[古森義久]【2049年に米凌ぐ超大国化目指す中国】~南シナ海軍事基地化が示唆するもの~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカの長年の中国に対する政策は根幹部分で大きく間違っていた。中国に「関与」を求めて既成の国際秩序への普通の参入を期待しても、中国にはその意思は最初からないのだ――こんな指摘がアメリカの中国研究の最古参の権威からなされて、ワシントンでの波紋が広がっている。この指摘を公表したのは中国軍事研究ではアメリカでも第一人者とも目されるマイケル・ピルズベリー氏である。最近刊の『100年のマラソン=アメリカを追い抜きグローバル超大国になろうとする中国の秘密戦略』と題する著書での大胆な見解の公表だった。その骨子は以下のようだった。
・アメリカは1970年代のニクソン政権時代から中国には協調的な態度を取り、米中相互の関与を進めれば、中国もやがてはそれに応じ、アメリカ主導の既成の国際秩序、国際社会に加わり、国際規則を守るようになる、という期待に基づく政策をとってきた。
・中国も「平和的台頭」というような偽装めいたスローガンでアメリカを安心させてきたが、現実には建国から100年目の2049年を目標に経済、政治、軍事の各面でアメリカを追い抜く超大国となり、自国の価値観や思想に基づく国際秩序と覇権を確立しようとしているのだ。
・ピルズベリー氏自身は中国が実際にはアメリカを圧して、自国が覇権を行使できる世界秩序を構築することを意図している事実を2010年ごろから認識するにいたった。アメリカ政府でもCIA(中央情報局)などはその事実を認めるようになった。対中関与政策が中国をアメリカの好む方向へ変質させるというのは幻想だといえる。
そして建国から100年をかけてのこの野望達成の企図を中国共産党中枢の当事者たちがひそかに「100年のマラソン(馬拉松)」と呼ぶのだという。アメリカの普通の中国研究者がこのように革命的な見解を発表したのならば、それも一つの異色の意見として軽視されただろうが、なにしろピルズベリー氏は1970年代から70歳代に入る2年ほど前まで一貫して国防総省の長官顧問など重要な地位に就き、中国の軍事動向を分析してきた著名の権威なのである。だから彼の今回の発表はワシントンの中国研究の専門家たちの間でも衝撃的な影響を広げている。
この見解を基にいまのオバマ政権の南シナ海での中国の埋め立て作業など無法な行動への強固な対応をみると、なるほどと思える点も多くなる。日本にとっても認識しておくべき新しい対中国観だろう。