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国際  投稿日:2016/5/31

ベッキー騒動とスポンサー企業(中) 提供社への苦情は局に伝わる

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

タレントのベッキー(32)への「信」を失い、地上波番組への復帰に不快感を抱く多くの視聴者は、彼女が出演する番組を制作するテレビ局だけでなく、それらの番組のスポンサーにまで苦情を寄せるようになった。

取材に協力してくれたある提供企業は、ベッキー出演に対するクレーム件数は回答しなかったものの、「弊社にもご意見を頂戴しております」と、多くの苦情が寄せられていることを示唆した。

この会社の広報担当者は、放送法第3条(放送番組編集の自由)で、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、また規律されるものではない」と定められていることを強調する一方、「いただいたご意見は番組を視聴された方の大切なお声として、(社内の)関係部門に共有し、放送局にも伝えております」と述べ、スポンサーとして顧客の苦情を真摯に受け止め、制作側に伝達していることを明らかにした。

さらに、「放送局に対しては、広告主として幅広い視聴者の支持が得られる質の高い番組が提供出来るよう、常に要請はしております」として、陰に影響力を行使していることも示唆した。ちなみに、この企業はベッキーがレギュラー出演する番組を提供するだけでなく、民放各局で一日中、大量のスポットCMを出稿しており、その影響力は小さくない。

その超重要な広告主企業の回答で、最も今回の「ベッキー騒動」の本質を表しているのは、次の部分だ。

「番組内容や出演者に対してご意見等ある場合、放送局にお寄せいただくのが筋ですが、『放送局に言っても埒が明かないので、広告主に言って広告出稿を止めさせれば、放送局も姿勢を改めるであろう』と誤解をしておられるお客さまがいらっしゃるのも事実(です)」。

幅広い視聴者が、「ベッキーに関して、放送局がきちんと意見を聞いてくれない」と感じていることを、この提供社は苦情を通してしっかり把握している。テレビ局に代表される「業界」とその顧客の商売上の信用関係は悪化しており、行き場を失った視聴者の不満が、第三者に過ぎないスポンサー企業に向かい、スポンサーが迷惑を被っているという構図だ。

では、なぜそこまで視聴者は不満を感じるのか。ベッキーの不倫騒動を最近の三菱自動車の不正に例えるなら、燃費表示の偽装があり信頼を失った商品について、売り手が強制的に押し付けるようなものだ。もちろん、実際の乗用車購入では、消費者は他メーカーの製品を買い、三菱車を避けることができる。

しかし、説明責任や謹慎期間が不十分と見られているベッキーが好きな番組に出演している場合、彼女に不信感を抱く視聴者には、ごひいきの番組を不快に感じながら視聴するか、好きな番組なのに見ないという、いずれにせよ納得できない選択しか残されていない。

ベッキーがレギュラー出演するTBS系『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』を提供するセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一新社長は、最近の記者会見で、「企業の内側の論理で物事が決まると、表に透明性や合理性が見えなくなる」と発言した。

芸能事務所やテレビ局が公共の電波を私物化するなかで、業界の論理によりベッキー早期復帰が既定路線になり、最も大切な当事者たる視聴者の不信の感情が否定されることは、透明性や合理性を欠く本末転倒だ。なお、セブン&アイは筆者の取材には回答しなかった。

経営の神様こと故松下幸之助翁は、企業の成功を金魚に譬え、こう述べている。

「早い話が、金魚な。あれを飼うのに金魚そのものを考えるだけではあかんわね。水を考えんとね。金魚ばかり考えて、水を軽視したら、金魚、すぐ死んでしまうがな」。

企業や商品は、顧客からの信用を失えば、死んでしまうのである。

(6月1日11:00配信予定「(下)失われた商品の信用を取り戻す道」につづく。「(上)番組制作に干渉できない提供社」全3回)

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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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