[岩田太郎]【底なしの米政治腐敗、打つ手なし】~個人メール問題、ヒラリー氏は氷山の一角~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米政治の腐敗は、打つ手なしだ。民主党の次期大統領候補の最有力者、ヒラリー・クリントン前米国務長官が、2009年から2013年の在任中にわざわざ自宅地下室にメールサーバーを立ち上げ、自家製ドメインのメールアドレスを公務に使用していた問題は、保守・リベラルを問わず国民への説明責任を果たさない権力者の系譜の、氷山の一角だ。ヒラリー氏は3月10日に開いた記者会見で事実上、「携帯を2台も持ち歩きたくなかったのよ、文句ある?」と主張した。こうした中、彼女が国務長官就任前の2007年、当時のブッシュ政権高官に対し、「秘密の個人メールアカウントを公務に使用していることは、憲法違反」だと非難する演説の動画が再生回数を伸ばしている。
また、ヒラリー氏が在任中の2012年、「駐ケニア米大使のスコット・グレーション氏が、公務に私用メールを使ってはならないとする国務省規定にわざと違反した」として更迭したことが、二重基準だと批判を浴びている。
民主党内からは、「以前の歴代国務長官も、公用を個人メールで行っていた」「何の問題もない」とヒラリー氏擁護の声が出ている。一方、法の番人であるエリック・ホールダー司法長官も公務に私用アカウントを使っていることが明るみに出た。
ヒラリー氏は「公務」とされる5万5千件のメールを国務省に提出する一方、3万件の「私用」メールを削除したと明らかにした。だが、何が公務で何が私用かを決めて仕分けを行ったのは、ヒラリー氏本人とその弁護士で、公務の通信が削除された疑いは消えない。
現在、関心を集めているのは、ヒラリー氏が2013年2月に退任した際、OF-109と呼ばれる様式に署名をしたか否かだ。国務省を去る公務員は、「国務省で雇用中に取得した、全ての公務にかかわる機密扱いを受けてない書類や文書を担当官に返却した」旨を、宣誓する。何が公務で何が私用かを決めるのは本人ではなく裁判所で、違反は禁固刑を伴う重罪だ。だが、どれだけ法律がはっきり違反を規定しても、実際の法の運用で権力者が罪に問われることは、ほぼ皆無だ。
ヒラリー氏の弁明は、「飼い犬が、私のメールを食べてしまった」と主張するに等しいと揶揄されている。しかし、メディアは今日騒ぎ、明日は忘れる。自身が弁護士であるヒラリー氏は、争点をずらし、技術論に持ち込み、数年が過ぎる。民主党にも共和党にも、彼女に代わる大物大統領候補はいないので、スキャンダルも何のその、2016年の選挙では勝利するだろうとされる。
権力者が罰を受けなかった前例は、あまたある。政敵の民主党本部盗聴を大統領自らが命令したウォーターゲート事件で訴追されそうになった共和党のニクソン元大統領は、自身が後任に任命したフォード元大統領から恩赦を受けた。共和党のレーガン元大統領時代、イランへの武器売却代金をニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」の援助に違法流用していた事件はうやむやにされた。
民主党オバマ政権も、法律に違反しながら処罰されなかった高官のオンパレードだ。政権の敵である保守系団体を国税査察で狙い撃ちした内国歳入庁のロイス・ラーナー前部長は、公務のメールが「行方不明」になったと苦しい言い訳をしたが、訴追されていない。環境保護庁のリサ・ジャクソン元長官に至っては、公務のメールを私用の「リチャード・ウィンザー」名義のアカウントに送らせていたが、同じくお咎めなしだ。
透明性も説明責任も法の支配も、虚構だ。米国の権力者は処罰を受けず、国民をなめ切っている。一方、国民の違反は些細なものでも見逃されない。それどころか、政府が国民を正当な理由なく収奪するパターンが明らかになりつつある。
(次回、【米国民の収奪が露骨化】~司法省報告を読み解く~(仮題)につづく。このシリーズ全2回)