世論調査「政権交代望む」42%は岸田政権への拒否に等しい
安積明子(政治ジャーナリスト)
「安積明子の永田町通信」
【まとめ】
・自民党は4月4日に党紀委員会を開催、39人の国会議員の処分を決定。
・清和会内の特定グループに対して特に厳しい処分。
・「政権交代に期待する」との回答が世論調査で増加。現状の岸田政権への拒否と解することができる。
パーティー券をめぐる政治とカネ問題で、自民党は4月4日に党紀委員会を開催し、39人の国会議員の処分を決定した。
処分の対象となったのは、長期にわたり組織的かつ継続的に政治資金の不適切な処理を行ってきたとされる清和会と志帥会で、「幹部」と「過去5年間で500万円以上の不記載の議員」たちだ。安倍派では座長の塩谷立衆院議員と清風会会長の世耕弘成参院議員は「離党勧告」で、下村博文衆院議員、西村康稔衆院議員は「党員資格停止(1年)」、高木毅衆院議員は「党員資格停止(半年)」となった。
「離党勧告」は事実上のクビに等しい。自らが離党しなければ、除名処分(追放)にも処せられる。また「党員資格停止」も、処分期間に衆院選挙となると党の公認を得られず、比例区との重複立候補は不可能になり、許可されているビラやポスターの数、選挙で使用する車両の数などでも制約を受ける。
塩谷氏と世耕氏は派閥と参院派閥のトップとしての処分であり、下村氏と西村氏、高木氏は清和会事務総長としての処分になる。下村氏と西村氏に比べて高木氏の処分が軽いのは事務総長就任が2023年8月で、還付金廃止や復活をめぐる決定への関与が薄いと判断されたためだろう。
一方で志帥会事務総長の武田良太衆院議員や前事務総長の平沢勝栄衆院議員、清和会事務総長を務めた松野博一前官房長官らは「役職停止1年」で、清和会内の特定グループに対して特に厳しいことが見てとれる。とりわけあ「5人衆」のひとりとして清和会内で権勢をふるい、問題発覚時に政調会長を辞任した萩生田光一衆院議員には過去5年間で2728万円もの裏金が発覚しているにも関わらず、「党の役職停止(1年)」と軽い処分に抑えられた。ちなみに「離党勧告」の塩谷氏は過去5年間で234万円、「党員資格停止(1年)」の西村氏に至っては同100万円と、金額においては萩生田氏の10分の1にも満たない。
すでに政調会長を辞任して党の役職にない萩生田氏にとって、この処分は痛くも痒くもない上、現在就任している東京都連会長のポストは「党の役職ではない」と維持することが許された。
岸田文雄首相は3月17日の党大会で、「不記載額」「役職・議員歴」および「説明責任の果たし方」で処分の対象とするか否か、そしてその重さを判断する方針を発表した。しかしその結果は、自らが会長を務めた宏池会の収支報告書に約3000万円の不記載が発覚した岸田首相はもちろん、過去3年で志帥会のパーティー収入約1億3600万円の不記載や自身の収支報告書に3526万円の不記載が発覚した二階俊博元幹事長の名前がないなど、不平等感は否めない。もっとも二階氏は次期衆院選への不出馬を表明しており、それで「償った」とされているが、では岸田首相はどうなのか。
そもそも今回の処分の目的は、9月の総裁選狙いの「清和会潰し」と「自身の勢力拡大」があったのではなかったか。二階派の処分を極力軽くしたのも、総裁選への悪影響を考慮した結果ではなかったか。
また岸田首相をはじめ、麻生太郎副総裁などとも関係が良く、森喜朗元首相からもっとも可愛がられているといわれる萩生田氏への処分の軽さについても、総裁選との関連が伺える。「総理総裁を狙わない萩生田氏は利用できる」と見たわけだ。
9月の総裁選に向かって、着々と環境を整えつつある岸田首相。4月8日からの訪米の前に、「政治とカネ」問題に決着を付けたつもりだろう。だが28日には衆院補選が予定されており、自民党は長崎3区と東京15区で公認候補の擁立を断念。島根1区では故・細田博之前衆院議長の後継者が野党の候補に苦戦を強いられている。
さらには東京15区では、萩生田氏が次期衆院選での自分の命運を絡ませて、小池百合子東京都知事の思惑に乗っかろうとしている。「日本初の女性首相」が宿願の小池氏は、一時は15区出馬を考えたが、国政で唯一頼りにする二階氏が3月25日に次期衆院選に不出馬を表明すると、わずか3日後に乙武洋匡氏の擁立を発表した。
しかし同区内で3万票近くの組織票を有する公明党は乙武氏の過去のスキャンダルを理由に協力を拒否。一方で立憲民主党は昨年12月の区長選に出馬した酒井菜摘元区議を擁立しており、日本共産党もそれに乗る予定で、島根1区に続いて“野党共闘”が成功すれば次期衆議院選への弾みがつくことになる。
ANNが3月に行った世論調査では46%が「政権交代に期待する」と回答し、4月のJNNの調査でも42%が「政権交代を望む」と回答。いずれも「自公連立政権の継続を期待」を上回った。とはいえ、野党の支持率は高いとはいえないため、これは現状の岸田政権への拒否と解することができるだろう。
岸田首相は4月4日夜、記者団に自身の責任を問われ、「最終的には国民、党員に判断してもらう」と述べた。その判断は意外と早く、かつ厳しいものになるかもしれない。
トップ写真:「フォーミュラE」世界選手権を視察する岸田文雄首相(2024年3月30日 東京・有明)出典:Qian Jun/MB Media/Getty Images
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この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト
兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。