[宮家邦彦]【劇的CO2削減は無理、で合意?】~COP21“パリ合意”の中身~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(12月14-20日)」
今週はCOP21で採択された「パリ協定」なるものをちょっと意地悪く取り上げる。同協定では、①世界共通の長期目標として2℃目標のみならず1.5℃への言及、②主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること、共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けること、③JCMを含む市場メカニズムの活用が合意された。また、④森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する仕組み、⑤適応の長期目標の設定及び各国の適応計画プロセスと行動の実施、⑥先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供すること、⑦イノベーションの重要性が位置づけられたことも含まれる。
更に、⑧5年ごとに世界全体の状況を把握する仕組み、⑨協定の発効要件に国数及び排出量を用いるとしたこと、⑩「仙台防災枠組」への言及(COP決定)も含まれている。日本の外務省はこの中に日本の提案が取り入れられたものも多い、と自画自賛する。素晴らしい内容と言いたいところだが、正直申し上げて、筆者のような素人にはどこが凄いのか良く判らない。
安倍首相は、「史上初めて190余の国々すべてが参加する公平な合意が得られた。世界は新たなスタートを切る。」と述べたそうだが、190もの国々が同意するぐらいだから、agree to disagreeだろう。中身は恐ろしく薄いものではないのか。歴史的な進展があったというなら、誰か、一般庶民に分かるような言葉でこの合意の具体的な成果を教えてくれないか。
どこかの大国が地球温暖化を止めるような画期的な削減をコミットしたのか。中国、インド、米国などの排出量が減るのだろうか。どのニュースを読んでも、そのような奇跡は起きそうもない。要するに、全ての国が劇的な削減は「当面無理」ということで内々一致しただけではないのか。これ以上言えば、「政治的に不適切」になるのだろう。COP21にはもうコメントしない。
○欧州・ロシア
14-17日にメドベージェフ露首相が訪中し、16日にモスクワで露土両国の高官が会合を持ち、17日にプーチン大統領が記者会見を行い、18日にはロシア外相がニューヨークでシリア関係の会合に出席する可能性があるという。ロシア大統領は記者会見で何を言うのか。実に外交らしい最近のロシア外交には興味津々だ。
〇東アジア・大洋州
注目は16日のフィリピン最高裁の判断だ。新しい米比軍事協定が動き出すかどうかはこの判断にかかっているそうだ。だが、南シナ海に力の空白を作ったフィリピンは1991年の失敗を繰り返さないようにしてほしいものだ。また、この関連で17-19日の豪州新首相の訪日も注目される。東京で日豪がどのようなメッセージを出すのだろうか。
〇中東・アフリカ
今週はシリアをめぐり動きがある。14-15日にはトルコのEU加盟交渉が再開される。但し結論は見えているが・・・。15日にはサウジがシリア穏健派の反体制派の会合を主催する。今頃何をしようというのだろうか。15日と18日にイエメンとシリアに関する国際会議が開かれるが、会議は踊るだけならないと良いのだが。
〇インド亜大陸 今週インド陸軍代表団が訪中する。
〇アメリカ両大陸 共和党トランプ候補はまだ頑張っている。
大したものだ。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。