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スポーツ  投稿日:2026/2/24

【WBC】侍ジャパン連覇に黄信号、「大谷対トラウト」が火をつけたアメリカの逆襲と各国代表の本気度


松永裕司(Forbes Official Columnist)

【まとめ】

・2023年WBC決勝での大谷翔平VSマイク・トラウトの歴史的対決は、WBCの価値を世界的に高め、米スター選手たちに「自分たちのオリンピック」という意識を芽生えさせた。
・2026年大会では、ポール・スキーンズやタリック・スクーバルらエース級投手が参加を表明、アーロン・ジャッジら最強打者陣も揃うなど、米代表は過去最強クラス。
・侍ジャパンは打線こそ充実しているものの、「投手・大谷」不在など投手層に不安を抱え、2026年の連覇は過去大会以上に困難な挑戦に。

 

2023年3月21日(米国時間)、フロリダ州マイアミのローンデポ・パーク、ワールドベースボールクラシック(WBC)決勝の日本対アメリカは、3対2で侍ジャパンがわずか一点のリード。9回表二死ランナーなしフルカウント、大谷翔平が同僚マイク・トラウトに投じた6球目、87.2マイルのスウィーパーにバットが空を切る。このシーンを日本国民は、いったい何度眺めたことだろうか。侍ジャパンが世界一を奪還したあの瞬間は、間違いなく球史における一つの頂点だった。

それは日本球史のみならず、アメリカのベースボール・ヒストリーにとっても、ひとつのマイルストーンとして残された。

2026年3月、第6回WBCがいよいよ幕を開け、日本のメディアは侍ジャパンの連覇ばかりを口にするが、この名場面が連覇への大危機を呼び込んでいる。

日本メディアの過熱度をよそに冷静に現在の世界の野球界、特に北中南米のメディアを眺めると、現実が浮かび上がってくる。それは「2026年大会における侍ジャパンの連覇は、過去のどの大会よりも困難」という事実だ。

その最大の理由は、皮肉なことにあの2023年の「大谷vsトラウト」の劇的なフィナーレ、そして各国の選手たちが見せた「異次元の熱量」そのものにある。世界中、とりわけアメリカのトッププレイヤーたちが、WBCという大会を完全に「自分たちのオリンピック」として認識し、文字通り“本気”になっている

 

〇2023年大会が変えたWBCの価値

かつて、メジャーリーガーたちにとって、WBCは「レギュラーシーズン前のエキシビション」という色合いが拭えなかった。プロ野球からは想像もできない法外な金額が動くメジャーリーグのシーズンを最優先し、怪我のリスクを恐れ出場を辞退するのが“賢明な判断”とされていた時代が長く続いた。

しかし、2023年大会はその空気を根底から覆した。

メキシコ代表として躍動したランディ・アロザレーナ(現シアトル・マリナーズ)の姿を思い出してほしい。あのドヤ顔腕組みポーズだ。苦難を乗り越えキューバから亡命、自身が選んだメキシコのためにすべてを懸けてプレーしたその姿は、熱狂の象徴だった。アロザレーナは大統領への嘆願を辞さずして、メキシコ代表を切望した。プエルトリコ代表のクリスチャン・バスケスが「思い出すだけで鳥肌が立つ」と語り、エドウィン・ディアス(今季よりロサンゼルス・ドジャース)が大会によりシーズンを棒に振る大怪我を負った直後でさえ、フランシスコ・リンドーア(ニューヨーク・メッツ)が「WBCでプレーすることはすべての選手の夢であり、最高の栄誉だ」とWBCの価値を毅然と擁護した。ディアスは今大会も出場を表明している。

国を背負って戦う姿、その純粋な情熱は、アメリカのトップ選手たちの心にも火をつけた。「何が違うのか言葉では表現できないが、血湧き肉躍る感覚がある」。トラウトが残したこの言葉は、アメリカ代表選手たちがWBCの真の価値に気づいた瞬間を象徴している。

大会終了後、三塁手のノーラン・アレナドはトラウトと大谷の対決を間近で見つめながらこう語っていた。「我々にはもっとスター選手が必要だ。出ない理由がどこにある。この大舞台で国のために全力を尽くすべきだ」と。このアレナドの問題提起は、2026年に向けてアメリカ球界全体を動かす大きなうねりとなった。

 

〇崩れ去った「辞退の言い訳」、スキーンズという起爆剤

チームUSAが抱えていた最大の弱点は、常に「投手陣」だった。野手にはMVPクラスのスターが揃っても、エース級の先発投手たちはスプリングトレーニング中の急ピッチな調整による怪我を恐れ、球団の意向もあって出場を辞退するのが常だった。2023年大会でも、アメリカの先発陣にはサイ・ヤング賞受賞者が一人もいなかった。

しかし2026年、その陣容は劇的に変化している。その「最初のドミノ」を倒したのが、怪物ポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)だ。

デビューイヤーでオールスター先発、新人王を獲得し、昨季はサイ・ヤング賞を獲得した23歳の若きスーパースターは、代表入りを「悩む必要のない当然のこと」と言い切った。「怪我のリスクは言い訳に過ぎない。準備を万全にすればいいだけだ」。これまでアメリカの投手たちが隠れ蓑にしてきた「怪我への懸念」という大義名分を打ち砕いた。

若くして球界の頂点に立ち、将来的な巨万の富が約束されているスキーンズが一切の躊躇なく参加を決めたことで、球界の空気は過熱した。

 

〇「国を背負う誇り」を選んだスーパースターたち

スキーンズの決断に続いた選手たちの顔ぶれは、かつてのチームUSAでは考えられないほど豪華であり、同時に彼らの「覚悟」を示している。

その筆頭が、2年連続ア・リーグのサイ・ヤング賞受賞のタリック・スクーバル(デトロイト・タイガース)だ。スクーバルは2026年オフにFAを控えており、今大会への出場は、将来の超大型契約を脅かすリスク以外の何物でもない。しかし、彼はチームUSA入りを選んだ。失うものが誰よりも大きい絶対的エースが、「国を代表する誇り」を優先したのだ。

さらに、ローガン・ウェブやジョー・ライアンといったサイ・ヤング賞争いの常連たちも次々と参加を表明。25年をもって現役を引退、同賞獲得3回を誇るクレイトン・カーショーも「緊急用ロングリリーフ」として参戦。先発として一時代を築いた大投手が、チームを救うためなら大差の試合や延長戦での登板も辞さないという。

カーショーは2023年大会でも出場を表明。しかし大会にかける保険問題を解決できず、最終的に断念した経緯がある。「たかが保険」と思われがちだが、巨額年俸のかかるメジャーリーガーの保険は桁が異なる。某元侍ジャパン監督の談話によると1試合の保険金額は、監督の年俸に匹敵するレベルだそうだ。それが今大会、各選手が保険を気にせず参加するとは、どういうカラクリなのだろう。某プロ野球関係者によると「選手が自身で保険をかけ解決できる」とのこと。つまりこれまでは球団やMLBが保険の高額さに難色を示していた次第だが、巨額の保険料を選手自身が負担してでも出場するという、かつてないほどの執念だ。

さらに野手陣を見れば、キャプテンに就任したアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)を筆頭に、ポール・ゴールドシュミット(ヤンキース)、カル・ローリー(マリナーズ)、ブライス・ハーパー、カイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)、ボビー・ウィット・ジュニア(カンザスシティ・ロイヤルズ)など、現役最強のロースターが完成しつつある。2023年には不在だった「現役最強の投手たち」と前回に続き「現役最強の打者たち」が、ついに一つのチームとして結実する。

 

〇「我々のオリンピック」という本気度

チームUSAのマイケル・ヒルGMは、2026年大会に向けてこう断言。「これは我々にとってのオリンピックだ。前回は最後まで立っていたのが我々ではなかった。だからこそ、今回はあらゆる手を尽くした」。

この言葉が意味するのは、アメリカがもはやWBCを「ベースボールの祭典」としてではなく、「絶対に負けられない愛国の場」として捉えているということだ。現在、ベット365、ドラフトキングスなど海外のスポーツベッティング市場においても、前回王者の日本を抑えアメリカが圧倒的な優勝候補に挙げられているのも、この「本気度」と「圧倒的なタレント」を冷静に評価した結果だろう。

もちろん、脅威はアメリカだけではない。前回悔しい思いをしたドミニカ共和国、情熱の塊であるメキシコ、常にトップを狙うプエルトリコなど、すべての参加国が2023年大会の熱狂を経験し、これまで以上の本気度でロースターを編成してくる。

一方の侍ジャパンのラインナップはどうだろうか。打線こそ、大谷をはじめとし、吉田正尚、鈴木誠也、岡本和真、村上宗隆、牧秀吾に佐藤輝明と前回大会と見劣りはない。しかし、投手陣はいかがだろうか。まずは「投手・大谷」は出場しない。球数制限がある短期決戦において最有力となる先発が一枚欠ける点は、大きな痛手だ。さらにダルビッシュ有、戸郷翔征、佐々木朗希、今永昇太、宇田川優希、山﨑颯一郎といった前回メンバーもリスト入りしていない。ワールドシリーズMVP山本由伸を軸としながら、宮城大弥、伊藤大海といった先発は計算できそうだが、第二先発には、やや不安を覚える。前出のプロ野球関係者も「アメリカに行くまでは大丈夫だろうが、それ以降はかなり厳しい」という見方を示した。

準々決勝、侍ジャパンの目に立ちはだかるのは、ドミニカ、ベネズエラだろうか。準決勝以降はアメリカをはじめとする強豪国だ。2026年、侍ジャパンの連覇への道は、間違いなく茨の道となる。しかし、それは同時に、世界の野球ファンが長年夢見てきた「真の」世界一決定戦が、いよいよ現実のものになるという意味も含む。

各国のスーパースターたちが、キャリアや懐事情を度外視し、母国の誇りだけを胸に激突する舞台。3月、我々は野球というスポーツの歴史が再び大きく塗り替えられる瞬間を目撃する。

そして、我々はもちろん侍ジャパンの連覇に夢を託し、声援を送るのではあるが…。

 

トップ写真)ワールド・ベースボール・クラシック決勝でアメリカ代表を破り、優勝を決めた日本代表の大谷翔平選手 2023年3月21日・マイアミ

出典)Photo by Eric Espada/Getty Images




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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