国民民主党代表選 年金の支給開始年齢は引き上げるべきか
執筆者:安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・橋本幹彦氏は、年金の支給開始年齢を長期的には平均寿命に近づけていくのが方向性だと述べた。
・玉木雄一郎氏は「国民民主党として受給年齢の引き上げか、決めてませんから」と述べ、党の立場と一候補の考えを切り分けた。
・政府が2024年7月に公表した財政検証に、支給開始年齢の引き上げは試算項目として入っていない。
国民民主党の代表選挙で、年金の支給開始年齢を引き上げるかどうかが論点になった。橋本幹彦衆議院議員が支給開始年齢を平均寿命に近づけるのが方向性だと述べ、玉木雄一郎代表は「国民民主党として受給年齢の引き上げか、決めてませんから」と述べ、党の立場と一候補の考えを公開の場で切り分けた。2026年8月23日、ニコニコニュース主催の候補者ネット討論会でのやり取りである。
▼候補者ネット討論会 主催:ニコニコニュース 2026年8月23日配信(該当箇所は47分30秒〜54分44秒)
https://www.youtube.com/watch?v=hheXfcWUujU
橋本幹彦氏は何を提起したのか
年金を受け取り始める年齢を、長期的には平均寿命に近づけていくという方向である。
橋本氏は「当初年金制度を始めた時には、その年金支給年齢というのは、そこがすなわち平均寿命だった」が「今どんどんどんどん高齢化して」いるとして、こう続けた。「この年金の支給年齢というのは、長期的に考えていくと平均寿命に近づけていく、というところがもう方向性だと思います」と述べた。
司会者が「一律で決まっていた受給のルールを変えるということか」と問うと、橋本氏は「本当にものすごく難しい改革だと思います」としたうえで、「若い人たちを増やしていく」というもう一つの道も「なかなか難しい」とした。
現時点で老齢基礎年金を受け取り始めるのは65歳だ。厚生年金も昭和60年の法律改正で60歳から65歳に引き上げられたが、移行は段階的で、いまも生年月日と性別で開始年齢が違う。
日本年金機構によると、60歳台前半から特別支給の老齢厚生年金を受け取れるのは男性が昭和36年4月1日以前、女性が昭和41年4月1日以前に生まれた人に限られ、それ以降に生まれた人は65歳からだ。厚生労働省の令和6(2024)年簡易生命表では平均寿命は男81.09年、女87.13年。65歳の人がその後さらに生きる年数の平均(平均余命)は男19.47年、女24.38年である。
玉木雄一郎氏はなぜ「党として決めていない」と述べたのか
一候補の考えが党の方針として受け取られることを避けるためである。
玉木氏は「国民民主党として受給年齢の引き上げか、決めてませんから」と述べ、「1候補の考えなんで」と釘を刺した。討論の終わりにも「まだ党内でそういう議論はしておりません」と繰り返す。
理念そのものは否定していない。「理念としては分かるし、平均寿命も伸びてるので、長期のリスクをカバーするっていう意味では生きる時間が長くなってる」。そのうえで「受給開始年齢を引き上げるっていうことは、あらゆる他の制度にも影響を与える」と結んだ。
玉木氏が代わりに挙げた見直しは何か
玉木氏は、支給開始年齢そのものではなく、受け取り方の側の手直しについて言及した。
一つは繰上げ・繰下げ受給で、玉木氏は「遅く受け取れば受け取るほどたくさんもらえる」仕組みを挙げた。日本年金機構によると、繰下げは66歳以後75歳までの間で選べ、増額率は最大84%である。ただし長生きを前提にした選択でもある。
もう一つが在職老齢年金だ。働きながら年金を受け取ると一部または全部が支給停止になる仕組みで、玉木氏は「減らさないように」と述べた。日本年金機構によると、令和8年4月の改正で支給停止の基準額は月51万円から65万円に上がっている。
橋本氏はどう応じたのか
橋本氏は「一候補としての考え方は聞かれてるわけですから」「ここは討論会なので」と述べ、討論会である以上、一候補として自分の考えを述べてよいはずだと反論した。
玉木氏の挙げた手直しは「それはやったらいい」としたうえで、30歳である自分の世代に触れ、「私と同じ世代あるいはより若い世代がどのように思ってるかというと、もう年金もらえないよねと半ば思ってるわけです」と述べた。
抜本的な改革は必要で、その議論は「メディアの皆さんも含めて、理解していただかなければならない」とした。同じ8月23日の党主催の候補者討論会(大阪府)でも「100年安心と言っちゃったから、改革する必要ないよねというような雰囲気もある」と語った。
繰下げ受給は何歳まで生きれば得になるのか
70歳まで繰り下げるなら82歳前後、75歳までなら87歳前後が目安になる。いずれも税や社会保険料を差し引く前の数字である。
増額率は1か月0.7%で、70歳まで5年繰り下げれば42.0%増える。厚生労働省はこの増額率を、「どの時点で受給し始めた場合でも、65歳時点での平均余命まで生きた場合の受給総額が、数理的に年金財政上中立となることを基本として設計されている」と説明する。前述の平均余命を基準にした設計だという意味で、平均より早く亡くなれば繰り下げた分は戻ってこない。
日本年金機構は繰下げによって「年金生活者支援給付金、医療保険・介護保険等の自己負担や保険料、税金に影響する場合があります」と注意を促す。繰下げ待機中は加給年金額や振替加算も受け取れない。実際の目安は、収入や家族構成によって人ごとに後ろへずれる。
筆者自身、年金事務所でこの説明を受けて繰下げをやめ、68歳から受け取り始めた。ただし、これは昭和30年生まれである私の例である。繰下げの起点はどの世代も65歳だが、その手前で受け取れる分は生年月日で異なる。70歳まで待った場合、取り戻せるのは82歳を過ぎてからだと目の前で示されれば、判断は変わる。増やす選択肢があること自体は正しい。ただしそれは、何歳まで生きるかという読めない前提の上に乗っている。
政府は支給開始年齢の引き上げを検討しているのか
少なくとも直近の財政検証では、支給開始年齢の引き上げは試算の項目に入っていない。
厚生労働省が2024年7月に結果を公表した令和6年財政検証のオプション試算は、被用者保険の適用拡大、基礎年金の拠出期間の45年への延長、マクロ経済スライドの調整期間の一致、在職老齢年金制度の見直し、標準報酬月額の上限の見直しの五つだ。支給開始年齢そのものを動かす試算は含まれていない。
橋本氏の提起は、いま政府が机に載せている選択肢の外側にある。玉木氏の「まだ党内でそういう議論はしておりません」は、その意味では現状に沿ってもいる。開票は9月6日だ。
▼候補者ネット討論会 主催:ニコニコニュース(2026年8月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=hheXfcWUujU
▼国民民主党代表選挙2026/候補者討論会(大阪府)(2026年8月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=tH3e91MTYl4
◆番組で語られたそのほかの論点
・厚生年金の保険料率を18.3%から17.3%へ引き下げる玉木氏の提案。根拠はGPIFの運用益(47分30秒〜)
・自民党との連立と、いわゆるコンフィデンス・アンド・サプライ(21分48秒〜)
・高市政権の経済政策への評価と国内投資(29分27秒〜)
・食料品への消費税減税と給付付き税額控除(42分36秒〜)
・高齢者の医療費の窓口負担割合(1時間44分49秒〜)
【よくある質問(FAQ)】
Q1. 特別支給の老齢厚生年金とは何ですか。
昭和60年の法律改正で厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられた際、段階的にスムーズに移行するために設けられた仕組みです。
Q2. マクロ経済スライドとは何ですか。
現役世代の人口減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。
Q3. 財政検証とは何ですか。
公的年金の財政の将来見通しを示すもので、直近は令和6(2024)年7月に結果が公表されました。
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・代表の発信は個人か党か 国民民主党代表選、党運営のプロセスを問う
トップ写真:橋本幹彦候補(左)、玉木雄一郎候補(右)
出典:国民民主党
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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