少子高齢化多死社会の日本に将来はあるのか
福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)
【まとめ】
・日本では「多死社会」が進行する中、2015年の税制改正により相続税の基礎控除が引き下げられ、課税対象者および税収が大幅に増加している。
・米国と比べて日本の相続税は基礎控除が低く税率も高いため、富の世代間移転が進みにくく、中流層にとっても相続税は大きな負担となっている。
・政府は集税に走るのではなく、選挙費用や議員報酬、官僚制度などの無駄を削減し、税金の効率的活用を図るべき。
日本の総死亡者数が150万人を超えたのは2022年だったが、2024年には1,605,378人と160万人を超えた。この数は戦争中を除いて、最大の数だ。
少子高齢化問題が益々深刻化しているが、今や、日本は少子高齢化多死社会となっている。先般の選挙で自民党は圧倒的勝利を収めた。その目玉のひとつが消費税減税の流れを加速するというものだった。財源確保のための議論に、時間がかかることが予想される。一方で、国民の目が届かないところで増税措置が取られている。税金は、取れるところから取れるだけ取ろうということだ。そこには国民から預かった税金をいかに効率的に使うかを考える様子は見られない。
多死社会が進む中で、税務当局が狙うのは相続税だ。2015年の税制改正で相続税支払いのボーダーラインが大幅に引き下げられた。それまでは5000万円(基礎控除)+1000万円×法定相続人数だったところ、同改正で3000万円(基礎控除)+600万円×法定相続人数となったのだ。その結果、相続税を支払わなければならない人が急増した。
2024年の被相続人数は160万5378人(対前年比+1.9%)、課税対象となった被相続人数が16万6730人(同+7.1%)で、後者の、前者の割合を示す課税割合は10.4%となった。つまり、亡くなった人の10人に1人が課税対象となったわけだ。申告税総額は3兆2446億円(同+8.0%)と大幅な増加を記録した。因みに、税制改正前年の2014年の課税割合は4.4%だったので、10年で2倍以上になったことになる。
米国と比較してみよう。税率を比較すると、日本は累進課税で最高55%、米国は連邦レベルで最高40%、州レベルでは州毎に違いがあるが、New York州では最高16%だ。基礎控除を比較してみると更に大きな違いが見えてくる。2015年の税制改革で控除額を大幅に減らされた日本に比べ、アメリカの基礎控除額は連邦レベルで1200万ドル(18億円相当)、州レベルでは、例えばNew York州の場合、658万ドル(10億円相当)だ。アメリカは基礎控除額が大きい為、相続税を払う人は少数で、よほどの富裕層でない限り相続税を支払うことはない。
アメリカの中流家庭を訪問すると、経済大国と言われながらも日本の国民の生活がいかに貧しいかを実感することがある。国民が稼いだ財産の多くを税金として取られ、若い世代にバトンタッチできる部分が少ないため、日本では富の蓄積ができない。
日本では富裕層に限らず、平均的な家庭でも相続税対策、そして相続作業に悩まされる場合が多い。そしてそのために膨大なエネルギーを要する。ゆえに本来の仕事が十分にできなくなることもある。益々複雑化する相続税対策は、場合によっては税理士などのプロの手を借りなければならない場面もあり、そのための出費も必要となる。更に、争族ともなれば、弁護士の力も必要となる。今や、相続の準備から完了まで一手に引き受けるといった相続ビジネスを手掛ける税理士事務所やコンサルまで登場している。
政府は納税のバーを落として、集税に走り、国民を苦しめるのではなく、世の中の無駄を排除して、税金利用の効率化に目を向けるべきではないのか。先般の選挙の間、住まいのマンションの郵便受けの横のゴミ箱は立候補者からのチラシでいっぱいだった。駅でもチラシが配られていたが、誰も読まない。選挙にかけるコストは無駄が多い。国会議員の高額な給料、事務所コスト、各党に配分される予算などを削減して、国民に還元してはいかがか。官僚OBの退職後の、外部機関の指定席を廃止して、そのためのコスト分を減税に回してはいかがか。志ある政治家には自ら腹をくくって、無駄排除に尽くしてもらいたい。選挙の時は急に有権者に媚を売る政治家、そして、勉強不足の政治家を操る官僚は、いずれも話が自分に関わると動かないNIMBY(Not In My Back Yard)だ。
1980年代、トヨタ自動車がその生産性を高めた「必要なときに必要な分だけ供給することで、在庫を最小化する」、『カンバンシステム』の目標は、『無駄』をなくすことだった。バブル崩壊後、銀行、商社を始めとして日本の大企業は経営トップの退任後の指定席であった相談役や顧問などのポストを廃止してスリム化に尽力した。
民間企業が取り組んできて、成功させているのに、なぜ政府はできないのか。政府が税金を集めるチャンスを求め、拡大すればするほど、納税者側の生活は脅かされる。多死化を税金集めのビジネスチャンスと捉えるのではなく、世の中にはびこる無駄を取り除いて、税金を使う用途を効率化させ、納税者の期待に応えるべきではなかろうか。
トップ写真)相続税への抗議活動を行う様子 2025年2月25日・ロンドン
出典)Photo by Leon Neal/Getty Images
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この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師
1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。
過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。





























