豪州向け「もがみ級改」輸出の課題とは?仕様・費用・主契約の懸念点を解説
執筆:清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・豪州向け汎用フリゲイト11隻は契約に至ったが、レーダーやソナー、戦闘システムの統合と兵装の改修を誰が担い、費用を誰が負担するのかが決まっていない。
・日本の護衛艦建造では主要装備が官給品で、三菱重工業が手掛けるのは船体である。「三菱重工が造る」という豪州側の理解と、日本の実務は食い違っている。
・もがみ型は22隻の計画が12隻で建造を終え、クルー制も自動化も実現しなかった。その問題は輸出先で表面化する。
オーストラリア海軍の次期汎用フリゲイトに採用された「もがみ」型護衛艦の能力向上型11隻は、契約が動き出したいまも、仕様の統一、戦闘システムの統合、主契約者の責任範囲という根幹が詰め切れていない。2026年4月18日、豪州政府と三菱重工業は最初の3隻の建造契約を結び、日豪両政府は協力覚書「もがみメモランダム」に署名した。戦後初の護衛艦輸出は、どこに躓きの石があるのか。防衛ジャーナリストの清谷信一氏が読み解く。
オーストラリアは日本の海上自衛隊が採用するもがみ級改を11隻採用する予定である。
この4月18日に日豪政府間で正式な契約が結ばれた。だがそこには多くの深刻な問題を内包している。最悪、プロジェクトは空中分解する可能性があるが、誰もそれを指摘しない。
◆ハンター級フリゲイトで何が起きたのか?
ことの起こりはオーストラリア海軍が導入するはずだったハンター級フリゲイトの能力不足と価格の高騰だ。これはBAEシステムズ・オーストラリアが主契約で英海軍向けの26型フリゲイト(6,900トン)をベースに国産AESAレーダーやイージス・システムの採用を含む5つの設計変更を施して8,000トンで収まる予定だった。
だがハンター級は満載排水量が10,000トンに達して最高速度や水上航行の性能が予定より低下、さらに低速・巡航時に使用する電気推進と国産AESAレーダーに回す電力が両立できないという問題点もおこった。しかも2024年10月の時点で、4隻あたり約100億ユーロ(約1兆6000億円)以上に費用が高騰した。最初のハンター級の運用開始は2034年だが、2019年に過酷な使用によるアンザック級の劣化が想定以上だったこともあって計画を見直し、ハンター級の調達数を9隻から6隻に減らし、新たな多目的フリゲイトの導入を決定して3者から日本の提案するもがみ級改が採用された。
◆豪州はなぜ「もがみ」型改を選んだのか?
オーストラリア政府が日本の水上戦闘艦注目したのはその調達性と納期だ。海上自衛隊が採用したもがみ級改は2024年度予算では2隻1,740億円、1隻870億円で要求されている。ハンター級に比べれば格安だ。しかも今後は円安傾向が続くことがほぼ確定なので調達コストは尚更低く抑えられる。
またこれまでのもがみ級の調達でも毎年2隻のペースで建造され、遅延も発生していなかったこと、さらに乗員は従来型の半数程度の90人で済む点も評価された。

写真)FFM-1 もがみ
出典)海上自衛隊ホームページ
この新型フリゲイトは11隻が調達予定だが最初の3隻は日本で、1隻目は2030年の運用開始を目指す。その後はオースタル造船所で建造する。コンロイ防衛産業相は、戦闘システムの英語への翻訳とオーストラリアの国内法規に適合させる為の変更を除けば、基本的に三菱重工業の提案をそのまま導入することを表明しており、海自向けの1隻がオーストラリアに割り当てられることがほぼ決定している。
◆日本と豪州で造る艦は同じ仕様になるのか?
しかし、である。日本で建造する3隻と、オーストラリアで建造する8隻を同じ規格にするのか。それとも現地生産の4隻目からは自前のシステムを搭載するか、ということは明らかになっていない。そもそもレーダー、ソナー、コンバットシステムなどに対する自是の調査は殆ど行われていない。
オーストラリア海軍の艦艇の多くはコンバットシステムとしてサーブの9LVを採用しているが、日本のシステムを搭載するのであれば、既存艦艇との指揮通信に齟齬が生じることになる。またレーダーやソナーにしても豪海軍が求める機能が担保されているのか、アフターサービス体制はどうするのかなどの問題もある。
更にシステムが全部日本製となるとオーストラリアの電子装備メーカー、例えばBAEシステムやタレス、サーブ、ローデ&シュワルツなどといった現地企業は大きな仕事を失い、そして地元の雇用が得られなくなる。地元選出の政治家が黙っているか。
また海自とオーストラリア海軍では使用しているミサイルなど兵装も異なる。日本製のレーダーやコンバットシステムにそれらを射撃するための改修が必要であり、また実際の試射も必要だ。それを誰が担当し、責任をもつのか。またその費用を誰が負担するのか。三菱重工なのか、防衛装備庁なのか、オーストラリア海軍なのか現地のシステムインテグレーターなのか。
◆「主契約者」の意味は日豪で同じなのか?
主契約社に対する認識も日豪では異なる。4月8日の日豪防衛省共同記者発表でリチャード・マールズ副首相兼国防相は三菱重工主契約者あるとの認識を示したが、大丈夫のか。筆者が取材する限り三菱重工関係者は「うちが作るのはドンガラ(船体)だけ」という認識だ。
我が国の場合護衛艦建造は主契約社といってもレーダーやソナーなどはメーカーから防衛省に納入したものを官給品として受け取って取り付ける。だから本当の意味での主契約社と言えない部分がある。
F-2戦闘機がその好例だ。F-2は長年レーダーの不具合に悩まされてきたが、これは機体とレーダーのマッチングが問題だった。これが長年解決しなかった理由は三菱電機製のレーダーが官給品であり、技本が間にはいっていたことだ。三菱重工の当時の重役は「わが社が主契約社としてはじめからレーダーにかかわっていたら遥かに短期間に不具合を直せた」と筆者に語っている。
今回のプロジェクトの問題はハンター級で機能や予算で大きな問題を起こした海軍とBAEシステム・オーストラリアに対して政治主導で行われたことだ。無論それ自体が悪いわけではない。だがその結果政治と実務者とのすり合わせが不足している可能性ある。
一般に海外の関係者は海上自衛隊や装備の実力を過大に評価している。それは過去の帝国海軍の歴史や、現在でも世界3大海軍の一角であることが影響している。だが海自にそれほどの当事者能力はない。
◆もがみ型は成功した艦なのか?
もがみ級にしても失敗作だ。それは20隻が導入されるはずが、12隻で調達を打ち切られたことが証明している。これは水上戦闘艦としての能力を犠牲にして、ひたすら安価で乗員数の少ない「安普請艦」を目指したことが原因だ。
それでも乗員数を減らして当初予定した3隻で4組のクルーを揃えるクルー制を導入できいればよかった。だが乗員不足でクルー制は導入できなかった。クルー制によって乗組員の負担を減らす、艦の稼働率の向上という目的が達成できなかった。航海が終わって次の組のクルーが乗り込めばすぐに出港が可能で、その間前のクルーは陸上で休息や教育を受けることが可能であり、艦が港で遊ぶ期間が減らせる。
また例えばアデン湾での海賊対処の任務であれば、交代要員は飛行機で送り込める。これが別の艦を派遣するのであれば、往復1か月はかかるだろう。その分の航海を減らすことができるというわけだ。
そして実は自動化はさほど進んでいない。例えばヘリ格納庫前の飛行甲板周囲に展開する脱落防止板は自動ではなく、人力で行わなければならない。これも調達コストを削減のためだという。80名しかいないクルーにとって負担は大きいだろう。当時の財務省の主計官は「相談してくれたら予算を付けたのに」と嘆いていた。
本来省力化するということは人間がやることを自動化、機械化するということであり、その分の投資が必要だ。例えば従業員100名の工場がロボット導入で50名に従業員を削減するならばその分のロボットに対する投資が必要だ。人員を減らして、建造費も減らせるなどという虫のいい話はない。
海幕は引き続きもがみ級、もがみ級改良型でもクルー制導入を目指すといっているが実現できるかどうかわからない。にもかかわらず戦時に役に立たない哨戒艦を12隻導入する。その乗員は12隻で360名。これを使えばもがみ級のクルー制は実現できたはずだ。海上警備は導入したシーガーディアンでも可能だ。海幕には当事者意識が欠けている。
また海幕はもがみ級でのクルー導入を発表しなかった。これは筆者の海幕長会見での質問で明らかになった。都合の悪いことは黙って隠蔽しようという組織を信用することができるだろうか。これは海幕に限ったことでなく防衛省、自衛隊共通している通弊である。
民主国家の「軍隊」であれば当然開示すべき情報を隠蔽するのは文民統制上大問題だ。とても文明国の「軍隊」とは言えない。
◆もがみ型は戦時に何ができるのか?
もがみ級は戦時には役に立たない。対空ミサイルは近距離の個艦防御用のSea RAM×1基、62口径5インチ砲×1基、RWS2基に過ぎない。そしてMk.41 VLS (16セル)×1基は後日搭載することとなっていた。たまたま岸田政権で防衛予算が大幅に増えたので途中から建造時に装備され、既存の艦にも装備されることになった。中期までの艦はVLS搭載部分が空洞になっている。このため船体の強度が低く、下手をすると荒れた海では船体がねじれて、崩壊・沈没の可能性がある。
中距離以上をカバーする艦対空ミサイルは搭載しない。VLSが搭載されても対空ミサイルはレーダーの仕様で使用できないからだ。近距離防御用には他の護衛艦が搭載している20ミリガトリング機関砲とレーダーを連動させたCIWSも搭載していない。近接防御では日本製鋼所が開発した12.7ミリ機銃を搭載したRWS(リモート・ウェポン・システム)「水上艦艇用機関銃架(遠隔操作型)」がブリッジ左右に2基装備されている。これも問題だ。二基では死角が大きい。
そもそもRWSを使用した経験もないのに、書類審査だけで日本製鋼所の案を採用した。実験艦などのテストベッドで試験運用もしていない。そもそも日本製鋼所のRWSは陸自用に開発されたが、採用されなかったものである。当然陸上用である。他国では海軍用のRWSを開発、使用している。これは陸上と違って塩害対策が必要であり、また水上の目標の探知は地上と大きくことなるので、それに合わせたセンサーやソフトウェアの改変が必要だからだ。そのようなことをやっていない。
何より本来装備されていた自動追尾装置とレーザー測距儀がコスト削減のために外されている。これによってドローンや高速ボートなどの機動が激しい目標を射撃するのは不可能だ。これは何のためにRWSを搭載するのか理解しておらず、単にコスト削減だけを目指したからだろう。このような装備庁や海幕が果たしてまともに水上戦闘艦艇の開発を指導できるだろうか。疑問を感じるのが普通だろう。
他国では12.7ミリ以外に20〜40ミリクラスの中口径機関砲を搭載したRWSを併用し、あわせて有人の銃座も併用しているケースが少なくない。
つまり、そもそももがみ級はコンセプトの段階で失敗しており、果たして海自はもがみ級の問題を性能向上型で解決できたのか大変疑問が残るところだ。豪州へのフリゲイト輸出はプロジェクトが進むにつれて、問題が表面化するのではないか。それは輸出をするための勉強代ということになるだろう。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. フリゲイトとは何ですか?護衛艦とは違うのですか?
A1. 各国海軍が水上戦艦に付けている艦種呼称のひとつで、同じ艦でも国によって呼び方が変わります。日本は水上戦闘機を「護衛艦」と呼び、防衛省は「もがみ」型を「新型護衛艦(FFM)」と表記しています。一方、オーストラリアはアンザック級フリゲイトの後継として、この艦の能力向上型を「汎用フリゲイト」と呼んでいます。つまり、本稿の「フリゲイト」と海上自衛隊の「護衛艦」は同じ艦を指しています。
Q2. 豪州の「汎用フリゲイト(GPF)計画」とは何ですか?
A2. オーストラリア海軍がアンザック級フリゲイトの後継として11隻を取得する計画です。2025年8月5日、豪政府は三菱重工業の「もがみ」型能力向上型を選定しました。
Q3. 「もがみメモランダム」とは何ですか?
A3. 2026年4月18日にメルボルンで小泉進次郎防衛大臣とリチャード・マールズ豪州副首相兼国防大臣が署名した、豪州汎用フリゲート事業に関する日豪の協力覚書です。契約そのものではなく、事業を官民一体で進めることを両政府が文書で確認したものです。
Q4. 「令和6年度型護衛艦(4,800トン型)」とは何ですか?
A4. もがみ型護衛艦の能力向上型で、新型FFMとも呼ばれます。豪州向けはこの型がベースになります。1番艦は三菱重工業長崎造船所で建造し、2029年12月の納入を予定しています。
Q5. 4隻目以降はどこの造船所が造るのですか?
A5. 西オーストラリア州のヘンダーソン防衛拠点です。豪政府はオースタルの新設子会社Austal Defence Shipbuildingと戦略的造船協定を結んでおり、マールズ副首相は2030年に同地で建造を始める予定だと述べています。
【シリーズ紹介・バックナンバー】
防衛ジャーナリスト・清谷信一氏が、日本の安保政策や軍事の現状を多角的な視点から分析。過去の寄稿を遡って読むことで、複雑に絡み合う日本の防衛課題と世界情勢をより深く洞察することができます。
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(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:マールズ豪州副首相兼国防大臣と握手を交わす小泉防衛大臣 2026年4月18日 オーストラリア・メルボルン
出典:防衛省
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。
2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェン
東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/list/se
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