[宮家邦彦]【衆愚政治のギリシャ、緊縮策反対派勝利】~金融支援から人道支援の対象国に~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(7月6日-12日)」
先週末はギリシャ国民投票で緊縮策反対派が事前予想を超える大差で勝利した。これこそ衆愚政治の典型だが、ギリシャ人の名誉のために申し上げる。彼らは決して怠け者ではない。少なくとも、地中海文明圏の水準で彼らは十分勤勉である。問題は地中海と北欧州では基準が異なることだ。そもそも産業革命がなければ、ギリシャやローマは今も先進地域だったろう。後進地域だった北欧州は、技術の進歩により、労働力を組織化し資本を投入すれば工業が発展することを学んでしまった。
この点、地中海世界はもはや太刀打ちできない。地中海は温暖で湿潤、自然の恵みは無限にある。彼らにとって人生は、エデンの園のように楽しむべきものだ。技術革新で効率を高め、利益率と生産性を上げなくたって、十分生きていけるからだろう。
それにもかかわらず、過去数年間、ギリシャ人は一生懸命頑張った。プライマリーバランスを黒字化し、ユーロ圏諸国やIMF、ECBに言われたことはそれなりに実行してきた。それでもギリシャの国民経済は縮小した。これでは借金の返済など無理だ。
○欧州・ロシア
6日にECB(欧州中央銀行)が会合を開く。今やギリシャは金融支援ではなく、人道支援の対象国に成り下がった。8日にギリシャは26週間期限の国債を売却し、10日には20億ユーロのリファイナンスをするというが、一体どうするのか。
8-10日にはロシアが第7回BRICS と上海協力機構の首脳会合を主催する。ギリシャ問題にもちょっかいを出し得る絶妙のタイミングだ。9日にはウクライナに関する米露外務次官級協議が行われるそうだが、進展は望み薄だろう。
〇東アジア・大洋州
7日からフィリピンが南シナ海に対する中国の領有権主張問題をハーグの国際法廷に持ち込むという。だが、確かこの種の裁判は当事国が裁判管轄権を受け入れない限り、裁判にならないはずだ。中国がまともに受けて立つとは到底思えない。
〇中東・アフリカ
延期されたイラン核疑惑問題に関する交渉期限が7日に来る。ケリー長官以下皆が真面目に交渉しているようだが、本当に纏まるのか。纏まる方が不思議だと思うのだが。もし、合意発表があれば、秘密合意の存在を疑う必要があるかもしれない。
米国からイラクにF-16戦闘機が引き渡されるが、イラク人パイロットの技量は低いらしい。1980年代、旧東ドイツ空軍パイロットによる訓練飛行で、イラク人パイロットがGに耐えられず、やたら緊急脱出するという話を聞いたが、今はどうだろうか。
〇アメリカ両大陸
8日から13日までローマ法王がボリビアとパラグアイを公式訪問する。確か、今の法王はアルゼンチン出身だ。彼のテーマは貧困の撲滅であり、わざわざ南米で最も貧しい諸国を選んだそうだ。これでも、これらの国々でカトリック人口が減少しているという。
〇インド亜大陸
今週はインド首相が一連の外遊を行う。まず、6日から8日までウズベキスタンとカザフスタンを訪問、8-10日は前述のとおりBRICSと上海協力機構の首脳会議に出席、その後10-13日にトルクメニスタン、タジキスタン、キルギスタンを訪問する。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。