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.国際  投稿日:2024/11/24

ルビオ次期国務長官を注視しよう(下)安倍首相の靖国参拝への支持


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・マルコ・ルビオ氏、中国に対する日本の立場を重視し、日本の政策を支持してきた。

・氏は、安倍氏の安保政策や対中政策を賞賛し、中国の対外行動を野心的な膨張と非難した。

・トランプ政権の再登場は日米関係に明らかに新たな変化をもたらす。

 

次期トランプ政権の国務長官に任命されたマルコ・ルビオ氏のこれまでの実績でとくに重視すべきは、彼の日本への姿勢である。中国に対する日本の立場を重視し、日本の政策を支持してきたのだ。

ルビオ氏は上院外交委員会の共和党の枢要として尖閣諸島は日本領だと明言し、安倍晋三首相の靖国神社参拝をも支持して、民主党オバマ政権の「失望」表明に反対した記録があるのだ。

2011年から上院議員となったルビオ氏はアジアへの関心が深く、外交委員会のアジア太平洋小委員会で日中関係にかかわるようになった。そして、「尖閣諸島は日本の領土だ」と公式の場で言明するようになったのである。中国の主張を歴史的に研究し、尖閣への攻勢を「冒険主義的かつ違法に日本領土を奪おうとしている」と明言した。

アメリカの歴代政府は尖閣諸島の日本の施政権を認めながらも領有権については中立の立場をとってきた。だがルビオ議員は2010年代、同じ共和党のジョン・マケイン上院議員らとともに一貫して中国の尖閣への動きは侵略だと断じてきた。マケイン議員は海軍将校としてベトナム戦争で北ベトナムの捕虜となったが無事に生還し、政界に転じて上院議員となり、共和党の大統領候補にまでなった。

ルビオ氏が国務長官として第二次トランプ政権の外交の中枢となった場合、議員時代の尖閣諸島の領有権についての主張をそのまま表明するか否かはわからないが、尖閣問題への日本の立場の一貫した支持という軌跡は日本側としては軽視できないのは当然である。

ルビオ氏は安倍晋三の2013年12月の靖国神社参拝にも支持の態度をみせた。当時の安倍氏は前年の2012年12月に政権復帰を果たした。そして首相就任からちょうど1年の2013年12月、靖国神社を参拝したのだった。その背景には安倍氏が初めて首相になった時代に靖訓示参拝を果たせなかったことを「痛恨のきわみ」としたという軌跡があった。日本のために戦死した人たちの霊に日本の首相が弔意を表するのは当然だとする考え方だった。

だが中国はこの日本の首相の靖国参拝に強く反対していた。「侵略戦争を美化する行動」という非難だった。だがかつての中国歴代政権は日本の首相の靖国参拝にはなにも述べない、反対もしないという時代があった。小泉純一郎首相は在任中の6年間、毎年、靖国神社を参拝した。

中国は抗議を続けた。しかしアメリカの共和党政権はなにも述べなかった。

ところが安倍首相の2013年12月の靖国参拝に対してはアメリカの民主党オバマ政権は「失望」という批判の意向を言明したのだった。

しかしルビオ氏は上院議員としてまずこのオバマ政権の態度への反対を明確に述べた。2014年1月の韓国のソウルでの大手研究機関の会合で韓国人記者から「アメリカは日本の首相の靖国参拝にどう対応するべきか」と問われ、ルビオ氏は「アメリカ政府がこの種の問題に関与し、日本側にどうすべきかを告げることは生産的ではない」と述べたのだった。

この発言はオバマ政権が安倍首相の参拝に「失望」を表明したことへの上院議員としての明確な反対だった。ルビオ議員は「中国がアジアのアメリカの同盟諸国間の歴史問題などでの見解の相違を拡大させ、悪用することを黙認すべきではない」とも述べ、明らかに靖国問題での中国の態度をも批判したのだった。

ルビオ議員はこの韓国訪問の直前に日本をも訪れ、安倍首相と親しく懇談していた。安倍氏の当時の安保政策や対中政策を賞賛し、中国の対外行動を野心的な膨張と非難した。訪日直前の日本メディアからの靖国問題についての質問にはルビオ議員は「近隣国からの非合法な対日主張を考えると安倍首相の姿勢は心強い」と述べ、支持を表明した。

アメリカの大手紙ウォールストリート・ジャーナルは当時、この安倍・ルビオ会談について「靖国参拝でオバマ政権から異例の厳しい批判を浴びた安倍首相にとってアメリカ議会の有力議員ルビオ氏の訪問と賞賛の言葉はまさに望んでいた米側からの支援となったようだ」と報道した。

こうした実績のあるルビオ氏が次期トランプ政権の外交の主役になることは日本にとって好材料である。

靖国問題では今回の自民党総裁選で高市早苗氏が首相としての参拝方針を明言し、党内の一部から「参拝は日米関係を崩す」という反対を受けたという。だが次期トランプ政権の国務長官のルビオ氏が日本の首相の靖国参拝にオバマ政権と同様の反応を示すことは、まず考えられない。なにしろ共和党政権は二代目ブッシュ大統領時代、小泉純一郎首相が6年も靖国参拝を続けてなにも述べなかったのだ。それどころかブッシュ政権にいたリチャード・アーミテージ氏、ランディ・シュライバー氏ら高官は日本が中国の脅しに屈して首相の靖国参拝を止めてしまうことへの批判まで表明していたのである。トランプ政権の再登場は日米関係に明らかに新たな変化をもたらすのだといえよう。

こちら。全2回)

トップ写真:大統領選でトランプ候補の選挙集会にて応援演説するマルコ・ルビオ上院議員(2024年11月4日ノースカロライナ州)出典:Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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