 

3月4日 水曜日 UAE外相訪伊、伊首相と会談

 

3月5日 木曜日 ネパールで議会選挙 中国で全人代開幕

 

3月7日 土曜日 ラ米首脳訪米、マイアミで米大統領と会談

 

3月8日 日曜日 コロンビア議会選挙

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:空爆で損壊したテヘランの警察署の瓦礫に立てられたイラン国旗

出典:Photo by Majid Saeedi/Getty Images

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."