[遠藤功治]【スズキ一位復帰宣言のワケは軽自動車税】~軽自動車“S-D戦争”の真実 6~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
更に第3の要因として、今年3月末の軽自動車税の引き上げがあります。軽自動車税とは所有税であり、毎年3月末に、軽自動車の所有者が払う地方税です。現在は台当たり7,200円となっています。この税額が、今年から10,800円に跳ね上がることになっています。
僅か3,600円ですが、率では50%増と大幅です。所有税ですから毎年掛る税金であり、かつ地方では複数所有の場合も多く、軽自動車の本体価格に比較しても、その相対的な負荷の増加は見逃せません。結果、昨年末から税金引き上げ前の駆け込み需要が発生し始めていると考えられます。
ミソは、3月末までに届出をしておけば、4月以降も現在の税額で済む、ということです。当然のこととして、3月前に買おうとする人が多い、販社の方も、今のうちに自社登録をしておいて、その車を4月以降に一斉に新古車として販売する、という方向です。
前述しましたが、自動車販社の多くが赤字で苦しんでいます。販売ノルマを達成し、メーカーから販売奨励金を得ることで、ようやく一息つく、という販社が非常に多い。ある意味、新車を売っても利幅が少ないということの裏返しです。
自動車販社では、最近の傾向として、新車では利益が出ないので、それ以外の分野、例えば、中古車・車検・サービス・金融・保険などの分野で利益を上げようというところが多くなっています。新車を販売する時点では赤字かもしれないが、一旦保有してもらえば、その後に、車検や修理、定期点検や割賦・保険で利益を挙げるというビジネスモデルが成立する訳です。
ただ今期の軽自動車販売台数があまりに嵩上げされた結果、及び、軽自動車税引き上げの結果、来年度の軽自動車販売は相当落ち込むことが予想されます。今期比15%程度の減少となり、190万台前後まで落ち込むのではないでしょうか。
軽自動車メーカーにとってはまさに正念場、市場が落ち込む前に、まだ懐に余裕がある段階で販促をかけ、今のうちに1位のシェア復帰を達成する、そして市場低迷に備える、スズキのシェア1位宣言にはそんな背景もあったのかもしれません。
一部穿った人は、鈴木会長が86歳とご高齢で、会長・社長職からの引退も近い、その際に備えて有終の美を飾るのが1位シェア奪回だと見ているようです。
ただ1位・1位と数を追うことが評価されるかは別問題です。スズキ会長がシェア1位宣言をした翌日も、また12月の数値がまとまり、スズキが8年振りにシェア1位となることが分かった翌日も、株価は大幅に下落しました。
戦争の結果としての量追求ではなく、利益を中心とした質の追求の方が遥かに重要なのである、と市場は要求している訳ですが、現実問題として、このS-D戦争は、年度末に当たるこの1-3月に佳境を迎えそうです。
(了。このシリーズは全6回です)