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.国際  投稿日:2015/3/15

[岩田太郎] 【露骨化する国民からの収奪】~民衆をなめきった米権力者~


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

収奪政治(kleptocracy)という言葉がある。腐敗した権力者が国民を収奪して私腹を肥やす体制のことを指す。現在の共産党支配下の中国に、ぴったり当てはまる概念だ。だが、自浄能力の高さを謳う米国政治も中国化している。

米司法省は3月4日に、昨年8月丸腰の黒人青年マイケル・ブラウン君を射殺し、不起訴処分になった白人の元警官ダレン・ウィルソン氏が所属していたファーガソン市警に対する捜査報告を発表した。それによると、貧困地区であるファーガソン市当局は十分な固定資産税収入を確保できず、市財政を補う目的で市警に対し、圧倒的に黒人が多数の市民から罰金や手数料を容赦なく徴収するよう要請し、市警は過剰取締りを実行している。

ファーガソン市裁判所も中立性を捨て、些細な市条例違反で逮捕・収監・罰金を多重に課している。ある黒人女性は、1回の駐車違反に2枚もの反則切符を切られ151ドルの罰金を支払ったが、全納しなかったとして逮捕命令が出され、数回収監された。さらに550ドル支払った後も541ドルが未納とされている。

牢屋の中でカネは稼げない。借金を返済できない者の自由と返済能力を奪い、いつまでも閉じ込める「債務者の監獄」と呼ばれる悪意に満ちた制度だ。市は教育や衛生・福祉など公共サービスには力を入れず、市民からの搾取に最大限の資源が投入している。

警官は難癖をつけて黒人を職務質問し、信号無視など些細なことで罰金を科し、暴行を加え、逮捕する。この恣意的な生殺与奪権の濫用が黒人と市警の対立の背景である。

報告書は、市警が警官に市民からの罰金と手数料徴収を増加させるようハッパをかけ、そのために内規に違反しても見逃していたことを明らかにした。ノルマを達成しない警官は出世できず、処罰を受ける。市裁判所や市警や各警官には、貪欲で強権的になる動機がある。

こうした腐敗権力は、ファーガソンに留まらない。米国には「民事没収」という制度があり、犯罪に関わっているという疑いがあるだけで没収した資産を、政府のものにできる。

『ワシントン・ポスト』や『ニューヨーク・タイムズ』などが報じるところによると、フィラデルフィア、ニューヨーク、ロサンゼルス、ヒューストン、アトランタなど主要都市をはじめ各地の警察は、罪を犯していない人の車を止め、理由なく金目のものを没収している。

民事であるため推定無罪は機能せず、刑事裁判でないため州選弁護人もつかない。物品を没収された人は、没収物が正当な手段で得られたもので、自分に属することを裁判で証明しなければ取り戻せない。多くの人は、長期にわたる裁判に耐える費用がなく、訴訟をあきらめる。

2001年以来、全米で約6200件の民事没収が令状なしで行われ、250億ドル(3兆円近く)が市民から没収されたと、『ワシントン・ポスト』紙は推計。この内、地元警察が170億ドルを得ている。強盗を捕まえるはずの警察が、罪のない一般市民から金を奪う「ハイウェー強盗」と化したと、同紙に非難の投書が掲載された。

また、失職などの理由で養育費支払いが継続できなくなった父親たちに、各地の裁判所が容赦なく収監命令を出し、「債務者の監獄」を運用している。養育費を徴収すれば、連邦政府から州政府に数億ドル規模の補助金が出るからである。

関与する警察や機関の予算も増える。そのためには、両親が離婚して親権を争ってくれたほうがよい。かくして、子供のために協力すべき父母が「子の最善の利益」の名目で争い、裁判所へ予算が誘導される。

このように米国では収奪政治(kleptocracy)が横行しており、権力者による国民の略奪の動機と手法には一貫性がある。民衆を怖れず、なめ切っているからだ。

 

(この記事は、[岩田太郎]【底なしの米政治腐敗、打つ手なし】~個人メール問題、ヒラリー氏は氷山の一角~ の続きです。シリーズ全2回)

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