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.国際  投稿日:2026/2/27

「アメリカは日本の核武装をどうみるのか」『上』日米同時に出た日本核武装の勧め



古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・「日本の核武装」が日米両国でタブーから議論の対象に。

・日本は外部からの核兵器による攻撃をアメリカの「核のカサ」で守ってもらうかわりに、自国は核武装をしないと宣言してきた。

・今後、日本自身が核武装を望む可能性があるのか、真剣な関心が向けられている。


日本の核武装という政治的な衝撃を生む課題が期せずして当の日本とアメリカの両方で波紋を広げるようになった。日本の国家安全保障の根幹にもかかわるこの課題は、その重要性にもかかわらず、長年、日米両国でタブー扱いされてきた。だが現在、少なくとも公開の場でのまじめな議論の対象になったといえる。

日本には独自の核兵器保有という選択肢が存在するのか。そしてそうした動きを同盟相手のアメリカはどうみるのか。ワシントンと東京の両拠点でこの課題の変遷を追ってきた体験を基礎にして2026年という新しい年、さらに現在の日本にとってかつてなく厳しい安全保障環境の険悪化を踏まえて、日本の核武装という主題に多角的な光をあててみよう。とくに最大カードを握るともいえるアメリカ側の動きの変化を解読してみたい。

日本ではまず昨年12月19日に主要メディアが「高市政権の首相官邸幹部がオフレコ発言で日本も核兵器を保有すべきだと発言した」といっせいに報道した。朝日新聞などが先頭に立ったこの発信はそもそもの発言の「オフ・ザ・レコード」、つまり報道はしないという合意を一方的に破っての報道だった。

そのオフレコの約束を勝手にほごにしたメディア側は「看過できない重大発言だから」として、高市首相までがその核武装論に同調しているかのような糾弾キャンペーンを展開した。ただし当の高市政権は木原稔官房長官が年来の非核三原則を変える意図はないという趣旨の言明をして、核武装論議の爆発性を抑え、当面の混乱をおさめた。

だがその一方、アメリカではあたかもタイミングを合わせていたかのように、日本側でのこの核武装発言のちょうど1ヵ月ほど前の11月中旬、大手外交政策雑誌の「フォーリン・アフェアーズ」に日本の核武装を促す論文が掲載された。

同誌の最新号の電子版に載ったこの論文は「アメリカの同盟諸国は核武装すべきだ」と題されていた。副題は「選別的な核拡散は国際秩序を強化する」と表現された同論文はオクラホマ大学の二人の若手学者モリッツ・グレフラス、マーク・レイモンド両氏によって書かれていた。

この論文がこの時期にアメリカ側で出たことは日本での核論議にも影響を与えうる微妙かつ複雑な示唆があった。同論文はアメリカ政府が長年、保持してきた核拡散防止条約(NPT)の基本政策を修正し、日本、カナダ、ドイツという同盟三国に独自の核武装を推奨すべきだという骨子だった。

その理由は中国やロシアが核兵器での威圧を含めてアメリカ側主導の国際秩序を破壊しようとする現在、その効果的な抑止にはアメリカが信頼できる民主主義国家の日本など三国がそれぞれ独自の核兵器を保有した方がアメリカの負担の軽減にもなる、とされていた。

同論文は日本について中国の核戦力の増強による東アジアでの覇権の拡大に対してアメリカの同盟国への「核のカサ」の実効の揺らぎを補完する意味でも日本独自の核武装は有意義だと主張していた。

ただしこの論文の著者二人はまじめな学究とはいえ、新進であり、学界全体や政府の見解を反映する立場にはない。現実にトランプ政権下の国務省の報道官は日本での核武装発言が波紋を広げた直後、「日本は核拡散防止の世界的なリーダーだ」と述べ、米側としては日本の核兵器保有には賛成しないという従来の立場を明らかにした。

だがそれでもアメリカ側での民間とはいえ、日本に独自の核武装を推奨する主張が堂々と出てくること自体に重大な意味がある。米側の年来の同盟国としての日本にからむ核政策の潮流の変化を反映するとみられるからだ。日本への信頼の増加ともいえるのだ。

さて日本にとっての核兵器保有という議論を考えるうえで、なぜアメリカの動向を知ることが必要なのか。ごく簡単にいえば、その理由は日本が戦後の長い期間、そしていま現在にいたるまでアメリカの核兵器による「拡大核抑止」に依存してきたことである。

全世界のアメリカ、ロシア、中国などの核兵器保有国は自国の防衛、さらには他国との衝突に備え、核兵器の破壊的な超パワーを安全保障の主柱に組み込んでいる。アメリカの場合、東西冷戦でのソ連との対立では強大な核戦力を自国の防衛、さらには潜在敵の抑えに備えてきた。相手国からの攻撃、あるいは威嚇に対して最悪の場合には核兵器を使ってでも、戦争や侵略、威嚇という事態を防ぐという基本戦略だった。つまり核抑止である。

アメリカはこの核抑止の威力を自国だけでなく同盟諸国の防衛にも適用すると宣言してきた。つまり日本などの同盟国が敵国から核の攻撃や脅しを受けた場合、アメリカが自国への攻撃がなくても、その核戦力を報復や防御に使うという誓約である。この誓約が「拡大核抑止」だった。日本にとってのアメリカの「核のカサ」である。

日本はこうして外部の潜在敵国からの核兵器による攻撃や威嚇をアメリカの核で守ってもらうかわりに自国は核武装をしないと宣言してきた。その宣言の実践が国内では非核三原則の順守であり、対外的には核拡散防止条約(NPT)への加盟である。

NPTはとにかく核兵器保有の国の数を制限するという目的で1970年に発効した国際取り決めである。この条約はアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスという5ヵ国の核兵器保有を認め、他の諸国には核武装を禁じるかわりに原子力の平和利用への道を保証する。日本は1976年に条約の批准という形で加盟した。全体で190ヵ国ほどが参加しているが、インドやパキスタンのようにこの条約に背を向け、独自の核武装を果たした国家も存在する。

日本の非核三原則は周知のように日本政府が「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という核政策の基本原則である。1967年の国会決議の結果であり、強制力はないが日本の公式の核政策とされてきた。

以上のように日本の核への対応はアメリカへの年来の依存という理由だけでもアメリカの意向に最大の注意を向けざるを得ないのである。

当のアメリカは長年、日本の核武装には反対という公的な立場を保ちながらも、その課題自体には真剣な関心を向けてきた。日本自身が核武装を望む可能性があるのか、もしそうした政策を日本がとる場合、現実的にどんな方法があるのか、というような諸点の研究が当の日本よりもずっと早く、ずっと深く進められていたのだ

(中につづく)

#この記事は「月刊 正論」2026年3月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真:第二次世界大戦終結および対日勝利80周年の記念式典(北京-中国)
出典:Lintao Zhang by Getty Images

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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