「世代間緊張」が原因か?中国共産党の人民解放軍人事の異変
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表
外交・安保カレンダー 2026#04
2026年1月26日-2月1日
【まとめ】
・中国人民解放軍高官の異常な失脚(汚職・解任)が相次ぎ、その背景解釈が課題となっている。
・不正・腐敗や習近平主席の絶対的統制といった一般的な解釈には懐疑的。
・真の原因として、対外行動に積極的な若手と慎重な旧世代との間の「世代間緊張」があるのではないか。
遂に衆議院選挙が公示された。国内政治(特に、選挙)について筆者は、元霞が関役人として必要にして十分な程度の知見しか持ち合わせていない。だが、今回の選挙については、物知りの誰に聞いても「今回ばかりは予測困難」という答えが返ってくる・・・。筆者の実感も、恐らくは多くの読者の皆様と同様、これに近いものだ。
既にネット上では自薦他薦の「完全予測」や、出所不明の「内部情報」に基づくが実は「贔屓の引き倒しではないの?」的な怪しげな情報が氾濫しているが、これは実に不健全だ。個人的には、そろそろ既存大手メディアの「価値」が再認識されても良いのでは、とすら思っている。決して「オールドメディア」の代理人ではないが・・・・。
さて、選挙以外で今週注目したいのは、中国共産党の人民解放軍人事だ。相次ぐ解放軍高官の失脚は明らかに異常である。昨年は、何衛東・中央軍事委員会副主席ら9人が巨額汚職を理由に党籍剝奪処分を受けたが、先週末には張又侠・中央軍事委員会副主席や劉振立・連合参謀部参謀長が解任されたと報じられた。
報道以上の詳細は不明だが、良い機会なので、筆者の最近の悩みを打ち明けよう。国際情勢の分析を生業とする筆者にとって、この解任劇の背景はどうしても書かざるを得ない。ところが正確な公開情報などないし、仮に中国共産党の「内部情報」を知っていたら、そんなものとても使えない。書けば、情報提供者の命が危なくなるからだ。
こんな時、若い人はAIを使うのかもしれない。試しに「最近の中国人民解放軍高官の失脚事件はどう解釈すればよい?」とAIに聞けば、文字通り瞬時で答えが出る。AI曰く、「以下の3つの視点が重要」として、
1. 習近平主席による「絶対的統制」の再構築、目的は忠誠心の再確認と軍内の派閥の解体
2. 「戦えない軍」への危機感と不信感、核・ミサイル情報の漏洩疑惑や実戦能力への疑念
3. 台湾有事への影響は、短期的には「侵攻リスクの低下」、中長期的には「予測不能なリスク」が高まる・・・
などと、実に尤もらしいことを宣うのである。なるほど、AIが出来ることは、既に公表されている膨大な資料を可能な限り読み込み、その中から最大公約数的な情報をピックアップするのだろう。だが、筆者は懐疑的だ。こんなもの「あまり当てにならない」と思うし、AIと同じような内容を書くことには、知的にも、大きな抵抗がある。
要するに筆者の最近の悩みは、どうしたらAIが予測できないような斬新な「仮説」を考えることができるか、なのだ。AIの情報量には勝てないが、かといって根拠のない「思い付き」を書いても信用を失う。情報が氾濫する中、AIでも書けるようなことを書かず、それでいて筋の通った新鮮な「仮説」を書くのは意外に難しいのである。
それでは、筆者はどう見るのか。以下は現時点での筆者の仮説である。
・今の中国社会の特徴の一つは「権力の金銭化」だ。ビジネスは勿論、普通の人間関係の世界でも、情報を「独占」できれば、それは「利権化」を意味する。されば、解放軍の世界でも、上層部に「腐敗していない」軍人がいるとは到底思えない。されば「不正・腐敗」が今回の異常人事の真の原因ではないだろう。
・習近平主席への「忠誠心」を再確認するとか、同主席の権力が「陰りつつある」などと見る向きもあるが、党内に不満はあっても、習近平氏の権力は今も絶対に近い。少なくとも、現時点で「揺らいでいる」とは思えない。こんな異常人事が整然と行われるのは、逆に同氏の権力がソ連の「スターリン」のそれに近い証拠である。
・それよりも、筆者が注目するのは軍内の「世代間緊張」だ。実戦経験のない中堅世代は、台湾解放を含め、対外軍事行動を躊躇しない「血気盛んな」将兵が多いのではないか。これに対し、中越戦争を経験し、戦争が如何に難しいかを知る古い世代は、命令されても、「台湾解放」に慎重である可能性はないのか。
・国家主席の「夢」を実現し、自らも軍内主導権を握ろうとする野心ある若手将軍たちと、人民解放軍は簡単に「台湾解放」などできないと現実的に対応する最上層部との間に確執はないのか。あるとすれば、人民解放軍が全体として習近平主席の信頼を失いつつあることの真の理由をある程度説明できるかもしれない・・・。
この続きは来週書くことにしよう。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
1月27日 火曜日 ホンデュラス大統領就任式
インド首相、EU・インド首脳会議を主催
米国、パリ気候条約より正式離脱
1月28日 水曜日 韓国前大統領夫人への刑事裁判の評決
ラ米・カリブ国際経済フォーラム開催(パナマ)
1月29日 木曜日 英首相訪中(2日間)
1月30日 金曜日 米議会連邦継続予算決議が失効
1月31日 土曜日 英首相訪日
2月1日 日曜日
ウクライナ、ロシア、米国によるウクライナ停戦協議(UAE)
コスタリカで大統領選挙・議会選挙実施
最後はガザ・中東情勢だが、今週はガザをめぐる「平和協議会」とイラン情勢を取り上げる。まずは米国主導の「平和協議会」だが、報道によれば、米大統領は22日、ダボスで、パレスチナ自治区ガザの暫定統治のために設立した「平和評議会」の調印式を開き、参加要請を受けた約60カ国のうち、G7など西側諸国を除く、中東や親米政権の首脳20人が参加したという。
また一部には、同評議会が「国連安保理決議を経て負託されたガザ暫定統治の枠組みを超え、米政権が安保理に取って代わるような世界の紛争解決機関を目指しているのではないか」と懸念する声すらあるそうだ。しかも、同評議会の議長はトランプ氏で拒否権も持つという。うーーん、「バカバカしい」とまでは言わないが・・・。
1970年代末からパレスチナ問題をフォローしてきた筆者には、こんな評議会でパレスチナ問題が前進するとは到底思えない。まして、これが「他の紛争解決にも資する」なんて思う方がどうかしている。参加した首脳たちだって、トランプ氏を信頼しているとは思えない。様々な思惑で「お付き合い」し「利用」しようとしているのだろう。
次はイランだ。懸念されていた米国の対イラン攻撃の可能性は一時鎮静化したかと思ったのだが、26日、CNNは、政権関係者の話として、米空母打撃群が「現在インド洋に展開しており、イランを標的として実行される可能性のある米国の作戦を支援する態勢に近づいている」と報じた。
同報道によれば、「同打撃群は米中央軍の管轄区域内にあり、同軍の管轄には中東における軍事作戦も含まれる」が「同空母が対イラン作戦に向けた最終的な配置についているとは限らない」とも報じている。うーん、また始まったか?
この種の報道には常に注意が必要だ。これでは、あたかも米国がインド洋に意図的かつ新規に空母を派遣したように見えるではないか。事実はおそらく違う。現在米海軍が保有する空母は10隻だったと記憶するが、これらの一部は休養、メンテナンス等で使えない。現在は5隻が世界に展開していると公表されている。
具体的には、エーブラハム・リンカーン (CVN-72)がインド洋(中東海域)、ジョージ・ワシントン (CVN-73)が東シナ海周辺の警戒監視、ジェラルド・R・フォード (CVN-78)がカリブ海および大西洋方面で活動中、セオドア・ルーズベルト (CVN-71)がサンディエゴを出港し、西太平洋方面へ向けて航行中、ジョージ・H・W・ブッシュ (CVN-77)が大西洋で戦展開中、これだけである。
しかも、これら5隻は世界中をローテーションで回っている。逆に言えば、インド洋中東海域には1月26日まで米空母は「一隻もいなかった」はずなのだ。そのことを知ってか知らずか、CNNはトランプ政権の情報操作に乗ったのか、こんな推測記事を書いたのかもしれない、勿論、これはあくまで筆者の仮説であるが・・・。
米国の対イラン攻撃に最も強く反対するのは、ミサイル迎撃準備が不十分のイスラエルと、戦火拡大を恐れるサウジ他湾岸アラブ諸国だ。先週は「馬鹿なことは止めた方が良い。攻撃すれば、イランの体制は再び強化される」とも書いた。万一、今回米国がイランを攻撃しても、逆効果となる可能性の方が高いだろう。トランプが言うことや、トランプ政権による意図的情報リークを、「真に受ける」必要はないのである。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
写真)Honor guard marches past police officer ahead of flag-lowering ceremony in Beijing
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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