国民の光熱費を下げる党、上げる党:衆院選で問われる各政党のエネルギー政策
杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)
【まとめ】
・衆議院選挙を控えての各党のエネルギー政策へのスタンスをまとめた。脱炭素と再エネに反対しているのは参政党と日本保守党。他の主要政党は推進。
・昨年度通常国会でガソリン暫定税率廃止が決まったが、再エネ賦課金はそれより大きく、今後の脱炭素政策による国民負担はさらに大きくなる。
・昨年末には自民党がメガソーラーへの政府補助の廃止を提言した。来たる衆議院選挙戦は脱炭素・エネルギー政策見直しの契機になるかも。

表 各政党のエネルギー政策に関するスタンス(筆者作成)
■ 国会の光熱費削減は本丸に手が付いていない
高市首相が解散の意向を伝えたというニュースが飛び交い、衆議院議員総選挙が近いと言われている。各党は、候補者の擁立や党の公約作りに忙しいようだ。
高市政権発足後の昨年末の臨時国会は、光熱費の低減が一つのテーマになった。ガソリン税の暫定税率は廃止される一方で、電気代の補助は継続されることになった。これはいずれも家計にとっては確かに助かることには違いない。
しかし、税収が減った分は別の財源が必要になるか、あるいは国債を発行するなどの形で賄うことになるから、基本的にはゼロサムゲームである。本質的に光熱費を減らすのであれば、エネルギー供給コストを下げねばならない。このためには、政府が進める脱炭素政策をなんとかしなくてはならない。
今、日本政府は2050年までにCO₂排出をゼロにするという脱炭素政策を推進している。これの手始めとして、今後10年間で150兆円の官民の「グリーントランスフォーメーション(GX)投資」を実現するとしている。投資というと聞こえはよいが、その原資を負担するのは国民である。手始めだという意味は、この150兆円でも全然たりないからである。
政府はこれを「グリーン成長投資」だと説明しているが、実際には再生可能エネルギーの推進がその主な内容であるから、光熱費は高騰するばかりである。
数字を確認してみよう: 再生可能エネルギー賦課金はいま年間約3兆円である。これに対してGX投資は年間15兆円にも上る。政府計画通りであれば、国民負担は爆増する訳だ。ところが、かかる計画を推進する一方で、政府はガソリン代と電気代などへの光熱費補助を累積で12兆円も支出してきた。現時点では光熱費に補助金を出して将来時点では負担を課するという騙し討ちのようなことをやってきた訳だ。ガソリン税の暫定税率廃止は決まったが、その効果は年間約1兆円にすぎず、再エネ賦課金の3分の1に過ぎない。
■ 脱炭素と再エネに反対の参政党、推進の自民党
以下、衆議院選挙に向けて、各政党のこれまでの発言をまとめておこう。
脱炭素政策に正面から反対しているのは、参政党である。神谷宗幣党首は、国会でも脱炭素戦略に関する質問主意書を提出して政府の見解をただしている*1。ただし参政党は、原子力発電については、それほど推進というわけではない。既存の原子力発電所の再稼働には賛成しているものの、将来的には減らすべき電源であるというように、神谷宗幣党首は述べている。
自民党は、原子力発電の推進に積極的である。さらに、これに加えて、メガソーラーについては、環境規制を厳しくすることに加えて、政府による支援を停止するという提言を取りまとめた。ただその一方で、再エネは全体としては推進するとしているし、2050年CO₂ゼロという目標は堅持したままである。すると論理的な帰結としては、メガソーラーを禁止するということは、家庭用太陽光発電などの増加を意味することになると思われるが、これはメガソーラーよりもさらにコストが嵩むことになるが、どう考えているのだろうか。
また自民党はペロブスカイト太陽電池に大きな期待を寄せている。だがこれは、まだどの程度性能が向上するかも未知数であり、また、太陽光が照ったときしか発電しないという間欠性の問題は、従来のシリコン太陽電池と何ら変わるところはない。過大な期待はできない。
核融合に対する期待も高いようだが、ベンチャー企業が担い手となって30年代にも実用化するなどというのは、夢物語である。エネルギー供給の担い手になるのは早くて50年ごろであろう。海洋のメタンハイドレートにも期待する向きがあるが、これも採算性のとれる形で近い将来に採掘できる見込みは全く立っていない。どうも高市首相の周辺には、新奇な技術に対する過大な期待があるようだが、何れも、向こう5年、10年といった現実的な時間軸において日本のエネルギー供給の一角を担えるような技術ではない。
光熱費を削減するためには、脱炭素というくびきを取り払い、火力発電をはじめ化石燃料利用をきちんと推進することが最大の課題となる。これまでの自民党的なエネルギー政策では、脱炭素のためとして化石燃料利用にペナルティを与えてきた。これを止めない限り、光熱費の高騰は避けられないだろう。
■ 既存の野党はそろって脱炭素を推進
国民民主党は原子力発電については一貫して推進している。だがその一方で、2050年CO₂ゼロという目標については賛成している。再生可能エネルギー賦課金を見直すべきだという議論を一時していたが、結局のところ、提出された法案を見ると、「再生可能エネルギー推進はそのまま続けるが、再生可能エネルギー賦課金の徴収を一時見合わせる」というだけのものであり、本質をつくものにはなっていなかった*2。ガソリンの暫定税率廃止や光熱費補助金の支給などには熱心であったが、高コストを招く本質である脱炭素政策自体についてはそれを是としてきており、この点では、自民党同様、光熱費を減らす方向性にあるとは言い難い.
立憲民主党、公明党、共産党は、原子力発電には反対し、脱炭素については推進をしている。これらの党の公約は、間違いなく光熱費の高騰に向いている。日本保守党は、参政党と同様に脱炭素と再エネに反対である。原子力について推進している点が参政党と異なる。
さて、以上のまとめは、あくまでもこれまでの各党の発言からまとめたものである。これからどのように各党は公約をまとめていくだろうか。また、各党の議員候補者はどのような発言をしていくであろうか。
思い返せば、昨年秋の自民党総裁選において、5人の候補者が軒並みメガソーラーに対して厳しい意見を表明し、それがやがて自民党によるメガソーラーの政府支援の停止への提案へとつながった。来たる衆議院選挙選での議論は、脱炭素政策や再エネ政策のあり方自体を見直す契機になるのではないか。
*1 参議院質問主意書「日本における脱炭素エネルギー戦略に関する質問主意書」
提出者:神谷宗幣参議院議員
提出日:令和5年12月13日
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/212/meisai/m212117.htm
*2 国民民主党提出:「再エネ賦課金停止法案」
法案名:再生可能エネルギー発電促進賦課金の徴収停止に関する法律案
提出日:令和6年3月26日(参議院)
https://new-kokumin.jp/news/diet/20240326_3
杉山 大志. データが語る気候変動問題のホントとウソ. 電気書院. 2025
https://www.amazon.co.jp/dp/4485301257/
トップ写真)日本の太陽光発電所
出典)gettyimages
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この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
【学歴】
1991年 東京大学 理学部物理学科卒業
1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了
【職歴】
1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所
1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員
2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員
2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

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