世界に広がる「エプスタイン文書」スキャンダル
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#07
2026年2月16-22日
【まとめ】
・真の日中友好は、中国が誰も恐れず自由にモノが言える民主社会になって初めて実現可能である。
・米国務長官の演説は、欧州の移民制限を促すトランプ政権による「西洋文明の再構築」の要求である。
・「エプスタイン文書」をめぐるスキャンダルが、セレブや富豪を巻き込み世界的に拡大している。
今週2月17日は中華圏の春節(旧正月)、各地では人々が爆竹や花火を持ち寄って大音響の中で賑やかに「新年」を祝ったそうだ。ちなみに、爆竹・花火の量は半端でなく、以前から事故多発や大気汚染など問題はあった。規制しようとする動きもあるのだが、その程度のことで、伝統の風習を止めるような中国人ではない。
この春節に合わせ、筆者は今週の産経新聞コラムWorldWatchに「中国の日本研究者に宛てた書簡」を寄稿した。内容は筆者が25年前に北京の日本大使館で広報文化公使をしていた時代の話が中心。当時一生懸命日本語を勉強していた中国人学生・研究者に対して、日本の本当の姿を理解して欲しいと訴える文面だ。
詳細は木曜日掲載の同コラムをご一読頂きたいが、ポイントは「日中関係改善に時間がかかる」ことは分かるが、日中関係の再活性化には「中国側の政策変更も必要」であり、「本当の日中友好は、中国が共産党指導下でも、誰も恐れず自由にモノが言える、開かれた民主社会になって初めて実現可能では?」ということだ。
続いては、欧州方面、特に米国と他のNATO諸国との関係について一言。15日に閉幕した「ミュンヘン安全保障会議」では、米国務長官が欧州に「(欧米の)西洋文明としてのつながりを強調しつつ、安保面での負担増を訴える」演説を行ったが、終了後「会場の参加者らは総立ちで拍手を送った」などと報じられた。
今回の国務長官演説は昨年の米副大統領演説よりも「欧州批判が抑制的」だったためか、欧州連合(EU)委員長も「非常に安心した」と述べるなど、欧州には「安堵感が広がった」との報道もある。しかし、個人的には「ヴァンスもルビオも、対欧州不信感という点では、基本的に変わらない」というのが筆者の見立てだ。
例えば、ルビオ長官演説の次の一節を読んで欲しい。
But the euphoria of this triumph led us to a dangerous delusion: that we had entered, quote, “the end of history;” that every nation would now be a liberal democracy; that the ties formed by trade and by commerce alone would now replace nationhood; that the rules-based global order – an overused term – would now replace the national interest; and that we would now live in a world without borders where everyone became a citizen of the world.
This was a foolish idea that ignored both human nature and it ignored the lessons of over 5,000 years of recorded human history…..
(しかしこの(冷戦)勝利の陶酔感は、我々を危険な幻想へと導いた。それは、すなわち我々は「歴史の終わり」に到達した、あらゆる国家が自由民主主義国家となる、貿易と商業によって形成される絆が国家の絆に取って代わる、ルールに基づく国際秩序(使い古された言葉だが)が国家利益に取って代わる、そして誰もが世界市民となる国境なき世界が到来する、という幻想である。これは愚かな考えであり、人間の本性をも無視し、5000年以上にわたる記録された人類史の教訓をも無視した・・・。)
でもこの考えを言ったのは米国人学者ではなかったか?更に、米国務長官はこうも言っている。
But we must also gain control of our national borders. Controlling who and how many people enter our countries; this is not an expression of xenophobia. It is not hate. It is a fundamental act of national sovereignty. And the failure to do so is not just an abdication of one of our most basic duties owed to our people. It is an urgent threat to the fabric of our societies and the survival of our civilization itself.
(しかし我々は国境管理も制御せねばならない。誰が、どれだけの人々が自国に入るかを制御することは、外国人嫌いではない。憎悪でもない。国家主権の根本的行使である。これを怠ることは、国民に対する最も基本的な責務の放棄だけでなく、社会の基盤と文明そのものの存続に対する差し迫った脅威である。)
この部分に関連し、一部報道は米国務長官が欧州に「西洋文明の再構築」を要求したと報じられた。そんな紳士的な主張ではないだろう。これを筆者なりに意訳すれば、「欧州諸国が、外部からの(イスラム教徒を含む)移民を制限せず、西洋の(キリスト教的)社会基盤と文明自体を崩壊させていることを、トランプ政権は許さない」ということになるのだが、如何だろうか・・・・。
続いては、ウクライナ戦争との関係でロシア経済に触れたい。先週に引き続き、キヤノングローバル戦略研究所の吉岡明子主任研究員が最近のロシアメディアの「1月のロシアの石油・ガス収入が半減」関連記事を取り纏めてくれた。大変興味深いのでご紹介する。
2月12日付コメルサント紙は、国際エネルギー機関(IEA)の報告書を引用し、ロシアの1月の中国・インド・中東向けの原油および石油製品の輸出が減少したと伝えた。特にインド向けは前月比で2分の1以下まで縮小したという。
背景には、米トランプ政権の圧力やEUによる制裁強化があるとみられる。ロシアのウラル原油は制裁下で大幅な値引き(コメルサントによると、1月はブレントに対し1バレル当たり約27ドルの値引き)を強いられている。
もっとも同紙は、インドが米国との取引を理由にロシア産原油の購入を完全停止をするかどうかについては、現時点で判断するのは時期尚早との見方も伝えており、先行きは不透明だ。
いずれにせよ、2月5日付の同紙の記事によると、連邦予算の石油・ガス関連税収は1月に3,930億ルーブルまで落ち込み、前年同月(7,890億ルーブル)からほぼ半減したという。
石油輸出の減少と価格下落、さらにルーブル高が重なり、ロシア財政の基盤である石油・ガス収入が細る局面に入った可能性がある。
ちょっと長くなるが、今週はもう一つ触れたい問題がある。それは米国だけでなく、静かにではあるが、燎原の火のように広がる、例の「エプスタイン文書」をめぐるスキャンダルだ。ジェフリー・エプスタインは未成年少女らの性的人身取引罪などで起訴され自殺した米国の大富豪である。
米司法省は米議会からの圧力もあり今年1月に300万ページもの大量の捜査資料を新たに公開したが、最近になって米国内外で、エプスタインとの関係が暴露されてスキャンダル化するセレブ等の事案が相次いでいるのだ。例えば、米テスラのイーロン・マスク、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、米大手投資銀行ゴールドマン・サックスの最高法務責任者、フランスの元文化相、クリントン元米大統領などにとどまらず、今や噂は英国外交官、欧州の王室などにも飛び火している。真相は闇の中だが、トランプ政権は防戦に必死だ。でも、そこは「カネ、未成年売春、セレブ富豪」が揃った強力な「スキャンダル三点セット」。この問題は、間違いなく、中間選挙後まで尾を引くだろう。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介しているが、今週はあまり多くない。
2月16日 月曜日 米President‘s Day休日
2月17日 火曜日 中国の春節休暇(23日まで)
多くのイスラム諸国で約1カ月の断食月(ラマダン)入り
2月18日 水曜日 日本、特別国会召集、第2次高市内閣発足へ
イラン、1月の反政府デモの犠牲者の40日間の喪明け
2月19日 木曜日 内乱首謀罪に問われた韓国前大統領の一審判決
最後はガザ・中東情勢だが、個人的にはイランとアメリカの交渉の行方がとても気になる。というのも、未確認ではあるが、11日にネタニヤフ・イスラエル首相が米大統領と4時間近く会談し、イランが核開発を急いでいる証拠を示した上で、核関連施設を破壊するため、①60日以内に交渉が成功しなければ、イスラエルは対イラン(複数個所攻撃)を決意し、米国の書面による同意を求め、②イランとの交渉にはウラン濃縮だけでなく、イランのミサイル製造能力の完全破壊と中東におけるイランの代理勢力への支援の停止含むよう求め、③これらに米国が同意しない場合には、今後6週間以内に、イスラエル単独でも、対イラン攻撃に踏み切るとの「最後通告」を突き付けた、というから実に恐ろしい。
これに対し、米大統領は72時間以内に回答する旨述べたというが、その後、この種の関連報道はなぜかピタッと止んでいる。今回の未確認情報があまりに正しかったからなのか、それともガセだったからなのか、続報がない理由は良く分からない。先週は米国が「直ちに対イラン大規模攻撃に踏み切る状況ではない」と書いたが、うーん、どうだろう?それでも、筆者の見立ては今も、先週書いた「仮に対イラン攻撃を敢行すれば、恐らくアメリカは「得るものより、失うものが大きくなる」可能性すらある。イスラエルやサウジアラビア・アラブ首長国連邦も攻撃には反対するだろう。どうやら今回のアメリカとイランの交渉でも、あまり大きな進展は期待できない」という見立てのままなのだが…。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
写真)エプスタインのファイル公開を求めるタイムズスクエアの看板 米国・ニューヨーク 2025年7月23日




























