.国際  投稿日:2017/9/4

ペルー政界に波紋 フジモリ家内紛勃発

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山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・ペルーのフジモリ元大統領の長女ケイコ氏と次男ケンジ氏の確執が表面化。

・2017年春からケンジ氏は党指導部に反発、収監中のウマラ前大統領面会で党から懲罰受ける。

・フジモリ氏は自身の恩赦問題に消極的なケイコ氏よりケンジ氏を次期大統領選に推す意図が背景にある、との憶測も。

 

 フジモリ元大統領の長女ケイコ氏と次男ケンジ氏の確執が表面化、ペルー政界を揺るがせている。

ケイコ氏は昨年の大統領選決選投票でクチンスキ現大統領に得票率わずか0.2%の差で惜敗したものの、現在は最大野党「フエルサ・ポプラル」(FP)党首としてペルーの最有力政治家であることは誰もが認めるところ。

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▲写真1:ケイコ・フジモリ氏  出典) Congreso de la República del Perú

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▲写真2:ペドロ・パブロ・クチンスキ ペルー大統領 2016年6月  Photo by Cobot156

 

一方ケンジ氏は昨年の国会議員選挙で国内最多の得票を得て再選され、政治家として急速に頭角を現している。最近の世論調査ではケイコ氏に次ぎ人気度ナンバー2だ。

「一線を越えた」ケンジの言動

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▲写真3:ケンジ・フジモリ氏  出典)flickr  Congreso de la República del Perú

ケンジ氏のFP指導部への反発が目立ち始めたのは今春から。3月、宗教団体の性的虐待事件をめぐるFPの対応が不十分と批判。6月にはFP主導でトルネ経済・財政相の不信任案が国会で可決された際、反党的な言動をとった。

とりわけ、FP指導部の神経を逆なでしたのは、7月に収賄容疑で収監されたウマラ前大統領にケンジ氏が面会したこと。リマのテレビ報道によれば、ケンジは父親のアドバイスに従い、ウマラ前大統領にパンや毛布を差し入れ、和解のゼスチャーを示したという。

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▲写真4:ロシアのプーチン大統領と記者会見に臨むオジャンタ・ウマラぺルー前大統領 2014年11月  出典)President of Russia

ウマラ氏はフジモリ元大統領のかつての政敵で、2011年の大統領選では決選投票でケイコ氏を破った因縁の人物。FPとしてはケンジ氏の行動が許し難いものであったことは疑いない。FP幹部の一人は「ケイコは弟が越えてはならない一線を越えたと判断した」と話す。

  • 父親はケンジを全面擁護

 FPは7月下旬に開いた党規律委員会で、ケンジ氏の党員資格を60日間一部はく奪する処分を決定した。FPはこの理由として、「頻繁かつ、意図的に不適切な行為を繰り返し、党のイメージを傷つけた」点を挙げるとともに、ケンジ氏が党内の会合にほとんど出席せず、マスコミ向けに党批判の発言をしたと糾弾した。

今回の「ケンジの乱」(リマのテレビ「パナアメリカーナ」)を一層騒がしくしたのは、父親のフジモリ元大統領がケンジの助っ人として“参戦”したこと。大統領時代の人権侵害などで禁錮25年の刑に服し、収監中のフジモリ氏はツイッターで「なぜケンジが処分を受けねばならないのか」とFPの決定に不服をとなえ、「父親の釈放を求め、闘っている良き息子」とケンジ氏を徹底的に擁護。

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▲写真5:収監中のアルベルト・フジモリ元大統領 出典)twitter : @albertofujimori

ウマラ前大統領との面会についても「つらい状況にある前大統領のウマラ氏に敬意を示し、必要な手助けをしただけ」と、ケンジ氏の行動を全面的に支持した。名指しは避けながらも、暗にケイコ氏を非難したと受け取れる発言だ。

これに対しケイコ氏は、「党の規則は規則として守らなければならない」と強調する一方、今後も父親の釈放を求めて闘い続けるとし、FPの議員らには「団結し、規律に従って仕事にまい進しよう」と訴えた。

  • 父親の恩赦問題も微妙に絡む

 実はケイコ氏とケンジ氏の確執が伝えられたのは、これが初めてではない。昨年の大統領選の選挙戦略をめぐり、父親の強権政治イメージから脱却しようとするケイコ氏に対しケンジ氏が反発したほか、2021年の次期大統領選にケンジ氏が立候補の意向をほのめかしたことをケイコ氏が厳しくたしなめたとも伝えられた。今回の二人の確執の引き金になったとされるのは、今年4月に国会に提出された「刑事罰執行法」改正案。

 同法案は75歳以上の受刑者が残りの刑期を自宅で終えることを可能にするのが目的で、「実質的にフジモリ元大統領の自宅軟禁を想定したもの」(エル・コメルシオ)と受け取られていた。しかし、FPは「フジモリ元大統領は自宅軟禁ではなく、完全な自由となる恩赦が与えられるべき」との立場を崩さず、結局、同案は廃案に。

ペルーの政治アナリスト、カルロス・メレンデス氏は「ケンジ氏は廃案にしたFP指導部に強い不満を抱くとともに、ケイコ氏が父親の釈放に関心がないと判断、それ以降ケンジの反逆が本格化した」と指摘する。リマのマスコミの間では「ケイコはケンジの政治的発言力が増すのを恐れて、父親の釈放には消極的」との見方もチラホラ。

  • 次期大統領選出馬目指す?-ケンジ氏

 「現在のFP指導部の大半は、ケイコは過去2回の大統領選で決選投票まで進み、今や父親の影響力に頼らずに一本立ちしている政治家であり、“フヒモリスモ・シン・フヒモリ(フジモリなきフジモリ主義)”の指導者とみている」と指摘するのは、ペルー有力紙「ラ・レプブリカ」の元編集長のアレハンドロ・サクダ氏。同氏によれば、フジモリ元大統領は逮捕・服役から十年以上も政治の表舞台から離れており、FP党員の間でも「元大統領離れ」が急速に進んでいるという。

ペルー政界ではケンジ氏の最近の言動について「次期大統領選を視野に入れた政治的策略」との見方が取りざたされている。フジモリ家に極めて近いFPの党員は「ケンジは父親の全面的支援を得て2021年の大統領選への出馬をひそかに計画している」と明かす。この党員はさらに「アルベルト(フジモリ元大統領)は昔から4人の子供の中でケンジを一番かわいがってきた。自分の後継者としてはケイコよりケンジに期待しているはず」とも語っている。

7月28日のペルー独立記念日フジモリ元大統領は収監先の国家警察特別施設で79歳の誕生日を迎え、家族全員がお祝いに駆けつけた。しかし、ケイコ、ケンジ姉弟はそれぞれ別の時間帯に訪れたという。「ケンジの乱」がさらに拡大するのかどうか、今後のペルー政治の行方とも絡んで関心は増すばかりだ。

TOP画像:米国訪問したアルベルト・フジモリペルー大統領(当時) 1998年10月 Photo by Staff Sergeant Karen L. Sanders, United States Air Force

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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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