日本メディアのトランプ叩きの錯誤とは(上)日経新聞のゆがめ報道
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・日本の主要メディアによるトランプ大統領報道は、現実と異なり、根拠のない「トランプ叩き」に終始し、誤認や捏造にまで至っている。
・日経が日韓首脳会談で言及されなかった「ドンロー主義」を見出しに掲げ、首脳がトランプ氏の政策に警戒感を示したかのような虚像を作り出した。
・フィナンシャル・タイムズの反トランプ論調は、欧州で影響力を失ったリベラル少数派の主張だ。
島国の日本が国際情勢を誤認することは決定的な亡国にもつながりかねない。ほぼ全世界を敵として戦った第二次世界大戦での日本の国際情勢判断が間違っていたことは、少なくとも歴史の回顧として明白だといえる。また同様のミスを冒すのか。
こんな懸念までを感じさせるのが日本のオールドメディアと呼ばれる大手メディアの多く、つまり新聞やテレビのいまのアメリカ報道である。より具体的にいえば、トランプ大統領に関する報道を指す。その報道の多くは日本側の「識者」とか「専門家」とされる人たちの推測の産物でもある。
その「推測」の核心はトランプ大統領が日本にとっても、世界にとっても不当な災禍だとする断定である。アメリカ国内でもトランプ大統領が国民多数派から遊離した独裁者であるかのような絵図を提示する。
だが、そんな絵図はワシントンでの私の目前に展開する現実とはまったく異なる。とくに日本に対するトランプ大統領やトランプ支持のアメリカ国民多数派の態度は前向き、かつ友好的なのだ。
トランプ大統領の拠点であるアメリカの首都ワシントンに継続して滞在し、第一期トランプ政権の誕生前からその政権の政策を考察し、実感してきた私自身の報告を改めて伝えたい。日本側でのこのままの根拠のないトランプ叩きが進めば、日米関係の基本たる日米同盟にまで悪影響が及びかねないと心配するからだ。
日本側でのトランプ関連報道は単なる誤認の段階を越えて、歪曲や捏造とさえ呼べる悪質さまでみせてきた。些細ではあるがわかりやすい事例をあげよう。
日本経済新聞の1月14日朝刊第一面の記事である。高市早苗首相と韓国の李在明大統領が奈良で公式首脳会談をしたという報道だった。以下が見出しだった。
「日韓、『ドンロー主義』警戒 首脳会談 米つなぎ留めへの連携」
「ドンロー主義」とはトランプ大統領が南米のベネズエラに武力攻撃をかけ、アメリカの麻薬密輸禁止の国内法違反容疑でベネズエラのマドゥ―ロ大統領を拘束した直後の演説で、半分、冗談のように口にした言葉だった。アメリカが中南米のコントロールに重点をおいた昔の「モンロー主義」に自分の名前のドナルドをかぶせた造語だった。だが、具体的にはベネズエラ攻撃を指す言葉でもあった。
日本経済新聞のこの100行ほどのかなり長い記事の内容をこの見出しから判断すれば、高市、李両首脳がトランプ大統領のベネズエラ攻撃への警戒を述べたという意味だろう。だが、実際にはこの会談ではいずれの首脳もそんな警戒は述べていない。しかも「ドンロー主義」などという用語を口にもしていない。逆にトランプ大統領のベネズエラ攻撃を消極的ながら支持していたのだ。
だがこの日経新聞の記事は驚いたことに、それを書いた記者が首脳会談で議題にもならなかった「ドンロー主義」を提起し、説明し、さらに日韓両首脳にとって警戒すべきだという自分の意見を勝手に書いているだけなのだ。そして記事全体では前記のように日韓両首脳がその「警戒」を述べたかのような見出しをつけていたのである。
この作業は捏造だといえよう。日韓両首脳が言及さえしていない事柄を記者が勝手に提起し、いかにも首脳のそんな発言があったかのように書いていたのだ。そこから生まれるのは日本と韓国の両首脳がトランプ大統領の政策に反対しているという虚像である。同大統領の評判をとにかく悪く描こうという悪意が明らかとなる。
日本経済新聞はそれでなくてもこのところ紙面を大々的に使って、トランプ氏非難の評論記事を連日のように載せている。例えば、1月16日朝刊7面の長大なオピニオン記事は「米の石油戦略は時代錯誤」と題されたトランプ大統領の石油政策の全面批判だった。内容は同大統領のエネルギー政策を「実にばかげた考えだ」とか、「危険なほど時代遅れ」という頭ごなしの悪口雑言風の言葉で満ちていた。
この記事の筆者は日本経済新聞が買収したイギリスのリベラル系新聞、フィナンシャル・タイムズ(FT)のコラムニスト、ジリアン・テット記者だった。イギリス人の同記者はアメリカ評論では反トランプの評論家イアン・ブレマー氏の言葉をよく引用する。FTには同様のリベラル派のイギリス人のベテラン記者数人がアメリカ担当として、同様のトランプ叩きの長文記事を毎週のように書いている。
これらの記事はトランプ大統領の政策への反対や否定に徹している。その記事類を日経新聞は日本語にして毎週、掲載しているのだ。トランプ大統領の政策にごく一部でも賛意を表するような評論は私はただの一度もみたことがない。
私はこのFTの記者たちのトランプ政権叩きについてトランプ陣営のシンクタンク「アメリカ第一政策研究所」(AFPI)の外交政策担当者らに見解を尋ねたことがある。
「イギリスにはすっかり少数派となった左翼、リベラル、エリート、グローバリストと呼べる反保守派の評論家、言論人が残存し、その多くがFTを意見発表の場にしている。だが、この種の人たちはイギリス国内でも影響力を失っている。彼らはトランプ政権の保守主義、アメリカ第一主義にはすべて反対してきたが、その当事国のイギリスだけでなく欧州全体でもドイツやイタリア、オランダ、ベルギーなど軒並みに保守勢力が国民の支持を拡大している。
まさに欧州の反保守言論など一蹴というふうだった。トランプ陣営の識者たちは欧州のこの種のトランプ叩きに対しても「反トランプ錯乱症候群」(TDS:Trump derangement syndrome)という表現を使った。トランプ氏への憎しみや怒りの感情に押し流され、理性的、客観的な判断を失った錯乱という意味である。
だが、その欧州の反保守の少数派によるアメリカの現政権けなしの主張を日本の経済新聞とはいえ、主要メディアが毎週、大々的に転載しているとは奇妙な現象だといえる。
(中につづく)
写真)米軍基地を訪問し、演説するトランプ大統領 アメリカ・ノースカロライナ州 2026年2月13日




























