[宮家邦彦]【日本版“英国秘密情報部”発足】~「国際テロ情報収集ユニット」が外務省に~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(12月7-13日)」
今週目を引いたのは、国際テロ関連情報を省庁横断で収集・分析する「国際テロ情報収集ユニット」が8日外務省総合外交政策局内に新設されることだ。報道によれば、同局局長の下で4人の審議官が東南アジア、南アジア、中東、北・西アフリカの4地域をそれぞれ統括するという。4人の内訳は警察庁から2人、外務、防衛両省各1人で、その下に外務、防衛省、警察庁、内閣情報調査室、公安調査庁などから約20人の職員を人選し、各地域に振り当てるらしい。また、在外公館には担当地域の言語や情勢に精通した人材を駐在させるというが、一体何が変わるのか。
更に、官邸には官房副長官(事務)をトップとする「国際テロ情報収集・集約幹事会」も新たに設置されるそうだ。ところで、これらをどう機能させようとするのか。正直なところ、どうもピンと来ない。同ユニットは、「国際テロ」に限定されるとはいえ、一種のインテリジェンス機関なのだろうか。
そうであれば、これは英国式だ。英国のSIS(旧MI6、国外の秘密情報の収集、海外での工作員を用いた情報工作を任務とする秘密情報部)は英外務省の管轄下に置かれているが、英首相や合同情報委員会の指揮下にもある。これに倣ったのかもしれないが、うまく機能することを祈ろう。
〇欧州・ロシア
12日にはモスクワでロシア反政府活動家の大規模集会とロシア大統領対議会演説が行われる。後世のロシア史研究家はこのような「民主でも独裁でもない」中途半端なロシアの内政をどのように位置付けるのだろう。民主化への茨の道か、独裁復活への前奏曲に過ぎないのか。
〇東アジア・大洋州
11日に南北朝鮮がケソン工業団地で次官級対話を行う。12日には台湾の馬総統が、南沙諸島(スプラトリー諸島)北部の最大の島「太平島」を訪問する。ちなみに英語ではItu Aba Islandだが、これはマレー語で「あれは何だ」という意味なんだそうだ。島の名前なんてこんなものなのか。
現在は台湾が実効支配し、高雄市旗津区中興里の一部だ。シーレーン防衛の要衝にあたり、台湾当局は警備のため海軍陸戦隊員や海岸巡防署員を常駐させている。当然台湾以外にも、中華人民共和国、ベトナム、フィリピンが領有権を主張している。
〇インド亜大陸
11-13日に安倍首相が訪印する。今回のインド訪問は同首相にとって2014年1月の訪印に続き、首相として3回目となる。インド側は民生用原子力技術と燃料の供与に関し日本の協力を働き掛ける考えだと報じられたが、日本側はNPT未加盟国インドとの協力には慎重だという。
〇アメリカ両大陸
先週とんぼ返りでワシントンに出張したが、到着直後カリフォルニアで「イスラム国の支持者」であるパキスタン系米国人とその妻による銃乱射事件が起きた。これについて共和党トランプ候補は「イスラム過激派テロ」と呼ぶことに当初躊躇したオバマ大統領を扱き下ろしていた。
ちなみに、驚く勿れ、トランプ候補は先週末のCNN世論調査で支持率36%の共和党ダントツ一位だった。この「トランプ独走」を正確に予想したワシントンの政治評論家はほとんどいなかった。ワシントンに巣食う「既存政治家」が一般大衆に如何に信用されていないかを示すものだろう。
〇中東・アフリカ
7日にイランとP5+1が再び核協議を行う。10日にはGCCが毎年恒例の首脳会談を行う。シリアの状況があれほど悪化しているのに、アラブ諸国はほとんど動かない。GCC諸国の関心事はシリアよりもイエメンなのか。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。