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.国際  投稿日:2015/12/30

[相川梨絵]【気候変動に翻弄、水不足続く】~特集「2016年を占う!」太平洋諸島嶼国(バヌアツ)~


相川梨絵(フリーアナウンサー・バヌアツ共和国親善大使)

「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」

執筆記事プロフィールBlog

2015年は、バヌアツにとって試練の年となりました。3月、歴史に残る大きな被害をもたらしたサイクロンPAMの襲撃。これによって、家は破壊され、畑は壊され、バヌアツ人は何もかも失いました。

同時に、驚異的な早さで復興をみせるバヌアツの底力も目の当たりにしました。

目に見えて日々緑が回復し、野菜や果物がマーケットに再び並ぶのもすぐかと思われました。

そんな折り、エルニーニョという第2の試練が訪れました。気温が上がらず、晴天が続きます。実をつけたバナナは、成長が止まり、黄色く食べられる状態に進みません。今まで、マーケットには、旬の野菜や果物がたくさん並んでいましたが、今年はその種類は激減。また、バヌアツ人が常食しているバナナ、パパイヤ、ココナッツ、アイランドキャベツが、サイクロンから半年間まったくなくなってしまいました。

マーケットに登場するようになっても、高くて手が出ません。最近になってやっと一般家庭でも手が届く値段になってきました。そんな訳で、多くの人たちが、野菜や果物不足となっています。比較的被害の少なかったサント島から戻ってきた人のお土産は、決まってアイランドキャベツやパイナップルです。

もっと深刻なのが、水不足でした。サイクロンで被害の最も大きかったタンナ島をはじめ、北部の島でも水不足は深刻で、国際社会に緊急支援要請をしました。何日も雨が降らず、タンナ島では、餓死する子供が現れました。また、畑の食物が育たず、毒のある木の根を食べてしまい死んでしまった子供たちもいました。ここでは、子供達を育てられないと、親戚を頼って首都のポートヴィラへ子供達を送る家庭もあったそうです。

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火事も相次ぎました。バヌアツは湿度が高いので山火事などおこらないと言われていましたが、今年は発生しています。また、街中で大きな火災が続けて発生しましたが、消防車4台中1台しか水が入っていなかったため、十分な消火活動ができませんでした。こんな時は、海水でも使えばいいのにと思うのですが、臨機応変に行動するのをこの国ではあまり、見た事がありません。

まさに、「Climate change(気候変動)」に翻弄されたこの一年。バヌアツのような小さな島嶼国では、ダイレクトにその影響を受けます。先日のパリで行われたCOP21でも、大臣が切実に訴えていました。バヌアツのような小国は、国際社会の手助けが大きな支えになりますが、やはり自分たちの危機に自分たちで備えて行かなければなりません。

来年の課題は、食料と水の確保でしょう。食料に関しては、自給自足で生活するバヌアツ人にとって、概念に無かった食料の備蓄を国策として行うという話があがっています。具体的には、キャッサバ粉や米を緊急時に備えて確保しておくというものです。

一方、水に関しては、この水不足で緊急的に水道の整備が北部の島で行われたようですが、まだまだ根本的な解決策が上がっていません。首都ポートヴィラ、第2の都市ルーガンビルでは地下水を源水とした水道が整備されています。それ以外の場所では、くみ上げポンプが設置されている村もいくつかあるようですが、大半の人たちは川や雨水を利用しています。

政府は、この地下水をくみ上げるポンプをはじめ、配管による上水道施設を、離島などにも設置して行きたい考えのようですが課題は山積で、上水道設置の費用、設置をしたとしてもポンプで汲み上げるための電気代、またはディーゼルポンプに必要な軽油代、メンテナンス費用などお金も沢山かかるほか、村と村とでの水権争いも頻繁で、プロジェクトは簡単には進みません。

また簡易上水道がすでに整っている村でもメンテナンスが行われていないため、漏水が非常に多く、各家庭まで供給されるのは汲み上げた水の30~40パーセント以下というのが現状です。

バヌアツではユネルコという会社が政府から電気(Efate, Tana, Malakula)・水道事業(現在のところポートビラのみ)を委託されています。年間水需要量が5百万m3の首都ポートヴィラの上水道ではバヌアツ政府にお金が無いため、ユネルコ自身が設備投資、メンテナンス費用を月々の水道代から賄って運営しています。政府が、ユネルコにポートビヴィラ以外にも上水道の設置をするよう依頼しているようですが、公共料金を決める公的機関から、水道代の大幅な賃下げを要求され、折り合いがつかず、話が進んでいないのだそうです。

ともあれ、バヌアツの人たちはこれまでも厳しい自然と共存してきました。

その中で彼らの生きる術を見つけ、たくましく、明るく暮らしてきました。

今回も自然とともに生きる彼らなりの方法をみつけてほしいです。

 

※トップ画像:バヌアツの人々 ©相川梨絵
※文中画像:サイクロンで壊されてしまった家々©相川梨絵


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