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.政治  投稿日:2014/12/2

[宮本雅史]【衆院選:一触即発の沖縄】〜本土保守vs琉球保守、進む自民党離れ〜


宮本雅史(産経新聞社編集委員)

「宮本雅史の親日保守を考える」

執筆記事

 

東京・永田町は解散・総選挙に浮き足立ち、メディアは当落予想協奏曲に明け暮れている。だが、その陰に隠れて、大事なことが忘れ去られてはいまいか。

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設の是非が争点となった沖縄県知事選である。選挙は、無所属新人で前那覇市長の翁長雄志氏(64)が三選を目指した現職の仲井真弘多氏(75)を十万票近い大差で破り初当選した。辺野古移設反対を公約に掲げた翁長氏は「ぶれずに実行する」と名言したが、政府は、選挙結果にとらわれず、移設経過を推進すると明言しており、沖縄は一触即発の状況にある。

選挙結果は次期衆院選にも大きな影響を与えそうだ。二年前の総選挙で、自民党は四つある沖縄選挙区で三つの議席を獲得。比例でも一議席を確保している。だが、今回の選挙では、はたして何人生き残れるかという情勢だ。

自民党本部は起死回生を狙って手練手管で選挙戦を展開するだろうが、議席を確保するためには、今回の知事選を冷静に分析、反省する必要がある。

今回の選挙は、辺野古移設容認派と反対派の戦いで、争点は鮮明だった。だが、注意すべきは、保革対決の構図が崩れ、保守が分裂したことだ。元自民党県連幹事長の翁長氏は革新勢力と共闘し、革新支持層無党派層を固め、さらに自民党や自主投票とした公明党の支持層の切り崩しにも成功した。それが十万票近い大差に繫がった。

選挙結果には一年ほど前から予兆があった。昨年十二月二十五日、仲井真氏と会談した安倍晋三首相は二十六年度予算に三千五百億円の沖縄振興予算を計上すると共に向こう八年間に渡り毎年三千億円の振興予算を投下すると提案。仲井真氏は首相の提案に「驚くべき立派な内容」「百四十万県民を代表して心から感謝する」「これでいい正月が迎えられる」と絶賛。その二日後に辺野古埋め立ての申請を承認した。こうした一連の仲井真氏の言動に県民からは保革を問わず、「沖縄を売った」という反発の声が芽生えた。

さらに、今年一月に行われた名護市長選で、石破茂幹事長が、名護市への五百億円の補助を提示しながら、保守系候補が敗れると、発言を撤回。これが「沖縄県民を金で愚弄するのか」と反発の火に油を注ぐ結果となった。

この日から、仲井真氏離れと自民党離れの感情が燎原の火のごとく広がっていった。

投票率は64・13%と前回よりも3・25ポイントもアップした。なぜか?そしてなぜ、十万票近い差が出たのか?

今回の選挙は、本土保守と琉球保守との戦いとみるべきだ。琉球保守とは、琉球の伝統文化を重んじる考え方だ。同じ保守でも、本土保守とは意味が違う。琉球保守は時と場合によっては沖縄の革新勢力と主張が重なる。共通項は「琉球人の誇り」である。

琉球保守の中には、普天間飛行場の辺野古移設に賛成の声をあげる県民も多い。なのに、なぜ、仲井真氏が大敗したのか。十万票近い大差の背景には辺野古移設容認派の政府への反発があると見るのが自然だ。移設容認派という日本政府の“味方”をも敵に回してしまったのである。理由は、日本政府が、沖縄人の誇りをないがしろにしたからと、いえる。それが琉球保守と革新を結びつけたのである。

沖縄復帰から四十数年が経つ。これまで日本政府は振興策を通した沖縄政策を展開してきたが、実は沖縄戦略が欠如していたことが今回の選挙で表面化した。早急に戦略をたてないと、沖縄はますます、本土から離れて行ってしまう。沖縄知事選は日本人全体に警鐘を鳴らしていると感じる。

 

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