[瀬尾温知]【リオ五輪、治安と競技場準備に懸念】~カヌー競技会場に大量の魚の死骸~
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
リオデジャネイロ五輪でボートとカヌーの競技会場となるロドリゴ・デ・フレイタス湖で19日、53トンもの魚の死骸が浮き上がった。屍臭に悩む競技関係者は現状の環境では恥をかくことになると悲観的になっている。開幕まであと1年3か月余り。汚職にまみれた政権への国民の不満が各地で頻繁に大規模なデモとなっているブラジルは、南米初の五輪開催となるリオデジャネイロ五輪を万全なコンディションで迎えることができるのだろうか。コルコバードの丘からの眺望は世界遺産に登録されている。ロドリゴ・デ・フレイタス湖は、コパカバーナやイパネマのビーチ、そしてポン・ジ・アスーカルの奇岩らとともにその景観を造形している。湖はイパネマ地区の北側にあり、拙者は当地でサイクリングした際に、コパカバーナの喧騒から離れ、風光明美な湖で小休止したおよそ20年前のことを思い出している。
この湖は水質浄化を目的に、海水と湖水の入れ替えを日頃から行っていた。4月7日に降った大雨で冷たい海の塩水が大量に湖に流入し、環境の変化に過敏な大型ニシンの種類だけが夥しく湖面に浮き上がってきた。その数は日を追うごとに増え、湖の周辺は屍臭に蔓延された。清掃員170人による連日の作業の結果が53トンに膨れ上がった死骸だった。
地元メディアのインタビューを受けた女性競技者のルアーナ・ゴンサウヴェスは、「臭くて練習どころでないわ。水が重くてスピードが出ないの。漕ぐことが出来ない日もあったくらいよ。水を押すのではなくて魚を掻き分けているみたいだったわ」と嘆いていた。
練習を見守ったコーチは、「リオが開催地に選ばれたときの喜びが、今は悲観的なものに変わっている。テストイベントが近づいているのに、これでは恥をかくだけだ」と憤りを露わにしていた。カナダからの観光客は「ここでオリンピック競技をやるの?恐ろしい・・・」と絶句するだけだった。
リオ市環境局によると、湖の水質状況は、死骸を除去したことで最悪レベルの「警報」から一段下がって「注意」になったが、湖面の大部分では、ボートや水上スキーなどの湖水と接触があるスポーツは不適当として勧めていない。リオは今年の7月から五輪のテストイベントを兼ねた大会が本格化する。
その44大会の大半は国際競技大会となっており、選手にとっては本番会場の下見をする機会となる。この湖を会場とするボートは8月5日~9日までジュニア世界選手権大会が、またカヌーは9月4日~6日まで国際カヌー・スプリント大会が開催される予定になっている。
テストイベントには日本の選手も参加する。その時までに高いレベルの競技を迎え入れる状況に改善させておくことは、ブラジルオリンピック委員会の責務である。しかし、テスト大会はおろか、開幕する来年8月の間近になっても周囲が気を揉む状況であることは容易に目に浮かぶ。用意周到という言葉とは無縁なのがブラジル。これは国民性だからどうにもならない。不安は競技会場だけではない。
オーストラリアの五輪委員は、「サッカーのワールドカップ開催中に強盗・盗難の被害が多発していた。選手達は特に夜の外出を控えるようにしてもらいたい」と発言。お説ごもっとも、リオの治安の悪さは世界で5本の指に入る。
———カルナヴァウを数日後に控えたコパカバーナの海岸通りを自転車で走ることになったのは、浜辺でミサンガ(手首につけるお守り)を売り歩いていた青年のおかげだった。道を尋ねたのがきっかけとなり、マウンテンバイクを貸し出している場所へ連れていってくれたのである。
一緒になって街を案内してくれたあのカルロスは、ファヴェーラと呼ばれる貧民街に住んでいた。警察「パン、パン、パン」マフィア「ブルルルルルル」と拳銃と機関銃の擬音で、それぞれの組織が持つ武力の差を、自分は後者の同胞だと言わんばかりに得意げになってジェスチャーしていた。
———リオの治安、オリンピック会場の準備遅れ、それに加えて汚職まみれの政権に対する国民の不満は各地でデモとなって時に暴徒化するなど、ブラジルは良くも悪くも“喧々囂々牛もうもう”活発になっている。
※トップ画像/魚の死骸が浮く湖でボートを漕ぐ“寄稿子” (C)カリカチュア・ジャパン
参照:Globo News, R7