東急プラザ原宿「ハラカド」OPEN シジュウカラや蝶が住む広域渋谷圏
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・東急プラザ原宿「ハラカド」が4月17日にオープン。
・広域渋谷圏で生物多様性保全の取り組み。
・これからの街作りに必要なのは「ネイチャーポジティブ」への貢献。
ファッションの街、表参道。その表参道と明治通りが交差する神宮前交差点に、新たな商業施設、東急プラザ原宿「ハラカド」が4月17日にオープンした。
東急不動産が進める広域渋谷圏の1つのピースだ。広域渋谷圏とは、渋谷駅を中心に半径2.5kmのエリアを指す。すでに渋谷桜丘エリアの「Shibuya Sakura Stage」、代官山エリアの「Forestgate Daikanyama」が開業している。今回の「ハラカド」に、来年2月竣工予定の代々木公園エリアの「代々木公園Park-PFI計画」を加え、4つのプロジェクトがある。
▲図 広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)渋谷駅を中心とした半径2.5km 提供:東急不動産
その「ハラカド」の立地は、神宮前交差点の角という絶好の場所。対面には12年前に開業した東急プラザ表参道「オモカド」がある。「ハラカド」の屋上も緑に覆われているが、そこから「オモカド」の屋上のこんもりとした「おもはらの森」が臨める。初めて訪れた人は、都心のど真ん中にあって、想像以上に緑が多いことに驚くだろう。
▲写真 「ハラカド」7階屋上より「オモカド」を臨む。ⓒJapan In-depth編集部
しかも、歩いてすぐ近くのJR東日本「原宿」駅の隣には、明治神宮と代々木公園という広大な緑が広がっている。東京は意外にも緑が多いと言われるが、特にこの原宿・表参道エリアは緑が多いことで有名だ。
▲図 広域渋谷圏におけるエコロジカル・ネットワーク 提供:東急不動産
今回注目したのは、都市開発と生物多様性保全の関係だ。
■ 広域渋谷圏と生物多様性
東急不動産は、広域渋谷圏で周辺の緑地に住む生き物たちの中継拠点を目指している。大規模都市開発は生態系への影響が大きいことから、計画段階で周辺の生態系調査を実施し、生息する鳥類や昆虫類に配慮した植栽で緑化するなど、地域の生物多様性保全を進めている。
こうしたなか、同社では「都心のビルを、野鳥の止まり木にできないか」と考えたという。
東急プラザ表参道原宿「オモカド」屋上の「おもはらの森」は、いきものにとって代々木公園や明治神宮といった緑豊かな緑地と緑地をつなぐ、「エコロジカル・ネットワーク」の中継地点だ。シジュウカラや蝶などが生息しているほか、これまでになんと累計で鳥類22種、昆虫類151種が確認されている。建物緑化のインパクトが想像以上に大きいことがわかる。
▲写真 「おもはらの森」(上)と、シジュウカラの様子など(下) 提供:東急不動産
そしてとうとう、東京都市大学の北村准教授の助言のもと、鳥のニーズをくんだ住居(巣箱)まで開発してしまった。木材3種類×間取り3種類で計9種類を制作した。東急プラザ表参道原宿「オモカド」、東京都市大学キャンパス内、東急プラザ原宿「ハラカド」などに設置予定だ。
▲写真 今回開発した巣箱 提供:東急不動産
■ これからの街作りの方向性
これまでの都市開発で、エコロジカルな取り組みは、空調の効率化や、再エネの導入、それにビルの屋上や壁面の緑化などが主流だった。
しかし、昨今は生物多様性がより重要視されるようになってきた。東急不動産は2023年に、国内不動産業として初めて、自然環境の破壊リスクに関する枠組み「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:以下TNFD)レポート」を公開した。
その中で明らかにしたのは、広域渋谷圏で新規に開発したオフィスビルや商業施設39物件が、完成後に緑地の面積の割合が回復したり、植栽や鳥類の種類が増たりする、いわゆる「ネイチャーポジティブ」に貢献していることだ。
今回の鳥の巣箱のプロジェクトも、生態系に対するポジティブインパクトを増やすことになるだろう。
こうした取り組みはデベロッパーにとってはコストアップ要因にならないのだろうか。そんな疑問がわくが、東急不動産は、「住む」、「過ごす」、「働く」という都市の機能の魅力を高めるためには、むしろ自然の回復が不可欠だと考えているという。街の魅力が高まるということは、不動産の価値も上がるということだ。ただ単に街を再開発する時代は終焉を迎え、新たな次元に入ったということなのだろう。
実際、再開発の軸に緑化を軸に据えているデベロッパーは増えている。
森ビルが開発した麻布台ヒルズでは、約8.1haの区域に約2.4haの緑地を設けた。
▲図 麻布台ヒルズ(イメージ)出典:森ビル
たしかに緑豊かな広場があるのとないのとでは、そのビルから受ける印象は大きく異なる。また訪れたい、と人に思わせる何かが緑にはあると断言できる。
トンボやアゲハチョウなどを都心で見なくなって久しい。今後、加速する都心の再開発とともに、彼らが戻ってくることを願ってやまない。
トップ写真:東急プラザ原宿「ハラカド」ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。