林芳正氏「中選挙区制の方が日本に向いている」 定数削減論議で持論
執筆者:安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
- 林芳正前総務相は、衆議院の抜本的な選挙制度改革について「中選挙区制の方が日本には向いている」と述べた。
- 小選挙区制には政権交代を実現した効果がある一方、長期的な政策判断や政策に精通した議員の育成には課題があるとの見方を示した。
- 定数削減と国勢調査に基づく区割り見直しが同時進行する中、国会で幅広い合意をつくる必要性を指摘した。
衆議院議員の定数を何人減らすのか。その数字だけでは、政治の質は変わらない。林芳正前総務相はJapan In-depthチャンネルのライブ配信で、定数削減よりも選挙制度の抜本改革が重要だとの認識を示し、「中選挙区制の方が日本には向いているのかなという気持ちがある」と語った。なぜ小選挙区制ではなく中選挙区制なのか。林氏が挙げたのは、目先の人気に左右されず政策を実行する力、専門家としての政治家の育成、そして有権者との距離だった。
▶ 本編動画はこちら 林芳正前総務相に聞く(2026年10月1日配信)
定数削減と制度改革は「二つのトラック」
議論の出発点は、臨時国会の焦点となる衆議院議員の定数削減だった。林氏は、総務相として選挙制度を所管した経験を踏まえ、政府の役割は国会で決まった制度を執行することであり、制度そのものは国会が話し合って決めるものだと説明した。
現在は、国勢調査の結果に基づく小選挙区の区割り見直しと、与党間の合意を受けた定数削減・選挙制度改革が、別々の「トラック」で動いているという。衆議院で与党が多数を占めても、法改正には参議院での合意も必要になる。林氏は、多くの政党が納得できる着地点を国会でつくる必要があるとの考えを示した。
そのうえで林氏が「もっと大事」と位置づけたのが、定数の増減にとどまらない抜本改革だった。自身が総裁選に出た際にも、中選挙区制を目指すべきだと主張してきたと明かした。
国会に提出されている選挙制度改革・定数削減法案は、協議会の結論に沿った法整備が一定期間内に実現しなければ、比例代表の定数を45減らし、衆議院の総定数を420とする内容だ。削減を先に約束し、制度改革がまとまらなければ比例だけを減らす仕組みでよいのか。林氏の発言は、議席数の話に先立って、どのような政治を実現したいのかを議論すべきだという問題提起でもある。
「必要なことを、当面怒られてもやり抜く」
現行の小選挙区比例代表並立制について、林氏は、二大政党制を目指し、政策で競争する仕組みとして一定の効果があったと評価した。実際に政権交代も起きた。一方で、「100点満点ではない」とも指摘した。
林氏が重視したのは、中長期の政策判断である。安全保障や消費税を例に、国に必要な政策を「当面怒られてもやり抜く」には、中選挙区制の方が政治家の基盤が強くなるのではないかとの見方を示した。選挙区で一人しか当選しない小選挙区制では、短期的な世論や党への風向きが議席を大きく左右する。複数人が当選する中選挙区なら、逆風の選挙でも経験を積んだ議員が残りやすいという問題意識だ。
林氏は、日本新党ブームが起きた中選挙区時代の選挙も例に挙げた。日本新党の候補が圧倒的な得票で首位になっても、定数が複数あるため、経験を積んだ既存政党の議員も当選できたという。小選挙区なら一人が勝てば他の候補は全員落選する。民意の大きな変化を議席に反映する力が強い半面、選挙の波によって政策経験の蓄積まで一度に失われかねない。林氏は、この違いを制度選択の重要な判断材料として示した。
政策の専門家が育ち、有権者との距離も近くなる
林氏は、自身が国会議員になった当時、中選挙区で選ばれてきた先輩議員が多くいたと振り返った。議員が当選を重ね、政策を学び、人脈を築くことで「政策をしっかりやっていく専門家、エキスパートが育っていく」。その点でも中選挙区制に利点があると語った。
もう一つの理由が、有権者との接点だ。中選挙区では同じ政党の候補者同士も競争するため、政治家が地域の細かな場所まで足を運び、話を聞くようになる。林氏は、有権者からも「細かいところまで来てもらって話を聞いてもらった」という声を聞くと紹介した。
米国や英国の制度をそのまま模範とするのではなく、社会の成り立ちや政治文化に合わせて制度を設計すべきだとも述べた。最後に行き着いたのが、「中選挙区制の方が日本には向いているのかな」という結論だった。
数字を減らすだけで政治は変わるのか
定数削減は「身を切る改革」として分かりやすい。しかし、どの制度なら多様な民意を反映し、将来を見据えた政策を実行できるのかという問いは、議席数の削減だけでは答えが出ない。
林氏が語ったのは、制度の懐古論ではなく、政治家の専門性、政策の継続性、有権者との距離をどう取り戻すかという問題だった。中選挙区制へ戻す場合の課題は何か。定数削減との整合性をどう取るのか。約7分にわたる林氏の説明には、短い発言だけでは伝わらない具体例と経験が詰まっている。ぜひ本編で確かめてほしい。
▶ 本編動画はこちら 林芳正前総務相に聞く(選挙制度の議論は47分41秒から)
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よくある質問(FAQ)
Q1. 中選挙区制とは何ですか。
A1. 一つの選挙区から複数の議員を選ぶ制度です。候補者個人を選ぶ性格が強く、同じ政党の候補者同士が競う場合もあります。
Q2. 現在の衆議院選挙はどのような制度ですか。
A2. 小選挙区制と比例代表制を組み合わせた小選挙区比例代表並立制です。
Q3. 林芳正氏は、なぜ中選挙区制が日本に向いていると考えているのですか。
A3. 長期的に必要な政策を実行しやすいこと、政策に精通した議員が育ちやすいこと、政治家と有権者の接点が細かくなることを理由に挙げました。
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ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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