[宮家邦彦]【海外同時テロをトップで扱わない日本メディア】~中東の不安定化、進む懸念~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(6月29日-7月5日)」
先週末から日本マスコミはトップニュースで女子サッカー・ワールドカップ、自民若手勉強会での「報道圧力」発言や新安保法案の行方を報じていた。その間、欧米マスコミはチュニジア、フランス、クウェートでの同時テロ事件やギリシャ債務不履行問題で大騒ぎ。このギャップ、如何ともし難いのか。どちらが良い・悪いの問題ではないが・・・。チュニジアのリゾートでの銃乱射事件で同国の観光産業は致命的打撃を受ける恐れがある。フランスでの斬首事件は個人的恨みが原因かもしれない。むしろ、クウェートのシーア派モスク攻撃の方が深刻だ。湾岸地域でシーア派施設が狙われ始めたのだとしたら、今後もこの種の事件は続くだろう。
〇欧州・ロシア
29日に中国とEUの首脳会議がある。
EU-China 2020 Strategic Agenda for Cooperationの実施状況を話し合うという。そもそも欧州は中国との政治的懸案がないので、経済に専念できる。これに対し、日米は東アジアの主要政治勢力であり、欧州のような態度はとれない。
30日にはギリシャの対IMF債務(15億ユーロ以上)が期限を迎える。それにしてもギリシャ政府の態度は異常だ。この時点で国民投票をやるなんて、責任転嫁も甚だしい。EU側の堪忍袋の緒は切れつつある一方、ギリシャを破綻させる訳にもいかない。来週も、救済でも破綻でもない状態が続くのではないか。
〇東アジア・大洋州
29日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立協定の調印式が開かれたが、フィリピン、マレーシア、タイを含む7か国が国内手続きの遅れなどを理由に設立協定への署名を見送ったそうだ。他人事ながら気になるところだが、お手並み拝見で良いだろう。
7月4日は北朝鮮による日本人拉致被害者らの再調査開始一周年だが、何かが動いているようには見えない。また、北朝鮮にやられた、ということなのか。そうだとしたら、彼らは一体いつまでこんなことを続けるのだろう。
〇中東・アフリカ
モルシ前大統領の就任から三周年の30日にエジプトの反政府勢力が大規模な抗議活動を行うという。その前日には同国の検事総長に対する暗殺未遂事件もあった。チュニジアで起きたことはエジプトでも起こり得る。いずれも観光立国だが、観光ほどテロに対し脆弱な産業はないからだ。
7月1日にイラン核問題に関する最終合意の期限が来る。枠組み合意ですらできないのに、最終合意もないだろうが、オバマ政権は努力を続けるしかないのだろう。イスラエルやサウジだけでなく、オバマ政権内にも異論が絶えないと聞く。当面は期限延長で誤魔化すしかないだろうが、いずれこの問題には運命の日が来るはずだ。
〇アメリカ両大陸
30日にブラジル大統領が訪米する。元々は2013年10月訪米予定だったが、米国家安全保障局(NSA)によるブラジルでの通信傍受が発覚し中止されていた。1年8か月ぶりの大統領訪米で両国関係は修復に向かう可能性が出てきた。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。