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.社会  投稿日:2026/8/21

軍事参入企業へのボイコットは正義か?


執筆:清谷信一 (防衛 ジャーナリスト) 

 

【本稿のポイント】

・楽天とドイツの軍事ドローン企業ヘルシングとの提携をめぐるボイコット運動が起きているが、YKKやゴアテックス、ソニーなど身近な製品・企業も軍事分野と結びついており、真の「軍事フリー」の実践は事実上不可能。

・歴史学者の東京新聞への寄稿にも事実の捻じ曲げがあり、「お気持ち平和主義」がまともな安全保障議論を阻害している。

・武器輸出に反対するなら、輸入との整合性や紛争当事国への支援の是非など、具体的な論点に踏み込んだ議論をすべき。

 

楽天グループがドイツの軍事ドローン企業ヘルシングと提携したことを受け、X上でのボイコット運動や通販生活の楽天市場撤退が起きた。防衛ジャーナリストの清谷信一氏は、こうした反応を「表層的」かつ「反知性主義」的だと批判し、YKKなど身近な製品・企業がいかに軍事分野と密接に結びついているかを具体的に列挙。真に「軍事フリー」を貫くことの困難さを示した上で、軍事的教養に基づいた議論の必要性を訴えている。 

 

◆楽天ボイコットは「反知性主義」 千羽鶴のたとえ

楽天グループが迎撃用ドローンを開発するドイツのスタートアップ企業、ヘルシングと提携を決定した。同社はヘルシングがドローンを日本の防衛省へ納入するのを支援し、将来的には国内での量産化も視野に入れる。

これに対してXでは多くのアカウントが軍事に参入する楽天に対するボイコットを表明した。また通販サイトの通販生活(カタログハウス)は楽天市場への出店を取りやめると発表した。

個人や企業がどのような主義主張に基づいてどのような行動をとるかは自由だ。だが自分たちの行動に果たして実効性があるのか整合性があるのか理解せずに脊髄反射的に行動しているのは問題だ。それは反知性主義である。

このような行動は平和主義者が極めて表層的にしかものを観ていないと宣伝するに等しいと筆者は思う。またこのような表層的な平和=軍事嫌悪は現実の安全保障に向き合うことなく、まともな安全保障や平和構築に向けた議論の妨げにすらなるだろう。

例えば被災地に千羽鶴を送るのと同じだ。本人や世のため人のためと心を込めて鶴を折って送るが、送られた方にしてみれば単なるごみでしかなく、かえって復興の邪魔になるだけだ。

上記の個人やカタログハウスはXのサービスを利用し止めていないが、Xの親会社であるスペースXは軍用人工衛星の打ち上げや、システムの構築衛星を使った通信システムス、スターリンクなどで米国防総省その他の組織から契約を獲得している「軍事企業」である。であればXのアカウントを閉じるのが筋だろう。

また通販生活は楽天市場からの撤退は表明しているがAmazonからの撤退は表明していない。Amazonはクラウドサービスを国防総省などに提供していることは問題としないのか。

 

◆YKK、帝人、ゴアテックス 身近な製品と軍事の結びつき

そして通販生活の扱い商品も「軍事企業」のコンポーネントや素材を少なからず使っている。例えばウェアやバッグに使われているYKKのジッパーだ。YKKのジッパーは世界の軍隊で軍服やバックパックなど使用されている。品質が高いためにYKKジッパーを使用することが仕様に求められていることも多い。また同社はドイツの特殊部隊などと防水ジッパーを共同開発するなども行っている。

写真)s-2015年のDSEIでのYKKの出展

出典)筆者提供

同社は帝人系列会社の製品も多数採用している。除湿布団・衣類収納袋は帝人フロンティアの高吸水・高吸湿繊維「ベルオアシス®」を使用し、ココカラ コンパクトアウターは帝人フロンティアのロングセラー素材「トリクシオン®」を採用している。

帝人は防弾ベストや複合装甲、難燃性戦闘服などに使用されるパラ系アラミド繊維、トワロンを販売しており、世界のシェアは2位だ。また同様な超高分子量ポリエチレン系繊維であるエンデュマックスも発売している。

写真)s-2024ユーロサトリの帝人ブース

出典)筆者提供

また同社は旭化成アドバンスが開発した吸湿発熱素材「ヒートコットン」を用いた寝具なども販売しているが、旭化成は99式155mmりゅう弾砲発射装薬、12式地対艦誘導弾能力向上型のブースタなどを自衛隊に供給している。

通販生活では通気性の高い防水素材ゴアテックスを使用した商品もある。例えばアサヒシューズのレインスニーカー、晴雨兼用・手のひら帽子だ。ゴアテックスはアメリカ軍のナティク研究所と協力して1980年代に画期的な寒冷地被服システムを開発、その後多くの軍隊でゴアテックスが採用されている。同社の高耐久な航空機用マイクロウェーブ/RFケーブルアセンブリや、機体構造用のガスケット・シール材などのは軍用機に広く使用されている。通販生活はこれらの企業との取引には問題がないと考えているのだろうか。

楽天だけを非難してこれらの企業との取引を停止しないのはなぜだろうか。

 

◆「軍事フリー」の生活は可能か 鉄道・航空・家電の実例

楽天市場や楽天トラベルの使用を止めたり、楽天カードを解約してカタルシスは得られるだろう。だが生活全体で「軍事フリー」を実行するのは容易ではない。

「軍事フリー」を実践するのであれば前出のYKKのジッパーやゴアテックスを使用したウエアやスニーカーなどは使用できない。インビスタのコーデュラナイロンを使用したバッグもNGだ。これまた軍隊で多用されている。

公共交通機関では例えば列車では日立と川崎重工とのシェアが高い。それぞれ3割、2割だ。両方とも防衛部門を持っているので「軍事フリー主義者」はこれらの車輛を避けて利用しないといけない。また旅客機、貨物機のほとんどはボーイング、エアバス、更にボンバルディアやエンブラエルだがこれらは皆軍事部門を持っている。であれば航空が会社を使った空の旅もできないし、空輸された野菜やチーズなどの利用も控えないといけない。

タイヤメーカーの横浜ゴムやブリジストンも防衛省に納入をしているので自動車に乗ることも拒否しないといけないだろう。

クーラーの使用も難しい。ダイキン工業、三菱電機、日立、パナソニック、シャープ、富士通ゼネラル、東芝、三菱重工業すべて防衛産業にかかわっている。新興のアイリスオーヤマも防衛省納入企業である。

Sonyはゲーム・音楽・映画の巨大企業だ。ゲームならPlayStation 5など、音楽は世界的な音楽ストリーミングサービスからの収入増加に加え、ライブや物販、IP(知的財産)ビジネスも手掛けている。『鬼滅の刃』をはじめとするアニメ関連の音楽や周辺ビジネスも、このセグメントの大きな稼ぎ頭となっている。実はSonyは楽曲の版権ビジネスでは大手で、管理楽曲数は700万曲を超え、業界トップだ。映画では 劇場公開映画のヒットに加え、Netflixに次ぐ世界2位のアニメ配信プラットフォーム、「クランチロール」も傘下だ。多くの人がソニーのゲーム、楽曲、映画やアニメを楽しんでいる。

だがSonyは光学電子センサーの最有力企業であり、これは無人機や航空機、ミサイルのシーカーなどに使用されている。Sonyのセンサーがなければ近代戦は戦えない。であれば「軍事フリー」、軍に関係する企業をボイコットするならSonyもボイコットしないといけないだろう。

写真)s-セルビアのミサイル、ALSL。ソニーのCCD素子がシーカーとして使用されている

出典)筆者提供

多少大人気無い気もするが、あれこれ企業の軍事事業の例を挙げてみた。軍事にかかわる企業を自分の生活から完全に排除するのが如何に難しいかは理解できたのではないか。はじめに述べたが、軍事に参入する楽天をボイコットするのは個人の自由である。その一方でYKKやゴアテックスの利便性を日常で享受していることに疑問すら抱かないのは、第三者からみれば極めて滑稽であるということだ。から見れば喧嘩でボコボコに殴られたチンピラが「今日のところはこれで許してやらあ!」と捨て台詞を吐いて逃げて行くのと同じような印象を受ける。

 

◆藤原辰史教授の寄稿への批判 「お気持ち平和主義」という宗教

平和を望むのであれば軍事に対しても一定の知識や教養が必要ではないか。平和憲法を念じ、千羽鶴を折って平和が実現するならば誰も苦労はしない。

そして学者ですらこのような「お気持ち平和主義」を唱える。例えば京都の歴史学の藤原辰史教授の東京新聞への寄稿はその典型例だ。歴史学者事実を捻じ曲げた捏造までしている。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/508343

>ナチスは1935年、ベルサイユ条約で禁止されていた再軍備の断行を宣言し、その4年後に戦争に突入した。気をつけたいのは、戦争があったから再軍備したわけではなく、再軍備をしたから戦争が起こったということだ。

では戦後再軍備をした現在のドイツやイタリアは戦争に向かっていのか。これはドイツやイタリアに対する侮辱である。

>現在の日本を顧みたとき、殺傷能力を持つ武器輸出解禁を強行したことは、大きなターニングポイントだった。日本製の兵器がこれから世界各地で子どもたちを殺し、その怒りは日本にも向かい、日本の軍需工場も攻撃されやすくなる。もう後戻りできない。

これまた「お気持ち表明」でしかない。この文面をよむ限り、国産武器を自衛隊が使う分には問題ないともとれる。だが国産兵器は市場でもまれた経験もないので低性能、低品質、そして値段は他国の数倍も高く防衛表浪費している。それを是とするのか。

>心理的にも経済的にも兵器に頼り始めると、言葉の信頼は必ず失われていく。兵器は対話が失われた場所で用いられるからだ。

その伝でいえば、ウクライナやイランは言葉が足りなかった、侵略されたり、攻撃されたりするのはお前らが悪いのだ、ということになる。本当に歴史を勉強してきたのか疑いたくなる。

本来平和の構築は論理的に論じるところを「お気持ち」で推し通すのは原理主義的「宗教」である。平和を欲し具体的に政策を批判、討論するのであれば軍事の知識と教養が必要だ。それがないから日本では軍事に関する議論が「神学論争」になりやすい。

健康でありたいならば病気や怪我について知識が必要なのと同じだ。ところが「平和論者」の人たちの主張は「私は健康でありたい。病気は嫌いです。だから病気に関してまったく知りたくもないです。ひたすら神様に祈れば健康になれる」と主張するに等しい。例えば糖尿病患者がひたすら神に祈ってさえいれば、いくら甘いものや酒を暴飲暴食しても健康になれるのか、ということだ。

 

◆武器輸出に反対するなら答えるべき7つの問い

そして殺傷兵器を輸出しないのが「平和国家」という主張も多い。軍事的の初歩的な教養があればこのような原理主義的な発想はでてこない。殺傷兵器を輸出しない=現在の日本=平和国家であると主張するなら以下の質問にどう答えるのか。

1)武器を輸出せず、輸入は許されるか?

我が国は多くの外国製の殺傷兵器を購入している。平和主義者の言う「死の商人」を儲けさせることになるのだが、これはいいのか。国産兵器ならば相手の軍隊の将兵を殺しても問題ないのか。これはまるで売春は許さないが、買春は問題ないというに等しいのではないか。

2)質の低い国産兵器を高値で買って税金を無駄に使うのが平和なのか?

我が国の「自称現実的保守派」も「平和主義者」も日本の兵器産業の実力を過大に評価している。日本の兵器が一度輸出されれば瞬く間に世界を席巻すると信じている。だがこれはイリュージョンだ。率直に申し上げて日本製兵器は二流三流でしかない。それは昨年アベマTVに出演したときに、中谷元前防衛大臣も認めていた。

我が国は戦争もしていないし、国際市場で兵器を売ることもないので我が国の兵器は競争に晒されていない。このため他国の兵器に比べて低性能、低品質、旧式化した兵器が極めて多い。しかもそれは国際価格に数倍から一桁高い。戦争になれば役に立たない。それを許容すべきなのか。

3)そもそも自衛隊など自衛手段を維持するのか放棄したいのか?

軍事力や軍隊を持たずに、平和憲法を活かして外交努力をすればいいという主張は多いが、であればロシアに攻め込まれたウクライナや米国から攻撃されたイランは外交努力を怠った、あるいは不戦を誓った平和憲法がないから自業自得であるということになるのではないか。

4)武器輸出をするのは「悪い国」なのか?

一般的にスイス、スウェーデンその他北欧諸国などは「平和主義者」にとってもいいイメージがあるかと思がこれらはすべて兵器輸出国で世界のメジャープレーヤーだ。カナダも同様だ。「平和主義者」はこれら国々を「死の商人国家」と批判したことを筆者は寡聞にして聞いたことがない。これらの国々は平和構築のための外交活動やPKOに多数参加して血も流してきた。これらの国々を「死の商人国家」として糾弾するのか。それはこれらの国々にとって大変失礼ではないか。

5)紛争当時国に武器輸出はダメなのか?

侵略された国が十分な兵器を保有していない場合、外国から兵器を導入する、あるいは軍事支援は悪なのか。それは武力侵略を間接的にでも肯定することになるのではないか?そのような主張をするならば我が国も有事に他国からの兵器の調達や供与を受けられないことになる。それとも自分の国は例外なのだろうか。

6)非殺傷兵器でなければ輸出していいのか?

「平和主義者」は人を直接殺さない非殺傷兵器であれば輸出は問題ない、戦争に加担しないと考えているのだろうか。例えば大型の戦略輸送機や早期警戒機、空中給油機、レーダー、無線機、電子戦機などは非武装だ。これはいいのか?レーダーや通信機も必要不可欠だ。相手がどこにいるかわからなければ一方的に負けるのは先の戦争で我が帝国陸海軍がさんざん経験してきたことだ。現代ならば尚更である。

戦争では殺傷兵器だけではなく、非殺傷兵器も極めて重要だ。第二次大戦では米国はソ連に大量の軍用トラックを供与した。これが、ソ連がドイツに勝利した一因となった。いくら戦車があっても前線に人員や食料、燃料を運ぶ手段がなければ軍隊は機能しない。これら「火の出る玩具」以外の兵器を輸出することは構わないのか?

7)素材、コンポーネント、工作機械などの輸出はいいのか。

日本製の炭素繊維、ディスプレイ、光学センサー、工作機械、車輛などは世界の兵器メーカーで使用されている。これらの製品はデュアルユースであるが、殺傷兵器生産にも使用されている。これらを完全に民生品だけに使用するように規制するのは困難である。これらの製品を全般的に輸出規制すべきなのか。

「平和論者」は少しでも上記のようなことを考えたことがあるのだろうか。新聞や学者も空想的な平和主義を唱えるが、高い教育と記者として長年の職歴がある論説員や解説員、あるいは大学教授などが軍事的な教養を高める努力もせず、「お気持ち」で記事や論文を書いていないか。これは反知性主義だ。

兵器輸出に反対は一つの見識である。であれば言いっぱなしではなく、深く議論するだけの軍事に関する見識を学ぶ姿勢が不可欠なはずだ。輸出しないで国内向けだけ開発するにしても性能、品質、コストをどう担保するのか。輸出先を規制するのであればどのようなケースでは輸出を規制するのか。平和を欲するのであればまず軍事の実際を知り、地に足を付けた議論をするべきだ。

「お気持ち平和主義」はむしろまとも議論を阻んでむしろ危うい状況を作って、軍事に関する建設的な議論の場まで奪ってしまうのではないか。

 

【よくある質問(FAQ)】


Q1:「デュアルユース」とはどのような概念ですか?
A:民生用にも軍事用にも転用可能な技術や製品を指す言葉です。記事では、炭素繊維、ディスプレイ、光学センサー、工作機械などが例に挙げられており、こうした製品を民生用途だけに規制することの難しさが論点となっています。

Q2:「死の商人」とはどのような意味で使われている言葉ですか?
A:武器を製造・輸出して利益を得る企業や国を批判的に指す表現です。記事では、日本が外国製の殺傷兵器を輸入している事実を挙げ、輸入によって外国の「死の商人」を儲けさせている点との整合性が問われています。

Q3:「パラ系アラミド繊維」とはどのような素材ですか?
A:高い強度と耐熱性を持つ合成繊維で、防弾ベストや複合装甲、難燃性戦闘服などに使用されます。記事では、帝人が製造する「トワロン」がこの繊維の一種として紹介されており、世界シェア2位であるとされています。

Q4:ベルサイユ条約と再軍備の関係はどのように説明されていますか?
A:ベルサイユ条約は第一次世界大戦後にドイツの軍備を制限した条約です。記事で引用された東京新聞寄稿では、1935年のナチス・ドイツによる再軍備宣言が4年後の開戦につながったと論じられていますが、筆者はこれに対し、戦後再軍備した現在のドイツやイタリアが戦争に向かっていない事実を挙げて反論しています。

Q5:「反知性主義」とはどのような態度を指していますか?
A:物事の実効性や整合性を検証せず、感情や直感だけで判断・行動する態度を指します。記事では、軍事に関する知識や教養を欠いたまま感情的にボイコットを行ったり、「お気持ち」で議論を展開したりする姿勢がこれに当たると批判されています。

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

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防衛ジャーナリスト・清谷信一氏が、日本の安保政策や軍事の現状を多角的な視点から分析。過去の寄稿を遡って読むことで、複雑に絡み合う日本の防衛課題と世界情勢をより深く洞察することができます。

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出典:Sean Gallup/Getty Images



























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