トランプ陣営の高市早苗観とは「上」中国への姿勢の一致
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・トランプ支持層の中枢では、高市早苗首相は好意的に見られている。フレッド・フライツは、高市首相の労働倫理と自国優先の姿勢が、ドナルド・トランプと通じると評価する。
・高市首相は、安倍晋三の系譜にある政治家としてトランプ陣営に認知され、マーガレット・サッチャー的な保守志向も共有されている。
・中国の軍事的脅威を直視する高市首相の対中・台湾認識は、トランプ政権の安全保障戦略と大筋で一致しており、基本路線は支持されている。
アメリカのトランプ大統領、さらにトランプ政権は高市早苗首相をどうみているのか。日本側の「識者」の諸説はまたまた多岐多様である。だがトランプ支持層の核心部分の反応を直接に探ると、きわめて好意的な高市評が浮かんでくる。その具体的な実例の一つを紹介しよう。
第一期トランプ政権でホワイトハウスの国家安全保障会議を仕切り、その後の2024年の大統領選挙でもトランプ大統領に密着して、その国家安全保障や外交政策の立案に寄与してきたフレッド・フライツ氏の直接の「トランプ陣営の高市早苗評」である。フライツ氏はいまもトランプ大統領に至近距離にあって、対外政策の構築に寄与している。正式のいまの肩書は「アメリカ第一政策研究所(AFPI)」の副所長である。
フライツ氏は日本の主要シンクタンクの「日本戦略研究フォーラム」の2026年1月刊行の季報に「高市首相への米国の熱い期待」という論文を寄稿した。その論文を上下2回にわけてこのJapan In-depth に転載する。以下がそのフライツ論文である。トランプ陣営からの直接の声として注視すべき内容だといえる。
アメリカ側で日米関係の発展を願う一員としてまず高市早苗氏の首相就任を熱く歓迎したい。第1次トランプ政権で国家安全保障政策を担当し、その後もトランプ氏の国際戦略の形成に関与してきた私自身の感想としては、保守主義を信奉するという高市氏の統治はトランプ大統領の統治とも合致する領域が多く、日米同盟にとって、さらには国際情勢にとって大きな前進だと思う。
私がとくに個人的に感心したのは高市氏の就任時の「働いて、働いて、働いて」という言葉の連発だった。この言葉は日本国民多数の共感を招き、2025年度の流行語大賞を受賞したとも聞いている。高市氏の自己の職務への強烈な労働倫理を示した言葉だろう。
私がこの言葉を聞いて即座に感じたのは「なんだ、トランプ大統領と同じではないか」という連想だった。私はトランプ大統領のホワイトハウスでの執務も間近に見てきたし、大統領専用機内でのトランプ大統領の絶え間のない仕事ぶりも目撃してきた。そしていつも感じたのはこの人物は一体、いつ休むのか、眠るのか、という疑問だった。実際にトランプ氏の睡眠は一夜に2,3時間という期間も続いていた。
高市氏の職務への取り組みはこのトランプ大統領の姿勢に似ていると思う。実際に就任直後の国会での審議の準備を午前3時から始めたという報道もあった。高市氏のこの姿勢は「日本、第1」という標語は使わないにせよ、トランプ氏の執務ぶりに反映される基本的な姿勢と酷似していると思う。つまり日本の利害こそを国内政策でも対外政策でもまず第1におくという姿勢だろう。だからこそ高市氏とトランプ氏は波長が合うのだといえよう。
高市氏の政治家としての経歴では、私の理解では少なくとも2人の人物の大きな影響があったのだと思う。1人はいうまでもなく安倍晋三氏だった。高市氏は安倍氏の政治的な弟子だったといえよう。その安倍氏はトランプ氏の親しい友人としても高市氏の存在や実績についてトランプ氏によく説明していた。その影響は大きかった。トランプ大統領自身とその周辺は私自身も含めて、高市氏の好ましい評判は安倍氏を通じて、詳しく聞いていたのだ。その基礎がいまのトランプ陣営の高市氏へのきわめて高い評価につながっているともいえる。
高市氏が強い影響を受けたもう1人の人物はイギリスの首相だったマーガレット・サッチャー氏だ。この点は高市氏自身が明確に語っている。高市氏は1986年ごろから2年間、米国議会の民主党女性議員の事務所で研修をした。この時期はアメリカではロナルド・レーガン大統領、イギリスではサッチャー首相がともに保守主義による改革を進め、歴史的な成功の実績をあげていた。
サッチャー首相は社会主義志向で衰退したイギリスの国力を伝統的な保守主義に新たな自由主義的要素を盛り込み、大胆な改革で力強く復活させた。対外的にも独裁者や共産主義政権に果敢に挑戦した。アルゼンチンに対してはイギリス領のフォークアイランド島の占拠に反撃して、大西洋を越えて英軍部隊を派遣し、みごとに奪還した。積極果敢な保守主義革命であり、自国の主権の主張だった。若き高市氏はこのイギリスの「鉄の女」の成功から学んだ点が大きいのだと思う。
この時期のアメリカではレーガン大統領が保守主義革命に花を咲かせた。サッチャー氏との連携も緊密だった。ただしサッチャー氏がレーガン氏に追従したわけではなく、逆にサッチャー氏がレーガン氏に助言を与えた場合も多かった。つまり2人の保守政治の指導者は対等だったわけだ。私は現在の日米関係にも同様な状況を期待したい。つまりトランプ氏と高市氏は対等の指導者同士として、日米同盟の強化や国際秩序の健全化という大きな目標に立ち向かっていくだろうと考えている。この点、高市氏は新たな発想、大胆な発言で日本国民の多数派を鼓舞し、元気づけると思う。
その点でいま日中関係を大きく揺さぶる原因となった台湾有事に関する高市首相の国会での発言を支援し、歓迎したい。高市首相が中国の台湾への武力侵攻の想定に言及した背景には、中国によるアジア太平洋全域での侵略的な行動が存在する。東シナ海の日本領土である尖閣諸島や南シナ海でのフィリピン領土の諸島への攻勢、さらには台湾への軍事威嚇など、中国の不当な膨張は顕著である。とくに中国による台湾への攻撃や海上封鎖は日本にとっての国家存立の危機であり、日本側も軍事的な対応をとる土壌となる。この基本は日本側ではすでに当然の反応と考えられてきたといえる。しかしその政策を明白に描写する発言をすることは大方、控えられてきた。だが高市首相はそれを明言した。中国がそれを嫌ったわけだ。
そもそも中国はアジア太平洋地域での暴れ者なのだ。だが中国は自国の強大な軍事力がアジア太平洋での他の諸国にとって脅威となっていることを認めようとしない。他の諸国がその脅威を指摘することも極端に嫌う。他国の政治リーダーたちが中国の脅威を直視しないことを望んでいるのだ。だが高市首相がそれを直視するような発言をしたのである。中国は自分たちに都合の悪い他国首脳の言動があれば、最初は嫌がらせ、やがては露骨な軍事的威嚇で反発してくる。至近の中国軍戦闘機による日本の自衛隊機に対するレーダー照射はその具体的な実例だ。そのレーダー照射は現実の攻撃の意図を示す戦闘態勢の表示であり、きわめて危険な敵対的軍事行動である。
しかし、その一方、最近のウォールストリート・ジャーナル紙の報道によると、トランプ大統領は高市首相との電話会談で同首相に対して中国側を刺激することを少し控えるように助言したという。日本側の木原稔官房長官はその部分の報道を否定したが、トランプ大統領はおそらく米側の年来の「戦略的曖昧性」についてそれとなく伝えたのではないか。台湾関係法に基づくアメリカ歴代政権の「中国の台湾武力侵攻に対してアメリカが軍事介入するか否かはあえて明確にしない」というのがこの戦略的曖昧性政策だ。トランプ政権内でもこの政策を重視して、日本の高市首相が明白に日本の軍事的な対応を中国側に対して強く語ることを抑えてほしいと願う官僚たちがいるだろう。
だが高市首相が日本の統治者として日本の政策で当然なことを明確な言葉にするのは自然だろう。その点はトランプ大統領も明確に支持するだろう。日本にとってベストと思われる言動をどうぞ自由にとってください、という態度である。
トランプ大統領は高市首相の対中姿勢を明らかに支持している。高市首相はアジア太平洋地域での中国の軍事的脅威を脅威として認め、その脅威に対する日本の防衛を現実的に考える。この高市首相の安全保障面での「日本第1」の現実的な対応だといえよう。トランプ大統領は高市首相の同地域での基本的な脅威認識を歓迎している。トランプ政権は周知のように、2025年12月はじめ、国家安全保障戦略を公表した。どの大統領も就任の最初の年に発表せねばならないアメリカの安全保障政策の集大成だ。高市首相の安全保障の思考も、このトランプ政権の最新の安全保障戦略に合致しているといえる。
(「下」につづく)
#この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された論文の転載です。
写真)アメリカ合衆国のトランプ大統領と首脳会談を行う高市総理 2025年10月28日 迎賓館赤坂離宮
出典)首相官邸




























