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.経済  投稿日:2015/2/27

米国高速鉄道、車両入札間もなく 新幹線の経済効果、意外な低評価


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

米カリフォルニア州で1月6日、同州の2大都市ロサンゼルスとサンフランシスコ間の1287kmを、最高時速354kmで約3時間かけて結ぶ高速鉄道の建設が始まった。

だが、不安は尽きない。航空機や自動車が優位の同区間に高速鉄道の需要はあるのか。予定通り2029年に完工するのか。総工費は本当に680億ドル(約8兆1060億円)の予算内に収まるのか。経済・環境効果は支持者の主張するようにバラ色なのか。

新幹線車両を売り込みたい日本から見ると、この春に行われる入札(当初は最大20編成、最終的には95編成)に参加予定の川崎重工業車両カンパニーが、コストや融資面で優位な中国北車・中国南車の合併体企業や、技術力を誇る欧州・カナダのライバルに競り勝って受注できるかが大きな関心事だ。

では、現地での日本の新幹線の評判は、どうなのだろうか。開業以来50年以上にわたり無事故の高速輸送を誇る新幹線は、「日本の敗戦からの復興と、経済大国としての台頭の先駆けとなった」(ニュースサイト『クォーツ』)として、信頼性と旅客輸送の実績の領域では高い評価が与えられている。

だが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン・マネージメント・スクールで経済予測を専門とするジェリー・ニッケルズバーグ教授などが発表した『カリフォルニア州の高速鉄道と経済発展~日本の教訓に学ぶ~』と題された研究は、「東海道新幹線による経済押し上げ効果は、ほとんどなかった」という驚きの結論を出している。

具体的には、沿線各都道府県の経済成長を東海道新幹線開業前まで遡って調査・比較し、「新幹線は都心の経済活動を、郊外に移動させただけだ。神奈川県などの経済は大幅に伸びる一方、同時期の東京都の伸びは低かった。」とする。

さらに、「東海道新幹線が開通しなくても、高度経済成長期に沿線の経済は同じ規模で伸びただろう。データに、新幹線そのものが沿線の経済成長に決定的役割を果たしたとの証拠は認められない。」と、日本人の常識を覆す主張をしている。

ニッケルズバーグ教授はまた、「たとえば、神奈川県の非常に高い成長は、新幹線ではなく、当時大幅に増加していた横浜港の貿易額の伸びによるところも大きかった。新幹線は、経済成長を飛躍的に押し上げる貨物輸送ではなく、旅客輸送の手段に過ぎないからだ」とする。

これらの結果をもとに同研究は、「カリフォルニア高速鉄道は、郊外の発展を促し、旅客の移動コストを下げる。しかし、州全体の経済規模はさほど成長せず、最大45万人とされる雇用創出も、実際は大幅に予測を下回る。」としている。

さらに、「ブラウン州知事は高速鉄道が、州間高速道路やパナマ運河に匹敵する経済効果が絶大なプロジェクトだと主張するが、根拠は薄い。」と結論づけた。

翻って、東海道新幹線開業時の1964年に当時の国鉄は、経済需要の創出効果が9000億円に達したと試算している。また、3月14日に開業予定の北陸新幹線は規模が小さいが、開業10年間で1300億円の国内総生産(GDP)押し上げ効果があるとされる。

こうした日本側の試算や実際の利便性や利用者の感覚からすると、日本人にとって米側の新幹線に対する低評価は納得いかないだろう。人口過密の東海道新幹線沿線と、人口3880万に過ぎないが大面積のカリフォルニアの比較自体が成り立たないとの反論もあろう。

しかし、新幹線、ひいては高速鉄道がそれほど米国で熱狂的に評価されていないことは、事実だ。カリフォルニア州以外にも高速鉄道は計画されているが、新幹線の便利さや経済効果を、もっと想像力を働かせられる庶民感覚のインタビューや直感的なインフォグラフィックで米国民に宣伝する工夫が、日本の売り込みには必要だ。

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