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.国際  投稿日:2026/2/19

日本メディアのトランプ叩きの錯誤とは『下』「トランプ政権の対中政策が変わった」という虚構


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・トランプ政権の対中政策は軟化せず、中国を最大の脅威と見なし、台湾への軍事支援を強化している。

・その具体例として、史上最大規模の台湾への武器売却や「台湾保証実施法」への署名が実行された。

・史上最大の国防予算(9100億ドル)は、中国への軍事抑止と反撃能力の保持を主眼とする。

 

 

 

ところがトランプ政権の対中政策は実際には変わってはいない。中国への基本的な融和という気配はどこからも出てこないのだ。むしろこれまで通りに中国をアメリカの国家防衛での最大の脅威とみなし、台湾への軍事面を主体とする支援の姿勢も後退はなく、かえって強化を示すというのがトランプ政権の現実の政策なのである。

 

以下、その現実を具体例から報告する。

 

 まず第一に国家安全保障戦略も中国との経済関係の改善を強調しながらも、その大前提として中国の国際秩序打破の野望への反対は明記していた。

 

 トランプ大統領は目前の課題としては中国によるレアアースの輸出規制やアメリカ産の大豆の輸入制限への対処をまず優先する姿勢をとった。この点が国家安保戦略の中国に関する記述でも従来にない比重を占める形となった。

 

ところが同戦略はその一方でインド太平洋での中国の膨張への反対を明記し、中国の軍事力増強への抑止の方針を強調していた。とくに台湾に関連しては「中国による台湾軍事攻撃の抑止」を米軍全体の基本目標として位置づけていた。

 

そのうえにトランプ政権の同戦略はバイデン前政権が同様の戦略で「台湾の独立を支持しない」と記したのに対して「台湾海峡の現状の一方的な変化に反対する」と記すことに留め、台湾への支持をにじませた。またトランプ大統領が口にしたG2という言葉も一種の比喩だったことが判明している。

 

第二には、トランプ政権がごく最近でも台湾への武器売却を実施している点である。

 

トランプ政権はまず昨年11月に台湾に対して総額4憶ドルほどの武器を売った。軍用輸送機のC130やその部品が主体だった。続いて12月中旬には合計111億ドルの兵器や弾薬類を台湾に輸出した。この時の内容は高機動ロケット砲システムの「ハイマース」82基をはじめ、地対地ミサイル「エイタクムス」400基や対戦車ミサイル「ジャベリン」などだった。

 

これら兵器はいずれも中国側が最も強く反対する対象だった。しかも12月の兵器輸出の金額は一回の台湾への供与では最大だった。しかもトランプ大統領は対中軟化とも評された前述の国家安保戦略の発表後にこの台湾への大規模な武器供与を許可しているのだ。ちなみにこの一回の武器輸出の金額は日本の防衛予算総額の三分の一にも相当する巨額なのだ。

 

そのうえにトランプ大統領は議会両院が可決した「台湾保証実施法」という新たな法案に12月上旬、署名した。この法律はアメリカの台湾への防衛支援を改めて保証し、米台間の交流を米側の政府高官の訪問までを含めて高めることをうたっていた。

 

第三にはトランプ政権の国防予算が中国の軍事膨張への抑止を主眼とする画期的な増額を決めていた。

 

トランプ政権の2026会計年度の国防費は初めて1兆ドルに接近する9100億ドルとなった。この金額は日本の年間の国家予算全体をも軽く超えてしまう。その史上最大の国防予算は中国の軍拡の抑止と反撃の能力の保持を主眼としていた。

 

トランプ大統領はこの予算を執行するための国防権限法に昨年十二月中旬、署名した。これまた連邦議会両院が可決した法案を実際の法律にする大統領の署名だった。この権限法はアメリカの国防政策の内容を実際の経費の支出を義務づける形で確定していた。

 

 その主要な柱は「太平洋抑止構想」、「台湾安保協力構想」、「中国の戦略供給網のディカップリング」、「フィリピンへの新鋭トマホーク・ミサイル供与」など、明らかに中国への軍事抑止の措置だった。

 

とくに中国側にとって脅威となるのは潜水艦発射巡航核ミサイル(SLCM―N)の配備だった。アジアではアメリカが中国に対して劣勢の中距離核戦力を補う措置である。トランプ政権は第一期にこの核兵器の開発を決めたが、バイデン政権がキャンセルしてしまった。その復活の措置なのだ。

 

 このトランプ政権の実際の軍事力大増強もまさに中国を正面の最大標的と位置づけての戦略なのである。繰り返すが、トランプ大統領が中国に譲歩や融和を決めて、その対中姿勢を大幅に軟化したという構図はツユほども浮かんでこないのだ。

 だから日本側の「トランプ対中軟化論」を唱える識者たちも、このトランプ政権の現実の政策を直視すべきである。

 

 だがそれにしてもその種の識者たちはトランプ政権についての大きな錯誤を重ねてきた。最後にそのほんの数例をあげておこう。

 

 第一はトランプ大統領が日米同盟を変えてしまう、場合によっては破棄してしまう、という予測だった。この予測はもう10年にもわたって破綻を続けてきた。トランプ大統領は就任当初から二期目の一年の現在まで日米同盟堅持の揺るぎない政策をとってきたからだ。

 

 第二はトランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)から脱退するという予測である。

 

そんな事態はまったく起きてはいない。同機構の欧州側はむしろトランプ政権との絆を強めようという姿勢をみせている。トランプ大統領も欧州側の防衛貢献を増すことを要求し、同盟全体の強化を求めている。

 

 第三はトランプ大統領は孤立主義になるという予測である。いまのトランプ大統領の世界各方面への介入の現実をみてほしい。オバマ大統領が「アメリカはもう世界の警察官を止めた」と発言したが、日本の一部の識者はこの言葉を金科玉条のように引用し、「トランプ氏も対外不介入の孤立主義になる」と宣託してきた。

 

最後の第四は「ロシア疑惑」である。2016年の大統領選挙でトランプ陣営はロシア政府と共謀してアメリカ有権者の投票を不正に操作した、というのがこの疑惑の核心だった。

 

アメリカの民主党はニューヨーク・タイムズなどのメディアと歩調を合わせて、トランプ氏を攻撃し続けた。だがこの疑惑には根拠がなく、むしろ民主党側が捏造したことを示す根拠の数々がいまのトランプ政権から提示されている。この疑惑の真実には日本のメディアは言及していない。

 

 トランプ政権の実態を正確に知るには以上のような諸点への再考が欠かせないのである。

 

(終わり)

 

 

#この記事は月刊雑誌WILLの2026年3月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

 

写真)「トランプ氏、投資についてホワイトハウスで会見」

出典)Andrew Harnik/Getty Images

 

 

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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