【「いずも」を空母と呼ばない不思議】~本格空母保有も国民は支持する~
文谷数重(軍事専門誌ライター)
海自には空母保有の願望がある。もともと、海自が空母を持つ話はある。戦後、日本海軍力を再建する議論では空母保有は当然視されており、米海軍にもそれを推す動きもあった。最終的に海自は沿岸海軍として発足したが、空母保有の話は2次防でのヘリ空母以降しばしば現れている。また、その実現のための努力も怠ってはいない。98年に就役した「おおすみ」型輸送艦は、ヘリコプターを使った上陸作業のため上甲板をフラットにしたという理屈である。だが、半ば冗談口での話だが「空母保有に向けて国民の目を慣らすためだ」といった部内の話もあった。
「ひゅうが」型護衛艦も同じである。整備検討についても、空母保有のアドバルーンのため、当初はわざと不便な非空母型のポンチ絵を公表している。不細工で不便そうな図画を見せることで、空母船型にしろといった意見を醸成するものだったのだろう。
■ 「いずも」は軽空母
これらの背景から「いずも」は軽空母を目指して作られたと言ってよい。カタパルトを必要とする在来型艦載機は積めないものの、垂直離着陸が可能な戦闘機は離着艦可能である上、エレベータで格納庫へ収納可能でもあるためだ。この点、専門家の人々が「いずもは空母ではない」と言うのは、筆者には怪訝である。
「いずも」は艦載機運用を第一に考慮した軍艦であり、ヘリではない艦載機を運用する能力を持つ意味で、空母である。その航空機運用能力は、かつての英海軍の軽空母や、ソ連のキエフ級空母と同じ程度はある。
もちろん本格的な空母としては使えない。搭載機数が少ない問題もあるが、本格的な早期警戒機(AEW)を運用できないことは大きい。空母として使うには、E-2D(注1)のようなAEWが必要になり、そのためにはカタパルトと着艦制止用の機材が必要になる。
■ 本格空母保有も国民は支持する
ただし、海自の本格的空母保有を制止する雰囲気はない。「いずも」以上の空母保有を目指しても国民は支持する。
国民は海自の空母保有に反対しない。日本は中国とゲームを行っており、その中国が空母整備を始めている。バランスを考えれば、日本が空母を持つことは悪くはない。国民もそう考えるため反対しない。実際に「いずも」でも空母船型に非難の声はない。
国民支持があるので、政治も、防衛省の省内政治も空母保有を阻止することはない。中国との対峙や、安全保障環境のグローバル化により、空母保有は悪くない程度に考える。
話題の防衛省の内局にしても反対しない。「おおすみ」型では、内局は政治問題化を防ぐため空母転用の阻止を計った、エレベータのサイズや能力。格納庫天井高さについて「絶対ハリアーを積めないように」と指示した。しかし「いずも」にはそれがない。エレベータも格納庫もF-35B運用が可能である。省内政治に空母転用を阻止する意図がないことは注視すべきである。
もしかすれば、話のある強襲揚陸艦が空母になるかもしれない。海自は機を見るに敏である。3-4万トンの強襲揚陸艦が許されれば、適当に理由を付けて、例えばフライホイール式の簡易なカタパルトと、最低規模のアレスティング・ワイヤ(注2)をつけようとはするだろう。それでE-2Dは使える。カタパルト等あれば艦載機も当座は安価なゴスホーク(注3)でもよい。
別に実際に中国と戦って勝つ必要はない。中国に見せつける威信財としては、固定翼とE-2Dが使えればまあまあである。
注1:E-2D
空自が採用を決定したAEW(早期警戒機)艦隊。上空から200km内外の範囲の空中・水上目標を探知し、軍艦のレーダでは見つけにくい超低空目標も見逃さない。
注2:アレスティング・ワイヤ
着艦用の油圧緩衝付制動用ワイヤで、着艦機は尾部のフックで引っ掛けて停止する。
注3:ゴスホーク
米海軍のT-45艦上練習機。原型の「ホーク」練習機は、空対空ミサイルや対地攻撃兵器を搭載し、実戦投入可能である。
*写真は海自フェイスブックより、撮影:伊藤曹長