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.国際  投稿日:2025/12/18

2025年の国際情勢を振り返るー日本メディアの報道姿勢を問う


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025 #49

2025年12月15-21日



【まとめ】

・今年も残り二週間。研究所の年末イベントで精鋭研究員たちが2025年の国際情勢を振り返った。

・韓国の原潜計画や米国の戦略文書など、今年最も驚いた国際的な出来事を挙げて議論した。

・豪州の反ユダヤ銃撃事件を詳細に報じない日本メディアの鈍感さを理解しない限り、中東は分からない。

 

早いもので、今年も残りあと二週間しかない。今週月曜日には、筆者の所属するキヤノングローバル戦略研究所が「年末だよ、全員集合」なるイベントを開催した。昨年に続く開催だったが、我らが研究所・外交安保ユニットの5人の精鋭研究員が勢揃いして2025年を振り返るという趣向であり、それなりに盛り上がったと思う。

米韓中露から中東、開発援助まで、(それを言っちゃ終わりだが)これだけの研究者が揃うチームは決して多くないはず。彼らが夫々独自の視点で今年の国際情勢を回顧するのだから、モデレーターの筆者自身大いに勉強になった。参加者の方々も官学メディアなど

冒頭筆者は各人に「2025年に最も驚いたこと」を挙げてもらい、それぞれについて驚いた理由とその歴史的意味や今後の見通しについて語ってもらった。詳細はオフレコ、チャタムハウスルールなので書けないが、概要だけは今週の産経新聞WorldWatchで触れている。できれば御一読願いたいが、ここでサワリだけ言うと、

研究員たちが「驚いた」のは、韓国の「原潜」建造計画、国際秩序の維持に関心を失う米国、USAID(米国際開発局)の廃止、中国の軍事パレード、米国のウクライナ和平案、米軍のイラン核施設攻撃などだった。それでも、筆者が最も驚いたのは「米国の国家安保戦略2025」である。理由はこの文書に「戦略」が殆どないからだ。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

12月16日 火曜日 英独国防相がウクライナ防衛コンタクトグループ会合を主宰

12月17日 水曜日 EU・西部バルカン諸国の年次首脳会合開催(ブラッセル)

 エジプト、議会選挙(2日間)

12月18日 木曜日 インド首相、ヨルダン、エチオピア、オマーン歴訪から帰国

 欧州理事会、指導者会合開催(2日間)、欧州農民の大規模抗議運動も予定

12月20日 土曜日 EUとメルコスール諸国が貿易協定に署名(ブラジル)

12月21日 日曜日 ロシア大統領、CIS(独立国家共同体)・ユーラシア経済連合の会合を主宰

 

最後は、ガザ・中東情勢だが、あまり動きがないので、今回は珍しく中国の動きを取り上げる。中東訪問中の中国外相が、サウジアラビア、UAE、ヨルダン3か国の外相らとそれぞれ会談し、高市首相の台湾有事をめぐる発言について、各国が「断固反対を表明した」と主張したそうだ。これらの国々が中国を重視することは仕方ないとしても、「断固反対」なんかする国々では決してない。この見苦しい「共産党トップに対する忖度」しかニュースにならないくらい、今中東情勢は動いていないということだ。

他方、筆者が最も心を痛めたのは、オーストラリアでの「反ユダヤ主義」の凶悪化だ。オーストラリアのビーチで「ハヌカ」を祝っていたユダヤ教徒たちに対し無差別銃乱射事件が発生し、欧米諸国では「あのオーストラリアでも反ユダヤ主義が拡大しているのか?」などと大きなニュースになっている。

ところが、日本のメディアはこれを殆ど報じていない。ネット上でざっと調べたら、この問題を「ユダヤ教関連のニュース」として報じたのは以下の記事だけだった。

 

15人亡くなる 現地でユダヤ教の行事

オーストラリア最大都市、シドニーのボンダイビーチで12月14日、銃撃事件が起こりました。警察はこれまでに15人が死亡、42人がけがをしたと明らかにしました。今のところ容疑者は、シドニー郊外に住む50歳と24歳の親子で、父親は警察官との銃撃戦で死亡し、息子は重体で入院しているといいます。

事件が起きたボンダイビーチはシドニーの中心部から約7キロ東にある観光名所です。当時は、ユダヤ教の祭り「ハヌカ」の行事が行われていて、1千人以上が集まっていました。現時点で、日本人が事件に巻きこまれた情報はないということです。

(朝日小学生新聞2025年12月16日付)

 

お分かりか?何とこの記事は朝日新聞の「小学生新聞」である。逆に言えば、オールドメディアは殆ど関心がないということ。日本語のインターネットニュースでも詳しく報じた記事は見当たらなかった。この日本ジャーナリズムの「鈍感さ」「感度の低さ」を理解しない限り、中東のことは分からないと思うのだが・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。



トップ写真:李在明・韓国大統領主催の夕食会に出席するトランプ米大統領、カナダのマーク・カーニー首相(右下)、シンガポールのローレンス・ウォン首相(左下)-2025年10月29日

出典:Photo by Andrew Harnik/Getty Images

 

 

 




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