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.政治  投稿日:2025/12/1

高市外交の出自と展望(上)保守主義の系譜 


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・高市早苗の政治思想の基盤は、1980年代後半の米国連邦議会での研修経験によって築かれた。

・この研修期に隆盛を極めたレーガン大統領の保守主義が、高市氏の現実主義的な理念形成に決定的な影響を与えた。

・高市氏の政治的スタンスは、自由民主主義の擁護、反共産主義、強固な軍事力、国益重視といったレーガン大統領やサッチャー首相の保守主義的価値観と共通する。

 日本初の女性総理となった高市早苗氏が初めての国際体験を得た舞台はアメリカの首都ワシントンだった。いまからもう38年前の1987年からの2年ほど、松下政経塾からアメリカの連邦議会に一種の研修生として送られたのだ。議会では下院のパトリシア・シュローダー議員の事務所に所属してスタッフとして働いた。

 この期間に吸収したことがその後の高市氏の思想や政策の貴重な指針となったことを本人も認めている。

 私はその時期、毎日新聞社の海外特派員としてワシントンにすでに数年、駐在していた。日本から数少ない若手女性が女性議員のシュローダー氏の事務所で研修するようになったと聞いていた。当時の高市氏にワシントンで会う機会こそなかったが、同氏の活動を知っていたのだ。

 そしてその後の40年ほどの長い年月、記者として政治家の高市氏に接触する機会は多々あった。高市氏が安倍晋三氏の政策に熱心に同調した時代だけでなく、総務大臣や経済安全保障大臣だった時期にも、彼女の政治動向には注視してきた。

とくに最近、自民党総裁から日本国総理大臣になる直前の高市氏には何回か顔をあわせ、言葉を交わすチャンスを得た。少人数の勉強会や講演会で同氏の見解を聞き、質疑応答をすることもあった。

そんな機会に高市氏は自分からアメリカ議会での研修について多くを語ることはなかったが、その経験が自分の理念や思想の形成に役立ったことを言葉のはしばしで認めていた。

 さて高市氏の内政や外交の思考の特徴を語るのに、なぜこんな古い話にまで戻るのか。

 その理由は第一に現在の国際情勢が当時のワシントンからみた世界の状況に酷似していることである。第二には当時のアメリカの内政が保守主義を大きく成長させ、リベラル派を圧倒していたことである。

この両方の要素が当時の若き高市早苗氏にインパクトを与え、現在の保守とされる現実主義の理念を形成させていったと思われるのだ。

 当時の国際情勢はなおソ連共産党政権がアメリカを主体とする自由民主主義陣営に政治や軍事で正面から挑戦していた。東西冷戦である。とくにソ連はアフガニスタンに大部隊を侵攻させ全面的な軍事占領を図った。だが米欧の背後からの支援を受けたアフガン勢力の激しい抵抗にあった。ちょうど今日のウクライナ戦争に似ていた。

 ソ連はアフリカ、中東、中米など世界の他の地域でも軍事がらみの攻勢をかけ、勢力を拡大した。だがアメリカ側で正面からの対決を恐れず、そのソ連の膨張を抑えたのが当時の共和党保守派のロナルド・レーガン大統領だった。「力による平和」の実践だった。その対決はやがてはソ連共産党政権を崩壊にまで追い込んでいった。

 アメリカの国内ではレーガン政権はそれまでの数十年もの民主党リベラル政治を衰退させた。自国の主権や国益の最重視をとなえ、歴史や伝統を尊重する保守主義が主流となったのだ。個人や企業の自由を優先する「小さな政府」策が推進された。規制緩和により巨大な官僚機構が縮小された。自由で開かれた社会を目指す保守主義は対外的には「強いアメリカ」という基本策を保っていた。

 こんな保守主義の精華が当時のアメリカでは花を咲かせたのだ。若き高市氏はその潮流の渦中で議会研修を重ねていたのである。直接の上司のシュローダー議員は民主党だったとはいえ、1980年代後半のレーガン大統領の保守政治の大成功は高市氏にも強大な熱量の影響を与えたことは確実である。

 なぜならその後の高市氏の政治的な主張やスタンスはレーガン氏の軌跡に酷似しているからだ。ちなみに高市氏は尊敬する外国の政治家としてイギリスの女性首相だったマーガレット・サッチャー氏をあげる。だがこのサッチャー氏こそレーガン大統領と歩調を一にして、保守主義の米英連帯を大成功させたのだ。

 この両首脳に共通したのは自由民主主義の強い信奉と防衛、共産主義独裁体制への断固たる反発、自国や自陣営を守るための強固な軍事力の保持、自国の主権や利益の明確な主張、国内的には自由競争を重視し、政府の統制を少なくする政策だった。この種の傾向は高市氏の長年の政治歴でも符号する点が多いのである。

 ちなみにこの一連の保守主義の価値観はアメリカでは現在のドナルド・トランプ大統領にも継承されている。現にトランプ氏はレーガン大統領への畏敬の念をよく口にする。だからトランプ氏が高市氏に一種の連帯感を覚えても不思議はないのだ。

参考)【Japan In-depthチャンネル】【緊急LIVE】高市・トランプ会談はアメリカでどう評価されたのか?海外から日本外交を見続けて40年。国際ジャーナリストの第一人者、古森義久が斬る!

写真)安倍内閣特別顧問に就任し撮影に応じる高市・小池両氏 2006年9月27日 高市氏事務所

出典)Koichi Kamoshida/Getty Images




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