衆院の「解散権」は総理大臣の専権事項か

樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・高市首相の衆院解散の決断に対して「自己都合」「政治空白を生む」など批判が出ている。
・政府・与党は「首相の専権事項」の一点張りだが、従来の政府見解では、「権限を行使するのは内閣」だ。
・新党結成に国民の関心が集まっているが、解散権という民主主義の根幹も、総選挙の争点であるべきだろう。
■ 議員465人全員の首をきる強大な権限
昨年来の〝微風〟は、読売新聞が1月10日付朝刊で「首相、衆院解散を検討」と報じたのを契機に、一気に荒れ狂い始めた。
首相と限られた側近だけで極秘に事が進められる。
選挙となったら一切を取り仕切る鈴木俊一幹事長はじめ党幹部らは蚊帳の外に置かれ、「総理の専権事項だから」と繰り返すだけだった。
自らの決断ひとつで国民の信託を受けた衆院議員465人を、〝ただの人〟にすることができるというのだから、日本の内閣総理大臣の権限の強大を、いまさらながら感じさせられる。
■ 解散・総選挙断行の3条件
憲政の常道に照らせば、本来、衆院の解散には、いくつかの状況が想定されている。
第一は、内閣不信任決議案が可決されるか、信任決議案が否決された時だ。これらは日本国憲法に明記されている(日本国憲法69条)。
もうひとつは重要法案などをめぐって与野党が全面対立、有権者の判断を仰ぐのが適当と判断されたケース。
さらに、国会で与野党の勢力が拮抗、政局が安定を欠いた場合、解散・総選挙によって多数回復をめざすこともある。
これら条件に、高市首相が解散を決意した現在の政治状況を照らすと、内閣不信任決議案が可決されたわけでもない。
衆参両院で自民党が少数与党となっているものの、衆院では日本維新の会との連立によってぎりぎりながら過半数を確保しており、あらたな無所属議員の会派入りも見込まれていた。
国民民主党が来年度予算案に賛成の構えを見せていたこともあって、重要法案の成立、当面の政局運営のめどは立っていた。
となれば、高市首相が強引に解散に打って出る必然性があったのかという批判が野党だけでなく与党内から出たのは当然だろう。
しかも、今回の解散・総選挙は前回2024年10月から、わずか1年3か月余、任期が3年近くも残っていること、政治空白によって国民生活にとって重要な予算審議が遅れることを考えればなおさらだろう。
■ 政府見解は「解散権を持つのは内閣」
解散権が「首相の専権事項」といわれることに対して、政府は従来、「天皇の国事行為について助言と承認を行う職務を有する内閣である」を公式見解としている(2017年、解散権行使権限についての山本太郎参院議員の質問主意書に対する答弁書)。
にもかかわらず、首相の専権として解釈されるのは、内閣不信任可決、信任案否決以外の解散が、「内閣の助言と承認」に基づく天皇の国事行為(日本国憲法7条)によることと関係がある。
総理大臣は、内閣の「首長」(日本国憲法66条)として行政各部を「指揮監督」(日本国憲法72条)するから、解散権は首相の専権事項になるという理屈だ。
しかし、法律論では問題なしとしても、政治的に見た場合、国会解散という強大な権限を総理大臣に独占させることには議論があろう。
事実、首相が自らに有利な時期、勝利をつかむ最善のタイミングで解散することが常態化しており、今回の解散についても、どれだけ言葉を費やしても、支持率の高いうちに選挙に打って出ようという狙いは伝わってくる。
そうした目論見がもっと露骨だったのは2017年の衆院解散・総選挙だろう。
当時の首相、故安倍晋三氏は生前、「小池(百合子都知事)さんが、準備万端で選挙に臨んでくる。それならさきにこちらから仕掛けてやろうという判断だった」(安倍晋三回顧録、中央公論新社、267頁)と述べ、都議会で都民ファーストの会を率いて飛ぶ鳥を落とす勢いだった小池都知事を抑え込むことが目的だったと明かしている。
選挙を政局の道具として利用したことを告白した格好だが、懸命に政策を訴えた候補者、投票所に足を運んで「清き一票」を投じた有権者こそいい面の皮だろう。
■ 解散権行使についても国民の審判を
日本同様、議院内閣制を採る英国ではかつて、解散を制限する法律を制定、下院(日本の衆議院に相当、任期5年)の解散には議員の3分の2以上の賛成が必要などと厳しい条件を課したことがある。
制度は異なるが、世界一の権力者、アメリカ大統領にも与えられていない議会解散権の行使、今回の「不意打ち解散」(産経新聞)を機に、国民の審判を求めるのも悪くないだろう。
「日本国憲法第7条により、衆議院を解散する」と議長が詔書を朗読し、議員が選挙の景気づけにバンザイを叫ぶ本会議は23日にも想定されている。総選挙の公示は27日、投開票2月8日の日程が有力だ。
写真)伊メローニ首相とセルフィーを撮る高市首相 2026年1月16日 首相官邸
出典)首相官邸




























