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.国際  投稿日:2026/2/25

米イラン衝突の危機:トランプ政権、内政苦境を外交で打開か


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#08

 2026年2月23-3月1日

【まとめ】

・トランプ政権による対イラン攻撃の可能性が急増し、国内問題から目をそらすための強硬策との懸念。

イランの体制変更は困難であるとみられる。指導者暗殺は核開発加速と、より強硬な後継者を生む危険性がある。

米イラン交渉に注目が集まっているが、イランの譲歩は「時間稼ぎ」に過ぎず、米国の強硬派の不満は解消されない見通しだ。

今週も話題満載だが、まずは米イラン関係から始めよう。

先週後半から米国メディアを中心に、トランプ政権の対イラン攻撃の可能性に関する報道が洪水のように流れ始めた。先週筆者は(先々週から言っていることだが)イランを攻撃しても「利益よりダメージの方が大きい」と書いたが、今や、そのような攻撃が「いつ始まってもおかしくない状況」になりつつあることを強く危惧している。

先週筆者は敢えて、先日の米イスラエル首脳会談で「イスラエルが対イラン攻撃を決意し米国に最後通告した」という「未確認情報」をご紹介した。あの話は「当たらずとも遠からず」だったのかなぁ。それはともかく、トランプ政権、特に大統領ご本人の判断能力は大丈夫なのか?今週は筆者がそう懸念する理由から書こう。

先週末のニューヨークタイムズで同紙のDサンガー記者は「2003年のイラク戦争前に当時のブッシュ大統領は、なぜ対イラク攻撃が必要かにつきアメリカ国民に丁寧に説明したのに対し、今回トランプは全くしていない」などと批判する。確かに、当時のブッシュ政権に最低限の「国際法遵守」精神があったことは事実だろう。

当時、対イラク攻撃の根拠は2000年国連安保理の対イラク武力攻撃容認決議だった。でもトランプはそんなこと全く気にしないので、両者を比較してもあまり意味はない。いずれにせよ、過去2週間の動きを見ると、トランプ政権がどう動くにせよ、「おそらく状況は悪化するだけで好転する見込みは低い」と言わざるを得ない。

そもそも一国が軍事行動を起こす際は戦争目的を明確にする必要がある。それは国際法上適切か否かという問題よりも重要だ。普通なら目的(戦略)を決めてから手段(戦術)を決めるのが定石だ。ところがトランプ氏の頭には戦術しかない。されば、こんな軍事攻撃が成功するとは到底思えない。イランはベネズエラとは違うのだ。

この点はいつかどこかで書こうと思っているが、要するに、軍事的にも、政治的にも、経済的にも、「イランにマドューロはいない」のである。トランプ政権はこの13ヶ月間、内政的に苦しくなっている。11月には中間選挙を控えているからか、対外政策によって国内の難しい状況を改善しようと足掻いているとしか筆者には見えない。

トランプ氏個人が「外を向いている」のに対し、アメリカ国民は「内を向いている」、すなわち、イランよりも自分たちの生活や経済情勢を心配しているのだ。このギャップが今後狭まる可能性は低いだろう。本当にトランプ政権が内政を重視するなら、こんな「成果を挙げる可能性の低い」軍事介入を考えている余裕などないはずだ。

いや、むしろ国内政治状況が悪いからこそ、対外強硬策を矢継ぎ早に打ち出しているのではないか。これは非常に危険な兆候である。筆者は予言者や占師ではないので、トランプ政権の先行きまでは予測できない。だが、過去13ヶ月を見ていると、仮に対イラン「限定作戦」であってもベネズエラのように成功するとは思えないのだ。

繰り返すが、戦争には明確な目的と適切な手段の準備に加え、大義名分と同盟国の支援が不可欠だ。更に、この軍事作戦でイランの体制まで変えようとするなら、今後イランを「どう処理し如何に安定させるか」まで周到に考える必要がある。これが、1991年の湾岸戦争の成功、2003年のイラク戦争の失敗の教訓だったはずだ。

このまま、仮にイランの宗教指導者を暗殺しても、それで政権が倒れるとは思えない。宗教指導者たちは殉教者となって準神格化され、その後継者はより強硬となり、その時点から核兵器開発を本気で進める可能性が高いからだ。もし、それを避けたいのであれば、それなりの周到な準備が必要だと思うのだが・・・。

こんなところで自己宣伝するのもちょっと気が引けるが、実はこうした米イラン関係の悪化について、筆者はある程度予測していた。昨年12月に中公新書ラクレから出した「中東 大地殻変動の結末」という書籍の第七章に、今回と似たような状況を「米・イスラエル対イラン」戦争の5つのシナリオの一つとして書き記していたからだ。

唯一想定外だったのは、それらのシナリオが起きる時期を203X年としていたことだ。トランプ政権は中東で本格的軍事介入は行わないという想定だったので、早くも2026年早々に直接軍事衝突の可能性がかくも高まるとは、不覚にも思わなかったのである。「事実は小説より奇なり」とは正にこのことだろう。

今トランプ政権にイランを占領する気はなさそうだが、それではイランを占領せずに如何に体制を変更するのか、今のイラン反体制派に政権転覆などできるのか、大いに疑問である。筆者は、2月26日にも行われると言われる、次のアメリカとイランの交渉の行方を、固唾を飲んでと言うより、むしろ暗澹たる気持ちで待っている。

唯一の希望はイランが譲歩することだが、イランは簡単には譲歩しない。仮に譲歩するとしても、それは現時点でイランには実行不可能なウラン濃縮を「中断する」ことぐらい。どう考えても、外からは「時間稼ぎ」にしか見えないだろう。それでイスラエルやアメリカの対イラン強硬派が満足するとはとても思えないのだが・・・。

今週もう一つ気になった問題は、IEEPA法に基づくトランプ政権の相互関税措置に関する米最高裁判所の判断である。保守化が進み、「親トランプ政権」かと思われていた最高裁判所ですら、あのトランプ相互関税は「大統領権限の範囲内ではない」との最終判断を下したのだから・・・。

しかし、この判断自体は既に多くの専門家が予想してきたとおり。今回の最高裁の判断に敬意は表するが、トランプ政権も、これまた予想通り、勝手に別の法律を持ち出してきた。「新たに10%の関税を賦課する」、「いや、やっぱり15%にする」などと、混乱しながらも、関税政策を継続しようとしているらしい。

但し、このような混乱が続けば続くほど、トランプ政権の内政的評価、特に経済界や一般庶民からの評価は下がっていくだろう。このことは、冒頭述べたトランプ政権の対外政策への依存度を、一層高めていくことになるかもしれない。この点については今週の辰巳主任研究員の「デュポン・サークル便り」が詳しいので乞うご一読。

今週はもう一つ大事な節目が来る。24日でウクライナ戦争が5年目に突入するからだ。欧州のインテリジェンス専門家はおしなべて今年2026年中の戦争終結に悲観的なようだ。この関連で吉岡明子主任研究員は、「日本ではあまり報じられていないが」として、以下のニュースは注目に値すると書いている。

 三者協議の裏で動く米ロ経済トラック――欧米メディアが伝える「ドミトリエフ・パッケージ」とは:

●2月17~18日に行われた米ロ宇によるウクライナ和平をめぐる三者協議は、領土問題や戦後の安全保障をめぐり、実質的な進展はほとんどなかったとされる。だが、その水面下で、もう一つの交渉が動いている可能性が浮上している。

●2月6日、ゼレンスキー大統領は、ウクライナの情報機関から、ロシアが米国に対し約12兆ドル規模の経済協力案、いわゆる「ドミトリエフ・パッケージ」を提示しているとの報告を受けたことを明らかにした。

●ドミトリエフ氏といえば、ロシア側の大統領特別代表として、和平プロセスに並行し米側特別代表と複数回会談を重ね、米ロ経済協力を働きかけてきたと伝えられる人物である。

●ブルームバーグは2月12日、ロシアの内部文書に基づき、米側に提示された可能性のある7項目の経済協力分野について報じている。

●また、本件については2月17日付エコノミスト誌も、北極圏の石油・ガス開発やレアアース鉱山などを含む大型案件が提案されている可能性を伝え、「史上最大の取引(the Greatest Deal)」との表現を用い、その政治的意味合いを指摘している。

●ホワイトハウスは「ドミトリエフ・パッケージ」の存在を否定しているが、ロシア側は経済協力の可能性そのものについては否定していない。

●ウクライナや欧州では、トランプ大統領がロシアでの経済的利益を優先し、ウクライナに大幅な譲歩を迫るのではないか、との懸念が広がっている。

 うーーん、流石はロシアだ、トランプの弱点を突いてくるとは、実に見事ではないか。

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

2月24日 火曜日 

 ウクライナ戦争、5年目に突入

 日本首相の施政方針演説への代表質問始まる

 米大統領の一般教書演説

 米、IEEPAに基づく相互関税賦課を停止し、新たに10%の関税を賦課

 独首相の訪中

 米・タイ主導の東南アジア多国間合同軍事演習「コブラゴールド」開始

EU外務担当、(パレスチナ問題の)平和評議会代表と会談

2月25日 水曜日 

 カリブ諸国首脳会議開催(於セントクリストファー・ネービス、4日間)

 米国とモーリシャス、チャゴス諸島の管轄権について議論(3日間)

 インド首相のイスラエル訪問(2日間)

 ドイツ首相の訪中(2日間)

 いつもなら最後はガザ・中東情勢だが、今週は冒頭イラン問題を掘り下げたので、補足する点はない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

写真)アラビア海に展開するUSSエイブラハム・リンカーン空母打撃群2026年2月6日

出典)U.S. Navy via Getty Images




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