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.国際  投稿日:2025/7/16

トランプ政権、ウクライナ政策Uターンの深層と「最初の危機」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#27

2025年7月14-20日 

 

【まとめ】

・トランプ米大統領、ロシアの貿易相手国に100%の2次関税及びウクライナへの武器弾薬供与の意思を発表。

・岩盤トランプ支持層離反の兆しは、トランプ政権にとって最初の危機になり得る。

・「ガザ停戦」協議、イランが影響力を失った以外、基本的に当事者間の力関係は変わっていないと見る。

 

申し訳ないが、今週もトランプ政権の話から始めざるを得ない。

7月14日、大統領はルッテNATO事務総長と会談し、ウクライナ戦争に関する「重大声明」を発表した。ロシアが50日以内に停戦しなければ、ロシアの貿易相手国に対しても100%の2次関税を課し、欧州の資金でウクライナに攻撃兵器も含む武器弾薬を供与するという。

 

4日前の7月10日に予告されてはいたが、文字通り、対ウクライナ政策の「Uターン」とも呼ぶべきものだ、とCNNは報じていた。そもそもの始まりは7月4日の電話インタビューでトランプ氏が「プーチンにはとても失望した」と発言したことだが、続く7日には対ウクライナ武器支援中断決定を覆した経緯がある。

 

米国メディアもかなり大きな政策変更があると予想していただけに、14日の発表自体にあまり意外感はなかった。でも、よーく考えてみれば、「それだったら、なぜ初めからウクライナを支援しなかったのか」と訝ってしまう。これまでの大統領の言動は一体何だったのかと思うのは筆者だけではなかろう。

 

14日のホワイトハウス内での会談で、NATO事務総長はご機嫌、雰囲気も和気藹々だった。しかし、5か月近く前の2月28日には、正にこれと同じ場所、同じ米側同席者の会談で、「お前は感謝が足りない」などと、副大統領と一緒になって、メディアの面前で、しかもオンカメラで、ゼレンスキー大統領を罵倒してたことを思い出す。

 

今トランプ政権に一体何が起きているのか。我々が学ぶべき教訓は何なのか。この点を今週の産経新聞World Watchに書くので、ご一読願いたい。教訓は4つ、西側諸国、台湾、中国、そして内政に関するものだ。最後の内政、特に岩盤トランプ支持層離反の兆しは、トランプ政権にとって最初の危機になり得るのではないかと思う。

 

具体的には、性的人身売買の罪で起訴され、公判前に拘置所で死亡した米国の富豪ジェフリー・エプスタイン氏に関する報告書をめぐる事件なのだが、少なくとも「CNNが大はしゃぎ」する中で「FOXが完全無視」する状態が続いている。エスプタイン(英語ではエスプティーンと発音している)事件についてはこちらが分かり易い。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。今週も夏枯れが続いている。

 

7月14日 月曜日 NATO事務総長訪米(2日間)

 

7月15日 火曜日 ウォルツ前国家安全保障担当大統領補佐官、国連大使の議会承認のため上院公聴会に出席

 

7月17日 木曜日 G20 財務相・中銀総裁会合(南アフリカ)

 

最後にガザ・中東情勢について一言。

今も「ガザ停戦」をめぐる協議は続いているのだろうが、仮に一定の進展があるとしても、結論は見えている。

①イスラエルは、ハマースが軍事的だけでなく政治的にも組織的力量を失うまで、恒久的停戦を受け入れる気がないが、②その点はハマースも同様で、恒久的停戦のために全ての人質を一気に解放する気はなく、首の皮一枚で政治的影響力を保持すべく死力を尽くしたいと考えており、③肝心の米国もガザ停戦のために本気で汗をかく余裕は今のところなさそうだ、ということに尽きる。

 

要するに、イランが影響力を失った以外、基本的に当事者間の力関係は変わっていないと見るのだ。

 

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)トランプ大統領とルッテNATO事務総長との会談 出典)GettyImages/ Kevin Dietsc

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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