日食に全米大興奮 不測の事態も!?
柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)
【まとめ】
・4月8日に北米で日食。49州ほとんどすべての場所で観測出来る。
・何百万人が日食を見ようと沿道に出て大渋滞が発生、不測の事態を招く可能性がある。
・全米に住む99%の人が日食を直に見ることが出来るという。
「400年に一度だけ同じ場所で発生し、4月8日、ニューヨークはその中心になる(Occurring in the same place only once every 400 years, New York State will be at the center of it all on April 8, 2024.)。」
これは「I LOVE NEW YORK(I ❤ NY)」キャンペーンを主催するニューヨーク州政府のサイトに書かれている説明だ。
日本では話題になっていないだろうが、来る4月8日に北米で日食が起こる。
こちらでは、良くも悪くも、今からそれがちょっとした騒ぎになっている。
今回の日食は、世界中でほぼ北米でしか観測できず、アメリカは、アラスカ州では一部にて、他49州では、ほとんどすべての場所で日食を直に観測することが出来るという、全米規模の天体ショーだ。
日食はハワイのはるか南、ポリネシアのあたりで始まりメキシコ、アメリカ、カナダの東海岸を抜けてヨーロッパに達する手前で終わる。
▲写真 4月8日の「日食の通り道」(ⒸNASA Visualization Studios)
そのうち、南のテキサス州からメイン州にかけての12州は皆既日食(太陽が月に完全に覆われる状態)の通り道に当たり、ニューヨーク州もその一つだ。
冒頭の「400年に一度」は皆既日食がニューヨーク州を通過することを指す。
4月8日が近づくに連れ、日食の話題が増えてきたように思う。
前回アメリカで日食が観測されたのは、比較的最近の2017年であった。
この時の日食は全米を西から東まで、文字通り横断する大天体イベントで、西海岸で始まった皆既日食は、8時間かけて東海岸で終わるまで、全米のネットワークTVで生中継され続け、大変なお祭り騒ぎ、全米を興奮の渦に巻き込んだ。アメリカ全土で観測された皆既日食としては99年ぶりということもあった。
▲写真 2017年8月21日、ニューヨークでの部分日食。この時のニューヨーク市での最大食率は71%(筆者撮影)
2017年の日食は記憶に新しい。記憶では、ただただ、お祭りだったと思う。だが、今回は同じく、皆既日食なのだが、何か、ちょっと様相が違う。
先日、日食を報じるメディアを見ていて驚いた。
日食の通り道にあたる多くの州で、当日の4月8日、学校を休校、もしくは生徒を昼前に下校させるところが多いというのだ。
何が起きているのか。
調べてみると、例えばテキサス州では当日、なんと「予告災害宣言」が出されていた。
日食が災害・・・・
テキサスでは郡単位で、食料とガソリンを備蓄しておくようにとの勧告がなされていた。皆既食率101.4%のダラスなども含め、何百万人の人びとが日食を見ようと沿道に出てくることが予想され、大渋滞が発生、不測の事態を招く可能性があるからとの判断であるという。
2017年の日食にはそのような報道はなかったと思う。
NASAのサイトによれば、前回2017年の日食と、今回の日食の大きな違いは「日食の通り道」にあるという。2017年の皆既日食は「ほぼ全部田舎を通過」したのに対し、今回の日食は「都市部を多く通過」する。
今回の皆既日食は、ざっと見ただけでも、ダラス、ヒューストン、シカゴ、インディアナポリス、デトロイト、クリーブランド、ニューヨーク市、ボストンなどの近郊、もしくはその都市そのものを通過、となっており、都市部では、予想し得ない混乱も考えられ、安全上の懸念があるという。
サイトによれば、前回と比べて、今回は一か所における太陽が欠けている時間も長い。
混雑する都市部で、皆が、いっせいに太陽を見るために上を向いている状態を想像すれば、交通事故や、安全上の懸念も理解できなくもない。都市部で暗くなった時を狙い、悪巧みを考えるものもいるかも知れない。
学校の休校判断は、日食の時間が学校の終業・下校時間と重なることもあり、生徒の安全を考慮した上の決定、というわけだ。これはテキサス州だけの決定でなく、他の11州でも同じく、休校とする自治体もかなりある。
しかしながら、他方、これら「日食の通り道」では、ここぞとばかりに「日食ビジネス」も盛んである。
次に、アメリカで皆既日食が観測できるのは2044年とのことで、この先、20年はアメリカで皆既日食は見られないことをウリに、現在、SNSなどではそれを根拠とした宣伝が溢れている。
ニューヨークでは冒頭の「I LOVE NEW YORK」のサイトなどで「ニューヨークで日食を見よう」と州外からの観光客の誘致にやっきである。しかし、ニューヨークに限らず、皆既日食の通り道にあたる風光明媚とされる田舎へ、瞬間的とは言え、一斉に観光客が押し寄せる可能性のあるオーバーツーリズムの懸念も指摘されている。
「ニューヨーク市」は、皆既日食の通り道からはやや外れているが、それでも当日は、最大91%まで欠けた太陽を観測することが出来る。
州政府は観光キャンペーンを兼ねて、ISO(国際標準化機構)の認証を受けた観測用メガネを、先月から無料で州内各所で配布し始めている。
▲写真 妻が「列に並んでゲットしてきた」というニューヨーク州公認の日食観測用メガネ。「I LOVE NEW YORK」キャンペーンの一環。配布は「1人2つまで」(筆者提供)
今回は、日食から一番遠いニューヨーク市でも日食率が91%と大きく、大丈夫と思って、普通のサングラスで太陽を見る、などしての日食を見ることによっての目への健康被害が予測され、州政府は認証を受けたメガネ以外は使わないように呼びかけているが、ネット上には怪しい安物の「観測用メガネ」が大量に売られている。
▲図 ネットで跋扈する「日食便乗」観測用メガネ。安価で売られそれぞれ「ISO(国際標準化機構)認証済み」の表記があるが、本当かどうかはわからない(筆者提供)
また、偽の「観測ツアー」や存在しない宿泊施設などへ誘導する詐欺にも十分注意するよう呼びかけている。
日食で休むのは学校ばかりではない。
ニューヨーク州に100店舗以上を構える大手スーパーはこの日、皆既食の通り道に当たる店舗では日食の時間帯の営業を取りやめるという。
従業員と、お客の安全を確保するための判断、かと思いきや、「皆既日食を経験する機会は一生に一度」。従業員全員で日食を見るために休む、とのことであった。(参考:Select Wegmans Stores Will Close for 30 minutes in Observance of the Solar Eclipse on April 8, 2024
ニューヨークの大手スーパー「Wegmans」のサイトより)
NASAによれば、2017年の日食を直接、またはネット、テレビで見た人は全米で2億1,500万人であった。その時は肉眼で日食を見ることができた人は限られていたが、今回は全米に住む99%の人が日食を直に見ることが出来るという。
今回、北米で日食が観測出来るのは4時間あまりだが、生涯の思い出に残るような、素敵な体験になることを願ってやまない。当日のニューヨークのお天気は良好、とのことである。
何も起きないことを願って。
(参照、引用)
https://www.newsweek.com/texas-official-warns-people-stock-food-ahead-solar-eclipse-1878477
(ニューズウィークから。テキサス州の勧告)
https://www.iloveny.com/events/eclipse-2024/
(ニューヨーク州政府「I LOVE NEW YORK」の日食特集サイト)
https://science.nasa.gov/eclipses/future-eclipses/eclipse-2024/
(NASAの解説サイト)
トップ写真: テキサス州オースティン ジルカー・パークで開催される音楽フェスティバルで日食を見る観客たち(2023年10月14日)出典:Erika Goldring/FilmMagic
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この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー
1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。