世界一危険な男トランプ誕生秘話
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#30」
2020年7月20-26日
【まとめ】
・トランプ姪、メアリー・トランプ博士が暴露本を出版。
・トランプ氏の社会性は父親によって破壊された。
・精神科医の視点からトランプ氏の人柄が冷徹に分析されている。
正直なところ、先週は不作だった。コロナウイルス関連を除けば、筆者の関心を引くような興味深いニュースはあまりない。強いて挙げるとすれば、ドナルド・トランプ氏の姪であるメアリー・トランプ博士が書いた暴露本『Too Much and Never Enough: How My Family Created the World’s Most Dangerous Man』の出版ぐらいか。
それにしても言い得て妙な題ではある。直訳すれば、『あまりに酷く、終わりがない(叔父トランプの悪行):如何に我が家族は世界で最も危険な男を創ったのか』とでもなるのか。この本の凄いところは、著者であるメアリー・トランプ博士がれっきとした精神科医であり、医学的見地から大統領の人となりを冷徹に分析していることだ。
写真)『Too Much and Never Enough: How My Family Created the World’s Most Dangerous Man』
それにしても、トランプ家とは一体どういう家族なのだろう。メアリーは姪っ子だから、本書では大統領のことを「ドナルド」と呼んでいる。そのドナルドの父親がフレッド・シニア、長男のフレッド・ジュニアがドナルドの兄であり、かつメアリーの父である。ここまでなら普通の家族とあまり変わりないように思えるが、問題はここからだ。
トランプ家最大の問題は、①不動産王フレッド・シニアがおよそ家族の愛や絆に関心のない金の亡者であったこと、②その父親の期待に応えられなかったメアリーの父が家業から離れ、後にアル中で若死にしたのに対し、ウソつきでナルシシストの出来の悪い次男ドナルドが相続税を大幅節税し家業を継ぎNY不動産で成功したことだ。
要するに、ドナルド(の社会性)はフレッド・シニアによって破壊されたということ。それ以外にもメアリー博士のドナルド評は辛辣そのもの、例えばこんな具合だ。申し訳ないが、以下では敢えて英文を短く抜粋する。どうか原文をお読み頂き、メアリー博士の冷徹さ、生真面目さの微妙なニュアンスを感じ取って頂ければ幸いである。
- 嘘つきドナルドAs usual with Donald, the story mattered more than the truth, which was easily sacrificed, especially if a lie made the story sound better.
- 節操なきドナルドThe only time Donald went to church was when the cameras were there. It’s mind-boggling. He has no principles. None!
- 人の悪口を言い合うトランプ家That kind of casual dehumanization of people was commonplace at the Trump dinner table.
- ドナルドは自己愛性人格障害、社会病質者Donald a narcissist — he also meets the criteria for antisocial personality disorder, which in its most severe form is generally considered sociopathy but can also refer to chronic criminality , arrogance, and disregard for the rights of others.
- ドナルドは依存性人格障害for dependent personality disorder , the hallmarks of which include an inability to make decisions or take responsibility, discomfort with being alone, and going to excessive lengths to obtain support from others.
- ドナルドのメアリーに対する卑猥な言葉 “Holy shit, Mary. You’re stacked.” “Donald!” Marla said in mock horror, slapping him lightly on the arm.
- ドナルドは三歳児Donald today is much as he was at three years old: incapable of growing, learning, or evolving, unable to regulate his emotions, moderate his responses, or take in and synthesize information.
- ドナルドのエゴは脆弱Donald is not simply weak, his ego is a fragile thing that must be bolstered every moment because he knows deep down that he is nothing of what he claims to be.
気が滅入るので、もう止めよう。本書ではドナルド・トランプの異常な生い立ちと性格の悪さが、これでもか、これでもかと書かれている。同じく最近出版されたボルトン暴露本も辛辣だったが、米国庶民にとっては姪という身内のメアリー暴露本の方がよりショックだろう。大統領選へのダメージはボルトン本以上に大きいかもしれない。
〇アジア
香港立法会選挙の行方が気になる。民主派候補者が勝利したら拍手喝采だが、逆に弾圧が厳しくなる恐れもある。北朝鮮では金正恩がご立腹、疫病被害のせいだろうか。
〇欧州・ロシア
EU首脳会議では、コロナで打撃を受けた経済復興の基金案について意見が収斂していないようだ。EUは相変わらずだが、どうせ、いずれは妥協するだろう。
〇中東
イランで昨年11月反政府デモに参加したとして死刑判決を受けた3人の死刑執行が猶予されるらしい。国際的批判の高まりが功を奏したのであれば良いのだが・・・。
〇南北アメリカ
米大統領がFOXNewsで新型コロナは「いずれ消える。最後に正しいのは私だ」と繰り返した。FOXのインタビュアーも驚いているように見えた。大統領は本当に大丈夫か?
〇インド亜大陸
インドのコロナ感染は止まらないが、それ以外には特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)Donald Trump
出典)flickr by Bugg’s Photography
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。