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国際  投稿日:2016/5/30

ベッキー騒動とスポンサー企業(上) 番組制作に干渉できぬ提供社

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岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

不倫騒動で世論の総スカンを喰らって休養中だったタレントのベッキー(32)。5月13日放映のTBS系『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』に出演し、関東地区で平均24%の高視聴率を叩き出し、地上波番組への復帰に向け一歩を踏み出した。

一方、ネットでは「ベッキーは見たくない」「復帰は時期尚早」などの声が高まった。なかでも、一部のネット民は彼女のテレビ復帰を阻止しようと、「スポンサー企業に苦情を入れよう」と呼びかけていた。

そのような働きかけは、果たして所期の効果をあげているのだろうか。ベッキーが出演する主要3番組の大手スポンサー9社に取材を申し込み、3社から回答を得た。

取材のもとになった問題意識は、こうだ。すなわち、ベッキーが嫌悪感を持たれた理由は、二層からなる。表層はベッキーの元不倫相手であるロックバンド「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音(27)の前妻を蔑み、結婚という個人的・社会的な信頼関係を裏切って共謀したことであり、これは謝罪して「赦し」を得ている。

しかし、表層よりはるかに深刻なのは、ベッキーを商品として消費する買い手の視聴者に、売り手のテレビ局や芸能界が不信感を抱かれてしまったという深層だ。

ベッキーは、「(実際にはあなたと不倫関係だけど、記者会見では)友達で押し通すつもり!笑」などのLINEでの発言によって、彼女の大切な顧客である視聴者やスポンサーを蔑み、自分に寄せられる信用に乗じて、略奪婚という利益を得ようとしたことが嫌われた。

ベッキー問題の核心は道徳問題ではなく、客の売り手に対する「信」の喪失だ。騙された当事者の大衆がベッキーに対して抱く嫌悪感を業界が否定し、不信を持たれた商品をゴリ押しするからだ。舛添要一東京都知事が、有権者たる都民の信任を失ってなお、その地位に居座る様子に似ている。

だが、騙された視聴者が、「嘘つきベッキーを番組に出すな」と発言しても、識者や芸能人が「不倫は違法ではない」「不寛容だ」「一発レッド社会だ」と合唱し、全否定する。

興味深いことに、エリートや業界が視聴者を悪者化する北風を吹かせれば吹かせるほど、「視聴者とスポンサーへの説明と謝罪がまだ済んでいない」「復帰は不適切」との意見が逆に増殖する。イソップ物語の『北風と太陽』の如く、大衆は「ベッキー拒絶」のコートを固く着るのだ。

その結果、視聴者の不満は本来の行き場を失くし、関係のない第三者である提供企業に向かう。では、図らずも視聴者からの苦情のはけ口になったスポンサーは、こうした現状をどう捉えているのか。

会社名や業種、提供番組名を公表しないことを条件に回答を寄せたある企業は、「弊社は、番組制作に直接的に関わる立場にございません」として、多くの視聴者がベッキー復帰を不快に感じても、スポンサーは基本的に番組の内容には干渉できないことに理解を求めた。

また別の企業も、「弊社はテレビをはじめとする広告媒体の広告主の立場でしかなく、今回の一連のベッキーさんに関する騒動およびその報道内容についてコメントする立場にございません」と回答した。

さらに、この企業の広報担当者は「一般論ですが」と断った上で、「放送法により、番組内容については放送局に編成権があり、広告主といえども干渉することは法律で禁じられております。そのため、事前に放送内容を確認することや、意見を差し挟むことは出来ません」と述べ、テレビ局が番組制作に関して持つ独立性が、法律で守られていると強調した。

したがって、「(ベッキーを出すか出さないかなど)出演者を含め、番組内容については放送局に委ねる形になっています」とのことだった。だが、これはスポンサーが番組制作に影響力を持たないという意味ではない。

(5月31日11:00配信予定「(中)提供社への苦情は局に伝わる」につづく。全3回)

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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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