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.国際  投稿日:2026/3/10

「無条件降伏」を再び叫ぶ米国とロシア・メディアの分析


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#10

【まとめ】

・トランプ氏はイランとの交渉に見切りを付け、軍事攻撃を望んだネタニヤフ首相の口車に乗ってしまったのでは。

・ロシアのメディアは、イラン情勢の激化がロシアにもたらす影響についてロシア側の見方を伝えている。

・主にウクライナ支援が弱まるとの期待や、エネルギーの「脱ロシア」を図ってきたEUへの「当てこすり」がにじむ。

 

米国大統領の口から「無条件降伏」という懐かしい言葉を久し振りに聞いた。筆者はとっさに太平洋戦争末期の日本のことを思い出した。但し、筆者の念頭にあったのは、「ポツダム宣言」を受諾した1945年8月ではなく、前年の1944年11月、B29による東京空襲が本格化し始めた時期である。

米イスラエル・イラン戦争が二週間目に入り、米軍は大量の精密誘導兵器を駆使してイランを軍事的に屈服させようとしているのだが、果たしてそう上手く行くだろうか。「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」との格言が正しければ、イランがトランプ政権にそもそも「降伏する」ことなどないと思うのだが・・・。

トランプ氏は、イランとの交渉に見切りを付け、軍事攻撃を望んだネタニヤフ首相の口車に乗ってしまったのではないか。イランの力を過小評価し、ベネズエラと同様、戦争は短期間で終えられるという計算ミスを犯したのではないか。イランは紛争の長期化を図るだろう。長期戦に持ち込めればイランの勝ちではないのか。

他方、米国が勝利するのは困難だ。そもそも、何が勝利なのか、決めることすらできないからだ。いずれトランプ米大統領は事実上の失敗を「名誉の撤退」に見せるための口実探しを始めることになるのではないか・・・。以上の見立てを今週のJapan Timesに寄稿するつもりなので、興味のある方はご一読願いたい。

 

次は吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃――ロシア・メディアから」を以下の通りご紹介する。ロシア・メディアが「米イラン関係がロシアに与える好影響」を如何に見ているかを暗示する二つの論評、なるほどと思う。

ロシアのメディアは、イラン情勢の激化がロシアにもたらす影響についてロシア側の見方を伝えている。主要オンラインメディア「Lenta.ru」(3月9日付)が伝えた次の2人の発言は、ロシア国内の典型的な見方と言えそうだ。中東危機をめぐるロシア国内の議論には、西側の関心や資源が分散し、その結果ウクライナ支援が弱まるとの期待や、エネルギーの「脱ロシア」を図ってきたEUへの「当てこすり」がにじむ。

アレクセイ・チェパ ロシア下院国際問題委員会第一副委員長インタビュー記事(要約):

  • イランでの戦争によって、世界の関心はウクライナから冷めつつある。
  • 西側からウクライナへの武器供給は減少するだろう。ウクライナが求めている兵器(とりわけミサイル防衛および防空システム)は、現在では米国自身にとっても不足する可能性がある。
  • 今回のエネルギー危機は欧州にも影響を与え、ウクライナへの資金供与を困難にすることになる。
  • 今回のイラン攻撃で、国際法やルールに基づいて問題を解決できるということに対する国際世論の信頼は低下した。ウクライナ危機での交渉にも一定の影響を与えるだろう。(注:ロシア自身が国際法に違反してウクライナに武力侵攻した事実には触れていない。)

キリル・ドミトリエフ ロシア直接投資基金総裁のコメント紹介記事(要約):

  • (原油価格の上昇で)ロシアのエネルギーが不可欠になると予想される。それを制限しようとしたEUの戦略的な誤算が完全に明らかになるだろう。
  • 原油の新たな目標は1バレル150ドルだ。長期的な紛争となれば200ドルに達する可能性もある。エネルギー危機は残念ながら、多くの人が予想するよりもはるかに深刻で長期的なものになるだろう。

 

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

3月10日 火曜日 仏が原子力エネルギーサミットを主催

3月11日 水曜日 チリ新大統領就任

 オランダ首相訪仏、仏大統領と首脳会談

 欧州理事会議長のアゼルバイジャン訪問

 EU国防大臣会合(キプロス)

3月14日 土曜日 日米が初の「インド太平洋エネルギー安全保障官民フォーラム」を主催

3月15日 日曜日 コンゴで大統領選挙

ベトナムで議会選挙

カザフスタンで憲法改正国民投票

3月16日 月曜日 EUエネルギー大臣会合(ブラッセル)

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。




トップ写真:2026年3月3日、東地中海においてアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ミリウス(DDG 69)からトマホーク対地攻撃ミサイルが発射された様子

出典:U.S. Navy via Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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