[上田令子]【本当に子供がかけていいんだ!“110番”】 ~川崎市中1殺害事件~
「上田令子のハハノミクス!」
プロフィール|執筆記事
先月、川崎市で中学校1年生の男子生徒が殺害された事件は、2011年11月滋賀県大津市のいじめ自殺、2012年12月大阪市立高校の部活体罰による自殺と相通じるものがある。どれも大きく報道されている理由は、その衝撃性もさることながら、メディア関係者も含めて多くの人々の心の琴線に触れるからだろう。
その琴線とは「どうしてこのような残酷なことに一人で耐えたのか。なぜ頼りになる周りの大人、ことに学校へSOSを発することができなかったのか」というものではないか。機能しきれていない教育委員会や「学校」という組織に対し、事件が起こるたびにマスコミや我々議会もセンセーショナルに批判や追及をするのも毎度の空しいお約束となっている。それを誰よりも冷静に眺めているのは子ども達ではないだろうか。
もはや、子ども達は、学校を含めた大人に期待をしていないのだ。だから、誰にも相談せず、理不尽な暴力に耐え、命を奪われるか命を絶つことになるのであろう。大津市の事件を受けて「いじめ防止対策推進法」が13年に施行、昨年4月から各自治体で条例を制定、スクールカウンセラー拡充等体制強化をはかる等の努力は認めるが、ソモソモ学校だけで解決しようということに無理があるのではないか。学校や教師そのものに問題があった場合、子ども達はどこにも声をあげられなくなってしまうからだ。
案外知られていないのが警察も子どもにとって相談窓口であるということだ。 東京都においては都立高、公立小中学校と警察間で04年に「警察・学校相互連絡制度」が締結。あわせて「警察署と学校・地域のパイプ役として、少年の非行防止や児童等の安全確保対策に従事する警視庁の再雇用職員」による「警視庁スクールサポーター」及び「警察・学校相互連絡制度」が設置され、サポーターが日常的に学校に出向いて情報交換や支援活動行っている。
川崎の事件があった神奈川県でも同種の制度が制定されている。教師による体罰やわいせつ行為、子ども同士とはいえ、暴力に及ぶイジメ行為は「暴行・傷害事件」である。子どもは、いつでも110番通報していいのだ。虐待やDVの通報先が110番となっているのと同じであるが、実際のところ当の子どもに伝わっているとはいえない現状だ。
そこで都議会本会議一般質問にてこの点を質し「児童生徒の安全を守るためには、学校が警察と緊密に連携することが重要。児童生徒の生命、身体などに重大な被害をもたらす場合は、相互連絡制度に基づき、直ちに警察に通報するよう、区市町村教育委員会と一体となって学校を指導」「警視庁少年相談室や都児童相談センターなどの連絡先電話番号を記したカードやリーフレットを配布し、周知」と教育長の答弁を得ている。
ちなみに同制度を活用した警察から学校への児童・生徒に関しての情報の連絡状況(12年)は3633件にも及ぶ。一方学校から警察への連絡件数は教育委員会によればカウントの仕方が違い比較対象にならないとのことでここでの公表は控えるが、その点を割り引いてみても、桁数が明らかに少ないということだけはお伝えしたい。
児童・生徒の個人情報の目的外使用や、警察権力の学校現場への介入への懸念の声もあるが、外部機関が動けばさしもの教育委員会や学校も機動力を持って動かざるを得なくなる。それが警察となればなおさらであろう。少なくとも子どもが学校以外へSOSを発信できる、まさに命の110番をしてよいのだという、一つでも多くの選択肢を授けてあげたいと私は考える。