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.社会  投稿日:2026/2/28

東京スカイツリーのエレベーター故障に見る日本の危うさ


福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)

【まとめ】
・東京スカイツリーのエレベーター事故は、長時間の閉じ込めや緊急連絡の不機能、過去の原因不明のままの運転再開など、安全管理体制の深刻な危機が浮き彫りに。
・神戸市の転落死亡事故や都内のサウナ閉じ込め死亡事故など、相次ぐ人身事故は、定期点検や非常時マニュアルの不備など組織全体の気の緩みが原因。
・かつて世界的な信頼を得ていた日本の技術が危機に瀕しており、信用の回復は極めて困難だ。

 

 2月22日夜、東京スカイツリーのエレベーターが停止し、5時間半の間、20人が「かご」の中に閉じ込められたままになるという事故が起こった。「かご」の中には地震などの緊急時に備えた水や簡易トイレなどの緊急用備品が備えられていたそうだが、肝心の緊急時のための地上との連絡用インターフォンは機能しなかったそうだ。


 2015年8月にはエレベーターの閉扉センサーの故障で、中に36人が29分間閉じ込められた。更に、2017年3月にはエレベーターが停止して27人が18分間にわたって閉じ込められる事故があり、9年経った今もその原因は不明だそうだ。時を経て、一般利用者の脳裏からは2017年のエレベーター停止事故の記憶は消え去り、その原因調査結果がどうなったか興味を持つ人もほとんど居なかったかもしれない。しかしながら、事故の原因が不明のまま、エレベーターを稼働させ続けたとは呆れた話だ。


 東京スカイツリーは今回の事故の原因を、事故が発生して3日後の25日に、エレベーター機械室の制御盤のヒューズの破損によるものとし、翌26日にエレベーターの稼働と営業を再開すると発表した。2017年の事故の原因解明とその発表がなされていない中で、今回の事故の解明を短時間で終えて営業再開とは何とも不安が残る。


 思いおこせば、昨年2月、神戸市の商業ビルでエレベーターのドアは開いたものの「かご」が来ておらず、それに気づかないまま足を踏み出した人が転落死するという痛ましい事故が起きた。このエレベーターの製造元で、管理を行っていたのは業界トップの会社だ。発生から1年を経た去る1月、保守点検における重大な過失を理由に元社員が書類送検された。事故発生から原因究明まで1年を要したが、その間、同社は従来通りの活動を行ってきた。筆者の住むマンションにもエレベーター付け替えの営業で同社から社員が来たが、この事故については何の言及もなかった。


 1990年代、筆者は中米パナマに駐在していた。パナマでは日本では考えられなかった多くの体験をし、びっくりしたものだ。その一つがエレベーターに関するものだ。居住していたアパートで、エレベーターのドアが開いたものの、エレベーターの「かご」が来ておらず、よそ見でもしていたら、そのまま落下させられるところだったことが何回かあった。また勤務先の入っていたビルで、筆者の乗ったエレベーターが、下まで降下して、途中で止まり、閉じ込められたこともあった。このようなエレベーターの不具合は、当時のパナマでは、よくあることで新聞記事にもならなかった。


 かつて日本でエレベーター会社の試験施設に行ったことがあるが、その時、日本のエレベーターの技術は一流で、稼働中に落下したり、ドアが開いて「かご」が来なかったりするようなことはあり得ないとの説明をその会社から聞かされた覚えがある。従って、当時、パナマでのエレベーターの不具合に接し、そのようなことはパナマだけの特別な話だと思っていた。そのような事故が、まさか日本で起きるとは夢にも思わなかった。


 エレベーター事故と共に、昨年12月には東京都内で、サウナのドアが開かずに閉じ込められ、中にいた2名が死亡するという痛ましい事故も世間の人々を驚かせた。サウナの部屋から事務所に通じるはずの非常ボタンの受信盤の電源が入っていなかったというのだ。定期的な検査は無かったのか、そして、非常時の対応マニュアルは無かったのか、多くの疑問が呈される。エレベーターにせよ、サウナの設備にせよ、定期的な点検が行われていたはずだ。しかしながら、事故が起きたということは現場担当者のみならず、組織全体のどこかに気の緩みが出ていたのではなかろうか。


 かつての日本企業の製品のみならず、日本人が設計と管理を手掛ける設備など、日本人が手掛けた物は世界的な信頼を得ていたものだった。世界最高レベルの製品を作り上げてきた日本人の勤勉さ、緻密さ、所属企業への忠誠心、そしてプロ意識はどこへ行ったのだろう。よく言われることだが、一旦失った信用を再び獲得することは、新たな信用を獲得するよりも遥かに難しい。            




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