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.社会  投稿日:2015/2/2

[為末大学]【実績と言葉は切り離せない】~60分でも1分でも説明出来るチカラ~


 為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

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何かを成し遂げてきた人の言葉は重たいと言う。その最たるものがアスリートではないかと思う。僕も現役時代、記者の方から感心されたり、褒めてもらうこともよくあった。

一方で行き過ぎる例も見ることがある。実績があると何を言っても何か含蓄があるかのように持ち上げられる。今考えれば、本当はただこねくり回して難しく言っているだけのこともあったと思うけれど、結果が出ていると勝手に解釈してくれて持ち上げてもらえる。

そうしているうちにそれに慣れていくと、なんだか自分でもわかっていないこともまるで深そうに言い切ればそれっぽく聞こえるテクニックを学ぶ。

ところが神通力はいつか切れる。アスリートであれば引退した後は、数年経ってただの人になる。現役時代は聞かれなかった追いかけ質問をされるようになる。つまりどういうことですか?何かに例えるとどんなことですか?ちゃんと自分でわかっていないことであれば、それがばれていって次第に言葉に力がなくなっていく。

特に日本語ははっきりと具体的に説明せず話すとまるで深く聞こえる傾向にあると私は感じている。「夢なんてないんです。僕には目標しかありません。つまり全ては行動なんですよ。」

サラリーマンが言えば小馬鹿にされることでも、金メダリストが言えばみんな唸る。本当にその奥に意味があるかどうかは関係なく。何か言えば結果を出してから言えとつつかれる。

わかっているのかどうかを知るためには、質問し、またされることだと思う。手を変え品を変え、たとえ話が出て、具体的な例が出て、そうして説明しきれるかどうか。本当に強い言葉を持つ人は60分でも説明できて、1分でも説明できる。

実績と言葉は切り離せないから、少し距離をとって眺めるぐらいがちょうどいいのだと思う。

 

 


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